進軍
すこし前。
――村。
広間。
奥。
一段高い場所。
ヴォイドが座っている。
背を預ける。
力は抜けている。
だが——崩れない。
そこに“ある”。
それだけで中心になる。
視線は前。
何も見ていないようで——外していない。
そのすぐ側。
ナイザー。
メント。
動かない。
立っている。
武器は持たない。
だが——隙はない。
王の側。
それだけで役割は成立している。
広間の入口側。
並ぶ。
七十。
間隔は一定。
乱れはない。
鎧。
槍。
剣。
全てが整っている。
重い。
だが——揺れない。
静か。
音はない。
だが——内側は熱い。
圧がある。
抑え込まれている。
三つ角。
ニズムが、一歩前に出る。
床に触れる音は小さい。
だが——全員に届く。
「準備、完了」
短い。
余計なものはない。
一拍。
空気が張る。
「これより——向かってまいります」
沈黙。
ヴォイドは動かない。
視線も変わらない。
考えていない。
測っていない。
ただ——聞いた。
「……そうか」
それだけ。
重くもない。
軽くもない。
ただの応答。
何をしに行くのか。
どこへ行くのか。
深くは考えていない。
必要がないから。
揃っている。
動ける。
それで十分。
「……気をつけてな」
短い。
付け足しただけの言葉。
だが——
七十の内側が、揺れる。
一斉に。
熱が、上がる。
(来た)
(許された)
(試せる)
(壊せる)
言葉にはならない。
だが——全員が同じ方向を見る。
前。
外。
戦場。
ニズムが下がる。
一歩。
余計な動きはない。
そして——
動く。
七十が、一斉に向きを変える。
足が揃う。
鎧が鳴る。
低く。
短く。
地面が応える。
次の瞬間には——走っている。
加速。
一気。
迷いはない。
森へ。
戦場へ。
一直線。
止まらない。
広間に、風が抜ける。
一瞬で。
消える。
音が、遠ざかる。
広間。
静かになる。
残響だけが残る。
外の気配が、薄れる。
代わりに——別の音。
子どもたちの笑い。
高い。
途切れない。
雌のオーガたちの会話。
低く。
柔らかい。
生活の音。
いつも通り。
何も変わらない。
ヴォイドは、ただ座っている。
視線は、どこにも向いていない。
焦点は合っていない。
(どこにいくんだろうな)
思う。
それだけ。
意味はない。
深さもない。
ただ浮かんだだけ。
ナイザーとメントは動かない。
王の側。
そのまま。
変わらない。
外では——
すでに、戦が始まっている。
だがここでは——
ただ、日常が続いていた。




