進軍開始
進軍開始
夜明け。
霧が薄く立ち込める。
冷たい空気。
だが——
熱はある。
人の熱。
聖十三字軍。
整列。
旗が立つ。
白地に、刻まれた印。
神の象徴。
その下に——兵。
数。
圧倒的。
重装歩兵。
槍兵。
弓兵。
魔導兵。
その後方——
冒険者。
さらに後方——
ガリョウホースー。
そして中央。
聖女。
静かに、立つ。
軍団長が前へ出る。
声を張る。
「進軍開始!」
一斉。
足音。
揃う。
大地が震える。
規律。
統率。
人の軍。
それは——“力”だ。
森へ入る。
木々の間。
影が揺れる。
光がまだ浅い。
だが——進む。
迷いなく。
止まらず。
兵の一人が笑う。
「静かだな」
軽口。
別の兵が返す。
「逃げたんだろ」
「噂ほどじゃねぇな」
小さな笑い。
緊張を和らげる。
だが——
前列。
斥候。
止まる。
手を上げる。
「……」
無言の合図。
列が止まる。
波のように。
音が消える。
静寂。
軍団長が眉を寄せる。
「どうした」
斥候が低く言う。
「……音がない」
一拍。
「獣も、虫も」
沈黙。
風が吹く。
葉が揺れる。
だが——
それだけ。
鳥の声がない。
虫の羽音がない。
“森の音”が、ない。
軍団長の目が細くなる。
「……進め」
短く。
再開。
だが——
空気が変わる。
さっきまでの軽さが、消える。
冒険者の一人が呟く。
「なんだこれ……」
別の者が返す。
「気にしすぎだ」
だが声は硬い。
ガリョウホースー。
後方。
チシャが前を見る。
「……妙だね」
コースイが小さく頷く。
「ああ」
ジシレは笑わない。
「静かすぎるね」
コーゲンは——
すでに消えている。
誰も気づかない。
影。
木々の上。
風と同化する。
視る。
地面。
痕跡。
削られた草。
均された土。
(……整備されている)
一拍。
視線が上がる。
枝。
切られている。
不自然に。
視界が——通る。
(見える)
森の奥。
遠くまで。
一直線に。
(……道だ)
戻る。
音もなく。
隊列へ。
現れる。
何もなかったように。
チシャが一言。
「どうだ」
コーゲン。
短く。
「……見られている」
沈黙。
コースイが眉を寄せる。
「気配は?」
「ない」
一拍。
「だが——視線はある」
ジシレが小さく呟く。
「やだなぁそれ」
チシャが前を見る。
軍。
止まらない。
進む。
圧で押す。
それが人の戦い方。
だが——
森は、応えない。
沈黙。
ただ、開けていく。
削られた木。
均された地面。
見通しのいい空間。
まるで——
迎え入れるように。
軍団長が低く言う。
「……警戒を上げろ」
号令。
即座に伝播。
盾が上がる。
槍が構えられる。
魔力が練られる。
だが——
何も来ない。
静か。
ただ進む。
その中央で。
聖女が目を閉じる。
祈るように。
だがその唇が、わずかに動く。
「……整っています」
誰にも聞こえない声。
そして——
森が、途切れる。
視界が開ける。
その先に——
あった。
囲い。
木で組まれた、防壁。
高台。
見張り台。
整然とした構造。
“村”ではない。
誰もが理解する。
「……」
言葉が出ない。
軍団長が呟く。
「これは……」
チシャが小さく言う。
「……拠点じゃない」




