依頼確認
宗教国家ギルド・特別室
扉が閉まる。
外界の喧騒が、断ち切られる。
静か。
だが——緊張は濃い。
室内。
円卓。
その周囲に——四人。
ガリョウホースー。
誰もが知る名。
無傷無敗。
達成率、百。
その空気は——静かだ。
誇示はない。
だが——隙もない。
一人が口を開く。
チシャ。
前衛。
剣士。
椅子に浅く座り、指を組む。
視線はまっすぐ。
「依頼内容を明確に」
柔らかい声。
だが——圧がある。
職員がわずかに息を呑む。
「今回の依頼は——枢機卿様直々の」
「それは聞いてる」
被せる。
穏やかに。
だが——逃がさない。
「問題は“何をどこまでやるか”だ」
一拍。
「達成条件を曖昧にされると困る」
空気が引き締まる。
プロ。
それだけで伝わる。
「……失礼しました」
職員が姿勢を正す。
資料を差し出す。
だが——
その瞬間。
「不要」
低い声。
円卓の端。
影のように座る者。
コーゲン。
斥候。
性別不明。
顔すら曖昧。
「情報は揃っている」
職員の手が止まる。
「……は?」
コーゲンは動かない。
ただ——言葉だけが落ちる。
「対象はオーガ集落」
「王国西方、山岳地帯奥」
「構成数、およそ百前後」
「指揮個体あり」
一拍。
「異常個体と同個体」
空気が変わる。
職員の目が見開く。
「魔法ではない」
「だが、魔法のような現象を行使」
「爆発的推進力」
「環境干渉」
「個体名——ヴォイド」
沈黙。
「暗殺者サタモ」
一拍。
「接触、失敗」
「一方的に排除」
職員の喉が鳴る。
「……なぜ、それを」
コーゲンは答えない。
続ける。
「現時点で被害なし」
「敵対行動、確認されず」
「ただし——」
一拍。
「王国側、接触」
「貴族ボーダイ家」
「討伐失敗」
「壊滅」
静寂。
事実だけが並ぶ。
感情はない。
評価もない。
ただ——現実。
チシャが小さく息を吐く。
「十分だ」
視線を上げる。
職員へ。
「で?」
本題。
「依頼内容は」
職員は慌てて資料を開く。
「は、はい」
「前金、金貨二百」
「成功報酬、四百」
空気がわずかに動く。
だが——誰も反応しない。
金額では動かない。
内容次第。
「任務は三段階」
「第一に——偵察」
「村の構造、戦力、行動パターンの把握」
「第二に——攪乱」
「隙を見て、個体の間引き」
「証拠を残さず」
「敵対の認識を曖昧に」
一拍。
「第三に——」
言葉を選ぶ。
「後続戦力への協力」
「聖十三字軍の進軍時」
「情報提供および指導」
沈黙。
チシャが顎に手を当てる。
考える。
早い。
「要するに」
短くまとめる。
「削って、混ぜて、導けってことか」
「は、はい」
職員が頷く。
チシャは視線を横へ流す。
「どう思う」
問い。
まず——
コースイ。
後衛。
魔導師。
長い髪を払い、微笑む。
「問題ないわね」
軽い。
だが——根拠がある。
「オーガは魔力が薄い」
「つまり——魔法耐性が低い」
指を弾く。
小さな光。
「囲まれても二、三体なら同時処理可能」
「範囲制圧で崩せる」
次に——
ジシレ。
ハーフエルフ。
小型弓。
にこっと笑う。
「いいよー」
軽い。
「ちょうど新しい武器試したかったし」
矢をくるりと回す。
「バフも回復も任せて」
「持久戦でも問題なし」
最後に——
コーゲン。
沈黙。
だが——一言。
「夜なら入れる」
それだけ。
だが十分。
侵入。
暗殺。
離脱。
すべてを含む。
チシャが頷く。
「オーガ単体なら俺で足りる」
静かに言う。
事実として。
誇りではない。
「全員揃えば——脅威じゃない」
断定。
過去。
十数体規模のオーガ撃退。
強敵の殲滅。
経験が裏付ける。
“昔のオーガ”なら。
その前提に——
誰も疑問を持たない。
チシャが立つ。
「受ける」
即決。
職員が安堵する。
「ありがとうございます!」
チシャは手を出す。
「金」
端的。
職員が慌てて袋を差し出す。
重い。
だが——
チシャは一度も中を見ない。
信頼ではない。
確認不要なだけ。
「準備に入る」
振り返る。
仲間たちへ。
「装備、見直し」
「対環境装備も持つ」
「長期潜入前提で動く」
コースイが頷く。
「魔力配分調整しとく」
ジシレが笑う。
「矢、補充しなきゃね」
コーゲンは——
すでにいない。
気づけば消えている。
チシャが軽く息を吐く。
「いつも通りだ」
それだけ。
四人が動く。
迷いなく。
無駄なく。
確実に。
成功を前提として。
その背を——
職員は見送ることしかできなかった。
(これが……)
喉が乾く。
(人間の、頂点)
だが——
まだ誰も知らない。
この“完成形”が。
何に挑もうとしているのかを。




