会議
オーガの村。
昼。
ドヴェルグは、ゆっくりと村全体を見渡していた。
囲いはない。
門もない。
見張り台らしきものもあるが、即席で、最低限の高さしかない。
風がそのまま抜けていく。
遮るものがない。
「……話にならん」
低い声が落ちる。
「貴様ら、村というより“開け放った広場”だな」
ニズムが一歩前に出る。
「……否定はいたしません」
ドヴェルグは腕を組む。
視線は鋭いまま。
「村としては悪くない。動きやすい、広い、自由だ」
一拍。
「だがな、今の貴様らは“村”ではない」
空気がわずかに重くなる。
「標的だ」
沈黙。
風の音だけが一瞬、やけに大きく感じられた。
「場所を移す」
短く言い切る。
「主要な者を集めろ」
──数刻後。
村の中央。
ナイザー。
メント。
三智将。
五武人。
そして数名のオーガたち。
円を描くように座る。
ドヴェルグがその中心に座った。
「よいか」
低く、しかし通る声。
「防衛とは壁ではない」
一拍。
「“殺す構造”だ」
空気が変わる。
単なる防御の話ではないと、全員が理解する。
「意見を出せ」
沈黙は短かった。
その中で、バスが手を挙げる。
「はーい」
間延びした声。
「高いところってさ、見やすいよねー」
一瞬、場が止まる。
アザミがすぐに眉をひそめる。
「いや、それは高いだけじゃ全部見えるわけじゃないだろ」
バスは首をかしげる。
「でも、見えやすくはなるよ?」
沈黙。
だが次の瞬間──
ドヴェルグが口角を上げた。
「よい」
全員がそちらを見る。
「それでいい」
一歩、前へ出る。
「高さは“支配”だ」
指を上へ向ける。
「視界を取る。空間を奪う。それだけで主導権になる」
「高台を作れ」
「火を灯せ」
一拍。
「灯台のように、常に見える位置を確保しろ」
ニズムが静かに頷く。
「視覚共有の拠点になりますね」
ドヴェルグは続ける。
「次だ」
メントが口を開く。
「侵入経路を絞るべきです」
ナイザーも続く。
「開けているなら、逆に誘導できる」
ニズム。
「入った瞬間に終わる構造にすべきです」
ドヴェルグは満足そうに頷く。
「そうだ」
足で地面を軽く叩く。
「地中を使え」
視線が集まる。
「杭を打て。振動を拾え」
一拍。
「足音で敵を“読む”」
オーガたちがざわつく。
ニズムが補足する。
「歩法の差異で識別も可能でしょう」
ドヴェルグは笑う。
「それだ」
「貴様らの感覚そのものを武器にしろ」
別のオーガが問う。
「匂いはどうだ?」
ドヴェルグは即答する。
「使う」
「煙を焚け」
「薬を混ぜろ」
「異物は必ず浮く」
バスが鼻をひくつかせる。
「それ、分かる気がするー」
アザミも頷く。
「違和感は確かに拾えるな」
ドヴェルグは言う。
「それが“結界”だ」
さらに視線を上げる。
「そして──」
声が少しだけ重くなる。
「空を捨てるな」
全員が上を見る。
「上から来られれば、終わる」
メントが問う。
「対処は?」
ドヴェルグは即答する。
「撃ち落とせ」
短い断言。
「投槍機を作れ」
ナイザーが目を細める。
「……オーガが空を撃つのか」
「そうだ」
「腕力を使え。空は“遠いだけの地面”だと思え」
ざわめきが走る。
ニズムが静かに整理する。
「見張り台と連動すれば即応可能ですね」
さらに声が上がる。
「巡回は?」
ドヴェルグは首を振る。
「いらん」
一瞬の沈黙。
「常にそこにいろ」
一拍。
「分散しろ。固定するな」
空気が引き締まる。
ニズムが静かに言う。
「常在戦場、ですね」
ドヴェルグは満足そうに笑う。
「ようやく噛み合ってきたな」
さらに議論が加速する。
「武器は常時携帯」
「いや、地中配置も」
「合図は光と煙」
「音も併用できる」
「狭路を作るべきだ」
「逃げ道を消す」
否定はない。
発想が途切れずに連鎖していく。
ドヴェルグはそれを見て、わずかに目を細めた。
(速い)
思考の切り替え。
戦術への落とし込み。
躊躇のなさ。
そして、ふと小さく呟く。
「……怖いな」
ニズムがその言葉を拾うが、何も言わない。
やがて議論は収束する。
ドヴェルグがヴォイドを見る。
「さて」
腕を組む。
「選べ」
一拍。
「どれを採る」
全員の視線がヴォイドに集まる。
静かに。
ヴォイドは考えた。
短い沈黙のあと──
「……全部」
空気が止まる。
一瞬。
ドヴェルグが大きく笑った。
「ははははは!!」
指を差す。
「こいつもか! いや、こいつが一番かもしれん!」
笑いながらも、その目は鋭い。
「守りを教えに来たが、どうやら間違っていたな」
静かに言う。
「貴様らは守る種族じゃない」
一拍。
「侵入させて殺す種族だ」
沈黙。
誰も否定しない。
ドヴェルグは背を向ける。
「よい」
歩き出す。
「加速させてやる」
小さく、しかし確信を込めて。
「この怪物どもをな」
その言葉は──
称賛か。
警告か。
まだ、誰にも決められなかった。




