トンネル掘り
オーガの村——外縁。
広げられた地図。
粗いが、正確。
山脈の輪郭。 谷。 既存のトンネル。 そして——空白。
その前に、数名。
メタ。クロル。クライム。リナイズ。
そして、数人の技術持ちのオーガたち。
地図の端には——
鉄材の束。
王国から接収した鉱山資源。
さらに——
規格の揃った金属部品。
ドワーフ国で製造されたもの。
細長い鉄。
湾曲した継ぎ手。
そして——
レール。
メタが、それを足で軽く蹴る。
「……ここまで用意されりゃ、わかる」
クロルが鼻を鳴らす。
「道を作れってことだな」
クライムが短く言う。
「どこにだ」
視線は地図。
リナイズが、静かに補足する。
「ここからエルフ領に向かって」
指が、山脈の内部をなぞる。
既存のトンネル。
過去に通した道。
その南。
「……一気にです」
一拍。
「“向こう側”へ」
沈黙。
誰も否定しない。
メタが笑う。
「相変わらず言うことはすごい長様だ」
だが——
全員、理解している。
ヴォイドは“命令しない”。
期待だけしている。
あとは——任せる。
クロルが地図を折る。
「いい」
クライムが頷く。
「やる」
リナイズ。
「設計、引き継ぎます」
短く。
「崩落対策、水抜き、圧分散——すべて組み込みます」
メタが肩を回す。
「時間はねぇぞ」
視線が揃う。
山へ。
——開始。
山の内側。
轟音。
掘削が始まっている。
ただの破壊ではない。
岩を読む。
圧を読む。
流れを読む。
リナイズの設計。
壁面は整えられていく。
支柱が立つ。
王国産の鉄材。
あの時とは強度が違う。
打ち込まれる。
クロルが運び。
クライムが叩き込む。
一撃。
固定。
崩れない。
メタが叫ぶ。
「止めるな!!進め!!」
岩が砕ける。
だが——無駄がない。
削り、逃がし、流す。
「水来てるぞ!!」
「右に流せ!!排水路作れ!!」
すぐに対応。
掘りながら——完成させていく。
さらに。
別ライン。
レールが敷かれる。
ドワーフ製。
精度が違う。
歪みがない。
資材が、滑るように運ばれていく。
人力。
だが——速度は機械以上。
「今掘ってたやつは肉食ったやつと交代しろ」
「帰りはレールの岩を押して出ろ」
「肉を食って寝たら、次と交代だ」
「補強班は返しの箱に材料積んで下ってこい」
簡単な指示が飛ぶ。
「いいな、これ」
メタが笑う。
「運ぶ手間が消えた」
クロル。
「止まらねぇ」
クライム。
「進むだけだ」
リナイズが前方を見る。
目が細くなる。
「……さすがですね」
空気が変わっている。
自然ではない。
圧が違う。
流れが歪んでいる。
何日かこのまま進む。
「前方、岩の反響が変わりました」
「……出ます」
沈黙。
だが——
誰も止まらない。
メタが笑う。
「いいじゃねぇか」
クロル。
「やったな」
クライム。
「そのまま行く」
リナイズ。
「進行、継続」
決定。
一方——
ダークエルフ側。
地下。
静寂。
だが——張り詰めている。
世界樹の根。
巨大。
絡み合う。
その周囲——六点。
正確に配置された杭。
六芒星。
黒い光。
脈打つ。
地脈が抑えられている。
流れが、奪われている。
「第三点、安定」
「流れ、制御下」
淡々と。
だが——確実。
「妖精反応、低下」
誰かが呟く。
空気が重くなる。
成功している。
ゆっくりと。
確実に。
世界樹は——弱っている。
その時。
一人が手を止める。
「……待て」
静寂。
耳を澄ます。
遠く。
——ドン、カン、カン
振動。
全員の視線が動く。
「……今のは」
——ゴン
今度は明確。
「……掘削音?」
違和感。
この深度で。
この精度で。
エルフどもにここがばれたか。
あり得ない。
さらに——
——ガンッ!!
土が崩れる。
粉が落ちる。
誰かが呟く。
「……来ている」
理解。
早い。
「上ではない」
「横だ」
一拍。
「——貫通してくる」
空気が変わる。
警戒。
だが——遅い。
オーガ側。
「抜けるぞ!!」
メタが叫ぶ。
一撃。
——轟音。
壁が——裂ける。
崩壊。
だが、制御された崩れ。
土が落ちる。
視界が開く。
空間が——繋がる。
静止。
完全な。
対面。
片方。
整えられたトンネル。
支柱。 鉄材。 レール。
理で作られた道。
もう片方。
削られた地下空間。
その奥。
黒い光。
杭。
そして——
世界樹の根。
ダークエルフ。
オーガ。
初対面。
沈黙。
だが——
理解は一瞬。
(敵)
ダークエルフの一人が口を開く。
「……なんだおまえら」
低い。
冷たい。
「オーガだがオーガではない」
オーガ側。
メタが一歩出る。
笑う。
「掘ってたら当たったな」
軽い。
だが——目は笑っていない。
クロル。
「道は通す」
クライム。
「地上ではないってことは掘りすぎたな」
リナイズだけが観察する。
ダークエルフ。
配置。
気配の隠匿。
装備。
流れ。
理解する。
(……封じている)
(地脈ごと)
(世界樹を)
小さく。
「……最悪ですね」
ダークエルフ側。
魔力を高める。
短い杖を構える。
「ここは——我らの聖域だ」
オーガ側。
即答。
「知らねぇな」
「関係ない」
一歩。
踏み込む。
その瞬間——
杖が、黒く光る。
地面が軋む。
世界樹の根が——震える。
悲鳴のように。
完全な衝突。
思想と。
実行が。
ぶつかる。
地上——
遠く離れた森。
世界樹。
葉が——落ちる。
一枚。
また一枚。
風が止まる。
妖精たちが、怯える。
地下で。
何かが始まった。
それは——戦いか。
侵略か。
あるいは。
もっと単純なものか。
ただ一つ。
確かなこと。
この瞬間。
ヴォイドの“意思”は——
道として、世界を貫いた。
そして。
均衡は——
完全に、崩れ始めた。




