海上の気持ち
少し離れた場所。
ヴァレリア。
拘束されたまま。
座らされている。
すべてを——見ている。
聞いている。
船長が、続ける。
肩をすくめる。
軽い。
だが——本気だ。
ヴォイドを見る。
「そのまま通したら——」
鼻で笑う。
「私の立つ瀬がねえ」
一拍。
「かといって陸に上げりゃ」
目が細くなる。
「血の山だろう?」
ナイザーが、無表情。 メントも、否定しない。
ヴォイドは、何も言わない。
それが——答え。
船長は、息を吐く。
諦め。
納得。
そして——決断。
「……案内してやる」
静かに。
だが重い。
船員のざわめき。
「船長——」
止める。
手一つで。
「いい」
短く。
「これは“戦い”だ」
視線が鋭くなる。
「正面からな」
沈黙。
誰も反論しない。
できない。
決まる。
ルートが。
運命が。
—
その光景を。
ヴァレリアは——見ている。
動けない。
ただ、崩れていく。
内側から。
(……違う)
思考が、軋む。
あの盆地。
あの存在。
今、目の前にいる“それ”。
(私は——)
記憶が蘇る。
磔。
弱ったオーガ。
自分の言葉。
救う。正す。導く。
(……違う)
理解が、食い込む。
あの時。
自分は。
“選んでいた”。
都合のいい形を。
弱者として。
救う対象として。
(……違う)
あれは——
ただ、生きていた。
(私は)
拳が震える。
(裁こうとしていた)
正義の名で。
断じていた。
決めつけていた。
息が浅くなる。
ダークエルフの言葉。
エルフの歴史。
オーガの行動。
全部が——本気だった。
全部が——正しかった。
それぞれにとって。
(じゃあ……私は)
空白。
何もない。
(……何も、見ていない)
ただ。
教義。
命令。
敵。
それだけ。
(……空っぽだ)
心臓が重い。
苦しい。
部下の声。
「団長……」
遠い。
聞こえている。
だが——届かない。
(どうすればよかった)
遅い。
すべて。
(あの時——)
答えは出ない。
ただ——
進む。
船が。
ゆっくりと。
だが確実に。
問題の地へ。
戦場へ。
その上で——
ヴァレリアは、崩れる。
静かに。
音もなく。
そして——
初めて。
小さく、呟く。
「……わからない」
それは——
騎士ではない。
ただの。
一人の人間の声だった。
その言葉は——
誰にも届かないまま。
波に、消えた。
今回は少し短めです




