沈黙の謁見
捕まった冒険者たちは、
引きずられるようにして森の奥へと連れていかれた。
縄のようなもので縛られている。
だが——抵抗はなかった。
できなかった。
連れていかれた先。
そこは、開けた場所だった。
地面は踏み固められている。
ただ踏み荒らされたものではない。
均されている。
整えられている。
意図がある。
そして——奥。
皮を張った構造物。
家のようなもの。
その手前に——
オーガたちが並んでいた。
左右に。
壁のように。
一切、動かない。
一切、喋らない。
ただ——見ている。
その視線だけで、空気が沈む。
呼吸が、重くなる。
中央。
一段高い場所。
そこに——いた。
大きい。
他と比べても、わずかに。
だが、それ以上に——
“静かすぎる”。
片膝を立て、肘を乗せている。
無造作。
隙だらけに見える姿勢。
だが——
動けない。
近づけない。
視線を外せない。
「……なんだよ、あれ」
誰かが、かすれた声で呟く。
答える者はいない。
だが全員が理解する。
——あれが、中心だ。
一体のオーガが前に出る。
「……こちらが、長だ」
低く告げる。
その一言だけで——空気が変わる。
視線が集まる。
すべてが、中央へ。
王と呼ばれたそれは、何も言わない。
ただ——見ている。
冒険者のリーダーが、前に押し出される。
膝をつく。
震えている。
歯が鳴る。
それでも、絞り出す。
「お、俺たちは……偵察任務で……その……敵対の意思は、ない……!」
喉が引きつる。
「情報を確認して戻るだけで……交渉も……できる……!」
必死に言葉を繋ぐ。
だが——
届いていない。
届く気配がない。
その瞬間。
ぐらり、と身体が揺れた。
後ろの仲間が驚く。
「……は?」
支えきれない。
前のめりに——倒れる。
泡を吹く。
白目。
呼吸が乱れる。
「お、おい……!?」
仲間が声を上げる。
だが、反応はない。
意識が——落ちている。
理由は、わからない。
傷もない。
だが——立てない。
その場にいるだけで、削られていく。
理解できない圧。
沈黙。
その中で——
一人が、壊れた。
後方にいた魔法使いの女。
「ま、待って待って待って待ってお願いお願いお願い殺さないで殺さないで殺さないで!!」
言葉が溢れる。
止まらない。
「私たち敵じゃないからほんとにただの確認で来ただけで報告すれば帰るだけでだから意味ないから殺しても意味ないからほんとにお願いだからやめて!!」
呼吸が崩れる。
涙と唾が混じる。
「ここで私たち死んだら絶対おかしくなるから追跡来るから上が動くからS級も来るし軍も来るし国も動くから本当にやめた方がいいから!!」
早口。
止まらない。
「言うから全部言うから拠点も人数もルートも全部言うからだからお願いだから見逃してお願いお願いお願いお願い——!!」
声が掠れる。
それでも止まらない。
他の二人。
言葉が出ない。
口が開いたまま。
視線が定まらない。
震えが止まらない。
一人は、笑っていた。
乾いた、意味のない笑い。
もう一人は——
何も見ていない。
ただ、焦点の合わない目で空を見ている。
壊れ始めていた。
だが——
誰も止めない。
遮らない。
オーガたちは、ただ見ている。
王も——見ている。
そして。
空気が、わずかに変わる。
中央。
王の肩が、わずかに動く。
視線が、持ち上がる。
それだけで——
すべてが、止まる。
音が消える。
呼吸すら、遅れる。
静寂。
一瞬。
「……見たい」
小さな声。
短い。
それだけ。
だが——
意味が、重い。
冒険者たちは理解できない。
だが——
オーガたちは違う。
「……」
一拍。
「御意」
低く、揃う。
その瞬間——意味が確定する。
外を見る。
敵を知る。
世界を知る。
すべてが、その一言に集約される。
次の瞬間。
縄が、解かれる。
「……え……?」
手首の拘束が消える。
武器が、目の前に置かれる。
剣。
杖。
防具。
一式。
だが——
別に分けられたものがある。
ピッケル。
のこぎり。
金属器。
それらは、返されない。
オーガの手に渡る。
一人が、反射的に口を開く。
「……それ……」
言いかけて、止まる。
理解する。
“返す・返さない”ではない。
必要か、不要か。
それだけだ。
価値の基準が——違う。
オーガたちが動く。
冒険者たちを囲む。
だが——敵意はない。
押す。
誘導する。
森の外へ。
逃がすために。
その途中。
一人が振り返る。
皮で作られた巨大な幕。
風に揺れている。
“村”の境界。
その奥。
——長がいる。
視線が合う。
一瞬。
本能が叫ぶ。
——見るな。
逸らす。
誰も何も言わない。
そのまま——解放された。
冒険者たちは、生きて帰る。
だが——
理解していた。
あれは、もう——
狩る対象ではない。
別の何かだ。
そして。
残されたオーガたち。
手にした金属を見ている。
重い。
硬い。
加工されている。
叩く。
音が鳴る。
「……」
誰も言わない。
だが——共有される。
足りない。
これでは、届かない。
あの武器。
あの防具。
あの精度。
必要だ。
王の一言は——
すでに、次へ進んでいる。
(……人間いるんだ)
(……人間の生活、少し見てみたいなぁ)




