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各地の動向

各地——

同時に、動いている。


王国ボーダイ領・地下通路。


湿った石壁。

滴る水。


足音だけが、やけに大きく響く。


シンショーが歩く。


速い。

だが——乱れている。


その後ろ。

数名の私兵。


誰も口を開かない。

顔に浮かぶのは——焦りと、疲労。


「……ちっ」


吐き捨てる。


「全部、崩れた」


低く。


だが——折れてはいない。


目だけは、生きている。


「だが——終わりじゃねぇ」


振り返る。


鋭い。


「金は持ったな」


部下が頷く。


袋。

軽い。


だが——中身は重い。


宝石。

資金。

逃げるための、命綱。


「拠点を変える」


一拍。


「貴族がダメなら——裏だ」


口角が歪む。


「魔族でも、何でも使う」


空気が沈む。


誰も否定しない。


できない。


「次は——負けねぇ」


その言葉だけが——異様に強かった。



聖統教国カルトマイコン・神殿。


白。


無機質な空間。


光は差している。

だが——温度がない。


枢機卿が立つ。


報告を受けている。


「……失敗、です」


声が震える。


沈黙。


長い。


重い。


そして——


「そうですか」


穏やか。


優しい声。


だが——


目が、完全に死んでいる。


「百を用意し」

「術者を配置し」

「地形も整え」


ゆっくりと歩く。


一歩。


「それで——敗北ですか」


誰も答えない。


答えられない。


枢機卿は、微笑む。


「理解しました」


一拍。


「想定外、ですね」


その瞬間——


空気が凍りつく。


「……魔族は」


低く。


「強く、知性がある魔物は亜人として我々の下につける」


ゆっくりと。


確実に。


「それが可能かと思ったのですが」


一拍。


「違う」


断言。


「やはり存在してはならない」


空気が軋む。


「理ではない」


「在ること自体が——逸脱している」


視線が動く。


「……排除対象です」


静かに。


決定する。


ヴァレリアへ。



同・回廊。


石の床。


長い通路。


ヴァレリアが歩く。


一人。


足音が重い。


手には新しい剣。


だが——握る力が、わずかに揺れている。


(……違った)


脳裏に焼き付く光景。


磔。


衰弱したオーガ。


そして——


あの後の、光景。


(あれは……)


足が止まる。


呼吸が、わずかに乱れる。


「……騎士団長」


後ろから声。


振り返る。


紙を差し出される。


「次の任務です」


無言で受け取る。


視線を落とす。


読む。


「エルフ領・監視および調査」

「世界樹周辺の異常」

「ダークエルフの活動活発化」


一拍。


「必要であれば——介入」


紙を握る。


僅かに皺が入る。


(また……)


だが——


顔を上げる。


「……承知しました」


声は出る。


折れてはいない。


だが——


揺れている。



エルフ領・森。


静寂。


風が通る。


葉が揺れる。


だが——どこか、濁っている。


エルフたちが集まる。


中央。


世界樹。


巨大な幹。


空へ伸びる枝。


だが——


葉が、わずかに枯れている。


ざわめき。


「……おかしい」


「水脈は正常だ」


「魔力も……減っている」


沈黙。


一人が言う。


「ダークエルフだ」


空気が変わる。


張り詰める。


「もう何度目だ」


怒り。


だが——


恐れも混じる。


「山を越えられれば……」


誰かが呟く。


沈黙。


あの山。


越えられない境界。


だからこそ——均衡があった。


だが今。


崩れ始めている。


若いエルフが口を開く。


「……助けを求めるべきでは」


視線が集まる。


「誰に?」


一拍。


「……強者に」


空気が凍る。


だが——


否定が、出ない。



同時刻・地下。


暗い。


湿った空気。


地中深く。


そこにいるのは——別のエルフ。


黒い肌。


鋭い目。


ダークエルフ。


一人が笑う。


「順調だ」


足元。


地脈。


そこに——杭。


禍々しい。


歪んだ構造。


脈動している。


「世界樹は、上からしか守れない」


低く。


冷たい声。


「だから——下から喰う」


笑いが広がる。


歪んだ歓喜。


「もうすぐだ」


「均衡は終わる」


一拍。


「すべてを取り戻す」


「土地も」

「神も」

「歴史も」


目が光る。


「あるべき姿に」




再び・神殿。


枢機卿。


一人。


祈る。


静かに。


だが——その祈りは、歪んでいる。


「神よ」


微笑む。


穏やかに。


「ご安心ください」


一拍。


「異物は、すべて排除します」


目を開く。


光が差す。


その顔には——


救いは、ない。



世界は——


静かに。


だが確実に。


歪み始めている。


均衡が揺らぐ。


各地で。


それぞれの思惑が、動く。


そして——


その中心。


まだ誰も、正確には理解していない。


あの盆地で起きた“何か”。


理から外れた存在。


ヴォイド。


それが——


すべてを崩す起点になることを。

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