戦闘開始終了
森の中。
衝突は、すでに始まっている。
「迎撃!!」
号令。
だが——遅い。
音が届く前に、形は出来ていた。
オーガたちは、“面”で展開している。
横に広がる。
間隔を保つ。
詰めすぎない。
空けすぎない。
呼吸のように、均一。
崩れない。
前へ出る。
揃って。
鎧。
薄黒く、鈍く光る。
光を弾かない。
沈める。
重さが、見える。
槍。
長い。
太い。
人間のものとは違う。
振るうためではない。
“押し通すための形”。
振り下ろされる。
ガンッ——
鈍い衝突音。
人間の剣が弾かれる。
受け止めたはずの衝撃が——流れない。
そのまま、腕に残る。
痺れ。
遅れ。
次の瞬間——
叩き込まれる。
鈍い音。
鎧ごと、潰れる。
空気が抜ける音。
息が止まる。
「な、なんだこいつら——!!」
悲鳴。
だが——意味を持たない。
力が違う。
武器が違う。
そして——動き。
一体ではない。
列。
面。
押す。
前へ。
ただそれだけ。
だが——それだけで崩れる。
隙間がない。
入り込めない。
「押し返せ!!」
叫び。
踏み込む。
押す。
だが——押せない。
一歩も。
踏んだ地面が、そのまま後ろへ滑る感覚。
むしろ——
押される。
じりじりと。
確実に。
後退ではない。
“削られている”。
カマセが歯を食いしばる。
目が、戦場を走る。
「……下がれ!」
判断は早い。
早すぎるほどに。
だが——
遅い。
すでに形が出来ている。
オーガの一撃。
剣に当たる。
メキッ——
嫌な音。
刃が、折れる。
抵抗が消える。
そのまま——
肩へ。
骨が鳴る。
体が崩れる。
だが——
止めない。
追撃は来ない。
代わりに——
腕。
脚。
叩き潰す。
関節を壊す。
動けなくする。
それだけ。
殺さない。
徹底して。
「た、助けろ!!」
倒れた兵が叫ぶ。
血。
土。
動かない脚。
理解が追いつかない。
仲間が走る。
引きずる。
肩を貸す。
「置いていけるかよ!!」
叫び。
その声は、正しい。
だが——
その動きが、遅れる。
列が乱れる。
間が空く。
隙間が生まれる。
そこに——
オーガが入る。
一歩。
それだけで十分。
さらに崩れる。
押し込まれる。
「下がれ!! 後退!!」
将軍の声。
ようやく——決断。
遅いが、必要な判断。
後ろへ。
向きを変える。
走る。
整わない足並み。
ぶつかる。
転ぶ。
踏み越える。
その時——
聞こえた。
後方。
悲鳴。
「ぎゃああああああ!!」
一瞬。
全員の動きが止まる。
反射的に——振り向く。
山。
その方向。
あり得ないはずの場所。
影。
出ている。
三十。
静かに。
整然と。
隊列。
横に広がる。
塞ぐ。
道を。
完全に。
「……は?」
誰かが漏らす。
理解が、追いつかない。
山は——越えられない。
そう教えられてきた。
そう思っていた。
だが——
いる。
最初から、そこにいたかのように。
息も乱さず。
視線も揺れず。
ただ——待っていたかのように。
「挟まれてる……?」
震え声。
否定する者はいない。
できない。
現実が、そこにある。
前。
後ろ。
同時に——
オーガたちが動く。
前は押す。
後ろは閉じる。
逃げ場が——消える。
完全に。
「う、嘘だろ……」
剣が震える。
握力が抜ける。
足が止まる。
動けない。
動く意味が、消える。
前では、押される。
後ろでは、塞がれる。
横は、森。
視界は狭い。
逃げ道はない。
仲間が倒れる。
声が上がる。
手を伸ばす。
届かない。
助けるか。
逃げるか。
選べない。
判断が止まる。
「……いやだ」
誰かが呟く。
腰が抜ける。
その場に座り込む。
剣が落ちる。
音がやけに大きく響く。
その横を——
オーガが通る。
視線も向けない。
ただ——動く。
叩く。
潰す。
だが——
やはり殺さない。
急所を外す。
関節を壊す。
動きを奪う。
壊す。
動けなくする。
それだけ。
戦場は、もう——戦いではなかった。
技でもない。
勇でもない。
圧。
統率。
構造。
逃げ場のない配置。
最初から決まっていた形。
その中で——
人間たちは、崩れていく。
一人ずつではない。
“全体として”。
音が消える。
叫びだけが残る。
押し潰される音。
折れる音。
息が詰まる音。
それらが混ざる。
そして——
前も。
後ろも。
止まらない。
ただ、進む。
それだけで——
全てが終わっていく。




