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血の匂い

オーガ村。


中央。


静かだ。


先ほどまでの戦闘の余韻だけが、残っている。


焦げた土。

抉れた地面。

血の匂い。


その中心で——


ヴォイドが立っている。


動かない。


視線だけが、ゆっくりと動く。


倒れているオーガ兵。


腕を失った者。

手から先を失った者。

息はある。


だが——重い。


周囲には、仲間たち。


誰も、声を出さない。


空気が——張り詰めている。


ナイザーが一歩前に出る。


「……すまねえ」


短く。


ヴォイドは、反応しない。


メントも続く。


「俺らが遅れた」


言い訳はしない。


ただ事実を置く。


沈黙。


ヴォイドが、ゆっくりとしゃがむ。


倒れている一体の腕に触れる。


血が、手につく。


少しだけ——


それを見る。


「……治るか」


ぽつり。


ナイザーが答える。


「完全には……無理だ」


一瞬。


間が空く。


ヴォイドの手が止まる。


ほんの、わずか。


それだけ。


立ち上がる。


顔は変わらない。


だが——


空気が、変わる。


温度が落ちる。


「……そうか」


それだけ。


振り返る。


全員を見る。


視線が、順に通る。


逃げる者はいない。


逃げられない。


「敵は」


短く。


ナイザーが答える。


「人間だ」


「四人」


「強い」


一拍。


「だが——殺せる」


ヴォイドは、何も言わない。


ただ、聞く。


メントが続ける。


「連携してた」


「魔法も使う」


「装備もいい」


ジシレたちの姿を思い出している。


ヴォイドは——


ゆっくりと、頷く。


「……そうか」


それだけ。


沈黙。


誰もが、次の言葉を待つ。


怒号か。

命令か。

報復か。


——来ない。


代わりに。


ヴォイドが言う。


「…ルールを変える」


一言。


その場の空気が、凍る。


「…これから——」


視線が上がる。


村全体を見る。


「武器は、常時装備」


「例外なし」


ナイザーの眉が動く。


だが——何も言わない。


「…見張り」


「…非戦闘個体は禁止」


「…全部、戦闘基準で配置」


メントが息を吐く。


「……だろうな」


「回復班」


「前に出すな」


「後ろで固定」


短い。


だが——的確。


「鐘」


「鳴ったら——」


一拍。


「逃がすな」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が、さらに重くなる。


殺意ではない。


排除。


ただそれだけの意志。


ヴォイドが、少しだけ首を傾げる。


「……来るなら」


静かに。


「…全部、殺す」


それだけ。


声は小さい。


だが——


誰一人として、軽く受け取らない。


“できる”と、全員が知っている。


沈黙。


その中で。


ヴォイドが、ふと周囲を見る。


「……あと」


一拍。


「…なんで気づかなかった?」


その一言。


ナイザーも。

メントも。


言葉を失う。


責めているわけではない。


だが——逃げ場がない。


ナイザーが、歯を噛みしめる。


「……慢心だ」


認める。


ヴォイドは、少しだけ考える。


「……そうか」


それだけ。


怒らない。


責めない。


だが——


それが一番、重い。


振り返る。


歩き出す。


止まらない。


村の奥へ。


誰も、止めない。


止められない。


メントが、小さく呟く。


「……やべえな」


ナイザーが頷く。


「ああ」


一拍。


「今の、マジでキレてる」


ユリが小さく言う。


「全然怒ってないのに……」


ナイザーが低く返す。


「違う」


「怒ってるわけじゃない」


一拍。


「切り替えたんだ」


沈黙。


その意味を——全員が理解する。


これは、感情ではない。


“判断”だ。


そして。


その判断は——


容赦がない。


遠くで。


ヴォイドが、止まる。


空を見る。


ほんの少しだけ。


目を細める。


「……めんどくさいな」


ぽつり。


その一言だけが——


やけに、人間らしかった。

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