接触
灰色の海。
波は低い。
だが——空気は重い。
大型船が、静かに着岸する。
異様な速度で来たその船を引き連れて。
ダークエルフの監視が捉えていた。
「……来たか」
低く。
岸で待つ影。
同族。
船が止まる。
女船長が、降りる。
その背後——
オーガ三体。
ヴォイド。
ナイザー。
メント。
さらに——
敵対するエルフが一人。
拘束は解かれたが、武装を奪われた騎士たち。
ヴァレリアもいる。
だが——
剣はない。
守りもない。
ただ、見るしかない。
ダークエルフの地上部隊が近づく。
短い会話。
耳打ち。
報告。
そのまま——
案内。
「長のもとへ」
ダークエルフ領・ツリーハウス
巨大な樹。
その上。
組まれた足場。
枝と根を編み込んだ居城。
中央。
座す。
長。
細く弱々しいダークエルフの老人。
だが——圧がある。
視線が、落ちる。
ヴォイドへ。
そして——女船長へ。
「……厄介なものを連れてきたな」
低く。
責める声。
女船長が舌打ちする。
「向こうが勝手に首を突っ込んできたんだ」
指を床につきさし。
「ここを血の海にしないために——」
一拍。
「頭使っただけだ」
睨み返す。
長は——わずかに目を細める。
そして。
「……その通りだ」
短く。
認める。
「我らは、無駄な争いはしない」
一拍。
空気が締まる。
「だが——」
視線が鋭くなる。
「誇りを侮辱された時は」
静かに。
「命をかける」
その言葉が——場を支配する。
沈黙。
誰も軽口を叩かない。
その中で。
長の視線が、再びヴォイドへ。
測る。
量る。
理解しようとする。
(……異質)
だが——
何も言わない。
横で。
エルフの使者が、一歩前へ出る。
疲弊している。
だが、声をかける。
「……ヴォイド殿」
声は弱い。
だが——必死。
「次は、どうされますか」
全員の視線が集まる。
ヴォイド。
沈黙。
一瞬だけ考え——
短く。
「……世界樹が見たい」
それだけ。
決定。
理由は語らない。
だが——
逆らえない。
空気が動く。
長が、ゆっくりと立ち上がる。
「……よかろう」
低く。
「ならば——」
視線を巡らせる。
「全てを、そこで決める」
森。
静か。
だが——
三つの勢力が進む。
エルフ。
ダークエルフ。
オーガ。
そして——
王国騎士。
誰も武器を抜かない。
だが——
全員が戦える距離。
張り詰めたまま。
進む。
やがて。
エルフの使者が、足を止める。
目を見開く。
「……おかしい」
世界樹の枯れるスピードが。
ここを出立する前と比べて。
あの巨木の半分が枯れている。
前方。
エルフ領。妖精の森。
だが。
気配が違う。
静かすぎる。
そして——
開けた場所。
そこに。
いた。
村にいたはずのオーガ達。
そして——
ダークエルフの集団。
エルフの武装集団。
対峙したまま。
動いていない。
待っている。
空気が凍る。
エルフが息を呑む。
「……なぜ」
ダークエルフの長も、目を細める。
(……なんだこれは)
オーガ側。
リナイズが一歩出る。
ヴォイドを見る。
わずかに、頭を下げる。
「……合流しました」
短く。
それだけで——全てが繋がる。
全ての線が——一点に収束する。
そして——
見える。
世界樹。
巨大。
だが——
歪。
半分が、死にかけている。
葉が落ちる。
音もなく。
その下で。
三つの勢力が——
揃う。
エルフの長が現れる。
長身で痩せて薄い色をした女エルフ
ダークエルフの長。
細く弱々しいダークエルフの老人。
オーガの長——ヴォイド。
筋骨隆々だがリラックスしている一回り大きなオーガ。
そして——
ヴァレリア。
剣なき騎士。
誰も、すぐには話さない。
ただ——
世界樹を見る。
同じものを見て。
違う意味で。
そして。
静かに。
始まる。
言葉の戦いが。
風が吹く。
弱い。
世界樹の葉が——また一枚、落ちる。
それはまるで。
残された時間が、削られていくようだった。
誰かが勝てば——終わる。
だが。
誰も折れなければ——
すべてが壊れる。
その均衡の上に。
今。
世界は立っている。
そして——
その中心にいるのは。




