決着
盆地。
正午。
地面はすでに裂けている。
百。
私兵。
円環。
槍。剣。盾。
視線は一点。
ヴォイド。
両手を上げたまま。
動かない。
無防備。
その姿に——一瞬の“緩み”が生まれる。
「かかれ!」
号令。
同時。
踏み込み。
前列十。
一斉に殺到する。
——届く。
その直前。
沈む。
一歩。
最小。
ただ、それだけで軌道が外れる。
空を切る。
刃が通るはずだった位置に——何もない。
身体が流れる。
背後へ。
“入り込む”。
手が伸びる。
髪の奥。
そこにあるはずの一点。
掴む。
引き抜く。
肉が裂ける。
だが——
音が遅れる。
血は一瞬だけ滲み——すぐに閉じる。
何事もなかったように。
その手にあるのは——
細い片刃の剣。
異様な構造。異様な色合い。
刃と峰。
それぞれ異なる性質を持つ魔属石。
ヴァレリアの視界が揺れる。
理解が追いつかない。
ヴォイドは——力を流す。
瞬間。
刀身が緑に満ちる。
振る。
一閃。
——遅れて、世界が分かれる。
十体。
上下に。
静寂。
次の瞬間——崩れる。
血が“遅れて”噴き出す。
空気が壊れる。
「なっ——」
叫び。
だが、もう遅い。
ヴォイドは進む。
踏み込み。
拳。
一人。
内部から破裂するように崩れる。
骨が“内側から”潰れる。
縦。
横。
断つ。
距離。
本来届かない間合い。
だが——届いている。
振る。
緑の軌跡。
三人。
同時に裂ける。
ヴァレリアの思考が止まる。
(詠唱が……ない)
盾持ち。
構える。
縦から刃を受ける。
——止まる。
「防げる!」
その瞬間。
閃光。
峰。
爆ぜる。
内側から破壊。
盾ごと。
構造ごと。
身体が上下に分断される。
何が起こったかわからない。
戦場が——成立しない。
ヴォイドは避ける。
最小の動きだけで。
当たらない。
触れない。
掠らない。
ただ——減る。
数が。
やがて。
屈むように。
消えていく。
後方に跳躍。
空気が裂ける。
着地。
遅れて衝撃が地面を叩く。
数体が吹き飛ぶ。
斬る。
殴る。
終わる。
——静寂。
百。
消失。
ヴァレリアの手が震える。
(攻撃を……受けていない)
だが——視線が止まる。
さきほど裂けたはずの肉体。
そこに。
もう“傷”はない。
完全に閉じている。
その時。
一人。
音もなく前に出る。
サタモ。
詠唱。
速い。
異常な集中。
完成。
光弾。
一直線。
ヴォイドの眉間へ。
直撃。
弾ける。
頭が揺れる。
——だが。
戻る。
何事もなかったように。
サタモの瞳が細くなる。
再詠唱。
ヴォイド。
刀を持たぬ手。
指を向ける。
それだけ。
圧縮。
緑。
射出。
一点。
貫通。
胸。
穴。
何が起こったかわからない顔。
溢れ出す赤。
崩壊。
終わる。
ヴァレリアの理解が崩れる。
(魔法ではない)
(だが魔法としか呼べない)
恐怖。
初めて。
骨の奥から湧く感覚。
ヴォイドは歩く。
静かに。
磔台へ。
ヴァレリアが動く。
遅れて。
剣を抜く。
振る。
全力。
当たる。
弾かれる。
——折れる。
刃が。
膝が落ちる。
崩れる。
ヴォイドは見ない。
ただ一瞬。
視線だけを向ける。
感情ではない。
評価でもない。
——哀れみ。
そして。
指を差す。
地面。
崩壊。
台が砕ける。
ノゲシが落ちる。
受け止める。
軽く。
鎖を断つ。
担ぐ。
肩へ。
弱い息。
振り返る。
高所。
逃げる影。
王国。
教国。
観測者。
誰も動かない。
誰も戻れない。
空。
“視線”。
ただ見ているだけの存在。
ヴォイドは気にしない。
歩く。
去る。
血は——もう残っていない。
作者は『ダイ・ハード』好きです。




