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ご賛辞

オーガの村。


広間。


外の空気は——静かだった。


風は通る。


だが、揺れない。


血の匂いも。


鉄の匂いも。


ここには届いていない。


戦は——外で終わっている。


やがて。


足音。


揃っている。


乱れがない。


一定。


重い。


だが——静か。


踏みしめる音が、同じ間隔で重なる。


入口。


影が差す。


入ってくる。


武装した個体たち。


七十。


鎧は鈍く光る。


槍は揺れない。


視線は前。


その後ろ——


さらに。


三十。


山を抜けた個体たち。


土の匂い。


岩の粉。


だが、その動きもまた——揃っている。


合流。


乱れない。


百。


欠けていない。


一体も。


誰一人として。


血は付いている。


乾きかけたもの。


まだ濡れているもの。


だが——


それは自分のものではない。


全軍。


無傷。


それが——事実としてそこにある。


整列。


一瞬で。


音が止まる。


完全に。


広間の奥。


一段高い場所。


ヴォイドが座っている。


背を預け。


動かない。


その左右。


ナイザー。


メント。


同じように——動かない。


ただ、そこにいる。


百の視線が——前を向く。


揃っている。


命令はない。


だが——形がある。


崩れない。


沈黙。


重く。


だが圧ではない。


均衡。


その中で——


一本角。


リナイズ。


一歩、前に出る。


音は最小。


「報告します」


低い。


揺れない。


事実だけを置く声。


「本戦闘において、我々は王国軍約一万と接触」


間を置かない。


流れる。


「森外縁にて進軍を確認」


「敵の警戒を維持させたまま誘導」


「罠および個体露出を意図的に排除」


「戦力の過小評価を誘発」


わずかな間。


「敵が展開準備に入った段階で——」


「合図により全体展開」


「面での突撃を実施」


「前線を圧迫」


「隊列崩壊を確認」


視線は動かない。


「各所にて再編」


「流れを維持」


短く。


「損害——なし」


「負傷——なし」


それだけ。


事実として置く。


一歩、下がる。


次に——


二本角。


ディスナイズ。


口元がわずかに歪む。


熱はある。


だが、抑えられている。


「敵後方において、別働三十が予定通り出現」


声は軽い。


だが内容は重い。


「山岳内部貫通経路を使用」


「発見されず配置完了」


短く、息を吐く。


「退路を断つ」


「混乱を増幅」


「指揮系統の断絶を確認」


視線が細くなる。


「部隊間連携——消失」


一拍。


「前後挟撃により——」


「敵は自壊状態へ移行」


わずかに、笑う。


「再構築は——なし」


沈黙。


そして。


「崩れました」


それだけ。


全てが伝わる。


下がる。


最後に——


三本角。


ニズム。


静かに前へ。


空気が、わずかに変わる。


深くなる。


「総括します」


声は低い。


重い。


他よりも、わずかに“芯”がある。


「王国軍は壊滅的損害を受け」


「戦線維持能力を喪失」


「重傷者多数を残置」


「撤退不能状態へ移行」


一拍。


揺れない。


「これに対し——」


「ドワーフ国より正式接触あり」


視線はまっすぐ。


「内容」


区切る。


「一、敵対意思なし」


「二、戦線離脱の要請」


「三、王国側装備および重傷者の回収申し出」


間。


「当方は受諾」


理由も置く。


「敵対継続の必要性消失」


「ドワーフ国の非敵対性を確認」


さらに。


「現在——ドワーフ国は第三者として機能」


空気が、わずかに張る。


「王国側より講和申し出あり」


「ドワーフ国を仲介とした交渉を希望」


言い切る。


「以上」


沈黙。


すべてが出揃う。


音がない。


誰も動かない。


形は、崩れない。


その時。


ヴォイドが、口を開く。


ほんのわずかに。


「……よかった」


一言。


それだけ。


だが——


その瞬間。


百の内側で、何かが揺れる。


熱。


静かな。


確かな。


(見ていた)


(届いていた)


(間違っていなかった)


(守れていた)


言葉にはならない。


だが——全員が同時に理解する。


それでも。


動かない。


形は保たれる。


やがて。


ニズムが、もう一歩出る。


わずかに頭を下げる。


「……講和について」


区切る。


「条件」


「要求」


一拍。


「いかがなさいますか」


視線が集まる。


百。


すべてが。


ヴォイドへ。


ヴォイドは、動かない。


座したまま。


揺れない。


考えているようで——


考えていない。


ただ。


そのまま。


そして——


短い。


だが。


それで十分だった。

 

「……任せる」

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