聖戦
宗教国家カルトマイコン。
大聖堂前広場。
白い石畳。
床を覆うほどの人。
整列。
鎧の擦れる音。
旗がはためく。
聖印。
祈り。
熱。
中央。
高台。
その上に——
聖女。
ジャソス=ダラク。
静寂が落ちる。
一瞬で。
声が消える。
彼女が手を上げる。
それだけで——
五千の軍が止まる。
「皆様」
柔らかい。
だが——遠くまで届く。
「我々は進みます」
「不浄なるオーガを討ち正義を通すために」
ざわめき。
だが——すぐに静まる。
視線が全体を見渡す。
「まず、皆様に彼らの非道を知っていただきたい」
声が少し低くなる。
空気が変わる。
「ルインズ王国王国軍、並びに冒険者総勢一万が進軍しました」
沈黙。
「結果は——」
静かに。
「壊滅的被害」
ざわめきが走る。
「情報がなかった、備えがなかった、ゆえに——倒れた」
目を伏せる者もいる。
「今なお、彼らは傷に苦しんでいます」
顔を上げる。
「それだけではありません」
「不平等な条約」
「権利の軽視」
「人としての尊厳すら——踏みにじられている」
怒りが広がる。
「オーガのリーダー、百の兵で囲んでも——倒れない」
「魔法ではない魔、理解不能な力」
一歩。
「エルフ領では——力での支配」
「山に穴を穿ち、自然すら歪める」
声が強くなる。
「これは——何でしょうか」
一拍。
「共存できますでしょうか」
「違います」
断言。
「侵食です」
空気が震える。
「ですが」
声がやわらぐ。
「恐れる必要はありません」
静かに手を広げる。
「我々一人ひとりは小さい」
「ですが——」
一拍。
「神が共にある」
光が差す。
まるで演出のように。
「私は、ここにいる皆々様すべてに神の奇跡を授けます」
どよめき。
歓喜。
「どうか怪我なく、迷いなく、悪しき魔族を討ってください」
手を胸に当てる。
一瞬の間。
「さらに、S級冒険者ガリョウホースーの皆様が協力してくださいます」
爆発するようなざわめき。
「あの無敗の……!
「勝った……!」
「神は我らにあり!」
熱が一気に上がる。
聖女は続ける。
「我々が道を切り開き、戦力を削ぎ、リーダーを引き出す」
「私がその奇跡を全力で支えます、その時——彼らが討つそして」
静寂。
そして——
「世界に平和を」
その一言。
爆発。
「神に感謝を!!」
「聖女様に栄光を!!」
「人類に光を!!」
剣が掲げられる。
槍が鳴る。
祈りが空を満たす。
——その後。
兵たち。
各々が動く。
剣を研ぐ。
祈る。
仲間と語る。
「五日後か……」
「やってやる」
「家族のために」
「神のために」
教会。
信者。
支援物資。
祝福。
送り出す声。
背中を押す。
誰もが——勝つと信じている。
——別室。
静か。
重い扉の奥。
枢機卿。
ウヒシミエ=ミヒエビ。
一人。
椅子に座る。
指を組む。
「……五千」
小さく呟く。
「足りる」
一拍。
「削れる」
視線が細くなる。
「ガリョウホースーで頭を落とす」
口元が歪む。
「その後は——」
指で机を叩く。
「管理」
「支配」
「資源」
「技術」
一つずつ。
積み上げる。
「悪くない」
ふ、と笑う。
だが——
止まる。
「……もし」
一拍。
「崩れた場合」
沈黙。
指が止まる。
「その時は——」
視線がゆっくり動く。
「聖女を——」
言葉は最後まで出ない。
だが——
十分。
その時。
扉が叩かれる。
コン。
「……入れ」
すぐに顔が変わる。
柔らかく。
敬虔に。
扉が開く。
兵が頭を下げる。
「枢機卿様」
「騎士団長オーレナイ様が面会を」
一瞬。
沈黙。
そして——
「通しなさい」
姿勢を正す。
完璧な顔に戻る。
——入室。
オーレナイ。
まっすぐ立つ。
傷は癒えていない。
だが——目は生きている。
「……枢機卿様」
礼。
最小限。
「今回の出兵」
一拍。
「取りやめてください」
空気が止まる。
だが——枢機卿は微笑む。
「今が機会なのです」
穏やかに。
「人類を救うため神が与えた試練」
一歩。
近づく。
「あなたは疲れている」
優しい声。
「無理もありません」
「過酷な任務でした」
「あなたは——見た」
一拍。
「だからこそ恐れている」
言葉が刺さる。
「ですが」
首を横に振る。
「それは“恐れ”です」
「判断ではない」
静かに。
確実に。
「ここは彼らに任せましょう」
一拍。
「あなたのご両親のことも」
「心の枷になっている」
オーレナイの瞳が揺れる。
「心頭を滅却し」
「神に祈りなさい」
締める。
だが——
オーレナイは下がらない。
「違います」
強く。
「彼らは——」
息を吸う。
「話せます」
一歩。
踏み出す。
「交渉が可能です」
「あれは……」
言葉が詰まる。
それでも——
「敵ではない」
沈黙。
枢機卿の笑みがわずかに固まる。
だがすぐ戻る。
「……もうよい」
軽く手を振る。
「彼女は疲れている」
兵へ。
「休ませなさい」
命令。
オーレナイが睨む。
「私は——」
「自分で歩けます」
静かに。
だが——強い。
誰の手も借りず。
踵を返す。
扉へ。
開く。
光。
そのまま——出る。
閉まる。
静寂。
枢機卿はしばらく動かない。
やがて。
小さく呟く。
「……信仰が薄れてきましたね」
何に対してか。
誰にも分からない。
だが——
進軍は止まらない。
五日後。
正義は——押し寄せる。




