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正義

聖統教国カルトマイコン・大聖堂


鐘が鳴る。


低く。

長く。


街全体に響く音。


人々が足を止める。

頭を垂れる。


祈りの時間。


その中心——


神殿内部。


白。


どこまでも白い空間。


柱。

床。

壁。


すべてが整いすぎている。


感情を削ぎ落とすための構造。


その中に——人が集まっている。


信者。


跪き、祈る。


前方。


壇上。


司祭が語る。


「我らは神の御手の中にある」


静かに。

穏やかに。


だが——


言葉は強い。


「恐れることはありません」


「迷うこともありません」


一拍。


「なぜなら——すべては導かれているからです」


空気が落ち着く。


信者たちの呼吸が揃う。


安心。


依存。


その状態を——


作り出している。


やがて。


説法が終わる。


信者が去る。


静かに。


だが——


残る者たちがいる。


司祭以上。


選ばれた者たち。


扉が閉まる。


外界と切り離される。


空気が変わる。


一人が口を開く。


「……報告を」


低い声。


すぐに資料が回る。


紙。


記録。


証言。


そして——


「オーガの件です」


空気が、わずかに張る。


「王国における騒乱」

「貴族の失脚」

「地下通路の構築」


一枚。


また一枚。


「エルフ領における異変」


「ダークエルフとの接触」


「世界樹問題の一時的収束」


沈黙。


誰も軽く扱えない。


「……事実、なのか」


誰かが呟く。


「確認済みです」


短く返る。


「複数経路から一致」


「騎士団長の報告とも整合」


空気が、重くなる。


別の司祭が言う。


「……ありえない」


「数千インフィードイルの掘削を短期間で?」


「山を貫通?」


「雪崩制御?」


言葉に出すほど——


現実味が消える。


だが。


否定はできない。


「……脅威、ですな」


誰かが吐く。


その時。


扉が開く。


音もなく。


全員が立つ。


一斉に。


視線が集まる。


枢機卿。


ゆっくりと歩く。


一歩。


また一歩。


微笑んでいる。


優しく。


穏やかに。


だが——


その目は、冷たい。


底がない。


「皆さん」


声が響く。


柔らかい。


だが、逃げ場がない。


「不安は、理解しています」


一拍。


視線が一人一人をなぞる。


「未知の存在」


「理解不能な力」


「制御不能な行動」


頷く。


まるで共感しているように。


「恐ろしいことでしょう」


沈黙。


全員が飲み込まれる。


「ですが」


一拍。


「それでも——我々は変わりません」


言い切る。


「神に仕える者として」


「なすべきことは一つです」


静かに。


確実に。


「民を守ること」


空気が動く。


「現在」


手を軽く上げる。


「騎士団長からの報告」


「オーガ村周辺の情報」


「ドワーフ国からの布教使の報告」


指を折るように。


整理する。


「これらすべてから——」


一拍。


「オーガ側の“手数”は減っています」


ざわめき。


「主力が外に出ている」


「防衛は簡素」


「巡回も減少」


「明らかな——隙」


その言葉に。


空気が変わる。


だが——


すぐに枢機卿は首を振る。


「しかし」


柔らかく。


「我々が武を振るうことはありません」


一瞬、安心が広がる。


その直後——


「ですが」


声が低くなる。


「この世界には」


一歩、踏み出す。


「恐怖に怯える民がいます」


「不安に押し潰される者がいます」


「血を流し」


「涙を流し」


「助けを求めている」


声が強くなる。


「どれほどの無辜の民が!」


「どれほどの未来が!」


空気が震える。


「失われれば気が済むというのか!!」


誰も動けない。


「この不平等な浮世においても——」


拳を握る。


「差し伸べられる正義はあると!」


「示しましょう!!」


熱。


狂気。


だが——


それは“正義”の形をしている。


「この手が!!」


「この足が!!」


「穢れた血に濡れようとも!!」


一拍。


静寂。


「罪なき国民の明日は——」


低く。


強く。


「我々が守る!!」


沈黙。


そして——


「そのために」


声が戻る。


穏やかに。


「協力者がいます」


一人が息を呑む。


「S級パーティー」


間。


「——ガリョウホースー」


ざわめきが爆発する。


「無敗……!」


「成功率、百……!」


「聖女様とも繋がりが——」


止まらない。


枢機卿は微笑む。


「彼らには」


静かに。


「村周辺での“調整”を依頼します」


言葉を選んでいる。


だが——意味は明確。


「戦闘、調査、あわよくば戦闘指揮」


「関係を構築し」


「いずれ——導く」


一拍。


「その間に」


視線が鋭くなる。


「我々は防衛を固める」


「国力を整える」


「盤石にする」


そして——


「知性ある存在は」


低く。


「必ず内から崩れる」


静かに断言。


「時間をかければ」


「不和は生まれる」


「疑念は広がる」


一歩。


「そこを——」


「聖女を先頭に」


「聖十三字軍が——討つ」


完全な沈黙。


だが。


次の瞬間——


爆発する。


「神の導きだ……!」


「これは聖戦……!」


「守らねば……!」


「動け……!」


熱狂。


誰も疑わない。


疑えない。


すでに——


“正義”は完成している。


枢機卿はそれを見て——


わずかに。


口角を上げた。


ほんの少しだけ。


誰にも見えない角度で。


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