報告
オーガ村。
夜明け前。
まだ空は暗い。
だが——村は、静かではない。
戻ってくる足音。
速い。
引きずるような音が混じる。
血の匂い。
鉄の匂い。
焦げた匂い。
戦の残滓が、空気に残っている。
トンネル班。
ドワーフ国周辺警戒班。
魔物討伐班。
王国駐在班。
視察班。
全てが——戻る。
そして。
現実を、見る。
倒れた仲間。
運ばれる負傷者。
腕を失った者。
肩から先が、ない。
布で巻かれている。
だが——染み出る血。
「……」
誰も、最初は言葉を出せない。
だが。
一つ、漏れる。
「……誰だ」
低く。
押し殺した声。
それが——火種になる。
「見張りは何してた」
「高台からみてたんだろうが」
「気づくの遅すぎだろ」
「侵入許してんじゃねぇか」
空気が荒れる。
「……強さが異常だ」
別の声。
震えている。
「速すぎる」
「見えなかった」
「魔法も……」
言葉が詰まる。
「……あれは、人間か?」
沈黙。
だが——すぐに否定が飛ぶ。
「武器だ」
ナイザーの部下。
歯を食いしばる。
「あの刃、普通じゃねぇ」
「こっちの武器と同等、向こうは……」
拳を握る。
「切られる」
「削られる」
「押し切られる」
メントの部下も吐き出す。
「魔法もだ」
「火も雷も氷も来た」
「直撃は避けたが……」
歯が鳴る。
「数発で限界だ」
「継戦能力が違う」
「……あれは連携前提の攻めだ」
空気が荒れる。
怒り。
恐怖。
理解できないものへの拒絶。
「王国に照会を取れ」
誰かが叫ぶ。
「こんな連中、ただの冒険者じゃねぇ」
「情報があるはずだ!」
「いや——復讐だ」
別の声。
荒い。
「追うぞ」
「今なら数も揃ってる」
「逃げ切ったとは思うなよ」
さらに。
「情報が漏れてる」
静かな声。
だが——重い。
「タイミングが良すぎる」
「手薄な時を狙われた」
「内部だ」
「情報を漏らしたやつがいる」
ざわめきが膨らむ。
穏健派。
様子見。
過激派。
一気に——割れる。
二本角ディスナイズ
「……このままだと」
「内側から崩れる」
沈黙。
誰も否定できない。
その時——
足音。
静か。
だが——重い。
全員の意識が、そちらへ向く。
ヴォイド。
状況を、一瞥する。
負傷者。
血。
崩れかけた空気。
すべてを——見る。
一歩、前へ。
誰も口を開かない。
開けない。
ヴォイドが、言う。
「……我々は」
「……家族だ」
それだけ。
だが——
空気が、止まる。
怒りが。
疑いが。
一瞬で——切断される。
「……」
誰も、続けない。
続けられない。
その言葉は。
理屈ではない。
命令でもない。
だが——
絶対だ。
怒りだ。
ヴォイドは、それ以上言わない。
背を向ける。
去る。
それだけ。
残された者たち。
沈黙。
そして——
一人が、息を吐く。
「……ああ」
それで、十分だった。
方向が——揃う。
「……やることは一つだ」
ナイザーが前に出る。
声は低い。
だが——揺れていない。
「見つける」
メントが続く。
「次は逃がさねぇ」
短く。
確実に。
空気が締まる。
バラバラだった意識が——束ねられる。
その上で。
ナイザーが、状況を整理する。
「被害報告」
一拍。
「戦闘民、負傷十以上」
「うち六名、腕・手の損傷」
沈黙。
重い。
「再生は……無理だ」
誰も目を逸らさない。
現実として受け取る。
メントが続ける。
「非戦闘民は無事」
「鐘で避難」
「訓練通りだ」
頷きが広がる。
「そこは問題ねぇ」
だが——
ナイザーの声が変わる。
少しだけ、低くなる。
「問題は戦闘民だ」
沈黙。
「慢心があった」
言い切る。
誰も反論しない。
できない。
「逃がすまいと囲った」
「結果、動きが止まった」
「回転が死んだ」
メントが補足する。
「魔属石の武器も振れなかった」
「巻き込むからな」
一拍。
「連携は守った」
「だが——攻めきれない」
ナイザーが続ける。
「相手はそれを見てた」
「削って、離れて、削って」
「致命を取らない」
「崩すための動きだ」
沈黙。
誰もが思い出している。
あの戦い。
違和感。
「……どうする」
誰かが言う。
短く。
本質だけ。
ナイザーは答えない。
メントも。
全員が——考える。
その時。
足音。
再び。
ヴォイドが戻る。
今度は——止まらない。
そのまま、中央へ。
そして。
刀を地面に刺す。
そして。
立つ。
静かに。
だが——
全員が理解する。
「……」
空気が張り詰める。
次の一手。
それを——
示す存在。
ヴォイドが、顔を上げる。
——次が、決まる。




