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転生後:赤子と成長

意識が浮かぶ。


重い。


沈んでいたものが、ゆっくりと水面に上がるように。


身体が、思うように動かない。

手足の感覚が曖昧だ。


視界はぼやけ、光と影だけが揺れている。


(……なんだこれ)


思考だけが、先にある。


声を出そうとする。


だが——


喉が、うまく動かない。

空気が震えるだけで、形にならない。


代わりに漏れたのは——


「……ぁ」


か細い音。


その瞬間。


周囲がざわついた。


「……おい」

「泣かねぇぞ」


低い声。

複数。


「……なんだこの目」


ゆっくりと、視界が定まっていく。


輪郭が、形になる。


そこにいたのは——


人ではなかった。


大きい。

異様に大きい。


筋肉が盛り上がり、皮膚の下でうねっている。

口元から牙が覗き、呼吸に合わせてわずかに動く。

額には硬そうな角。


肌は薄い赤。


(……オーガ?)


知識としての言葉が浮かぶ。


「なんだこのガキ」

「目が……据わってやがる」

「普通は泣き叫ぶもんだろ」


(いや、泣けないだけなんだけど)


身体が、そう動かない。


ただ——見る。


無言で。


視線だけが、まっすぐに相手を捉える。


——その沈黙だけが、妙に場を支配していた。


ざわめきが、わずかに引く。


誰も近づかない。


距離だけが、少し空く。


 


それから、時間が流れる。


オーガの成長は早い。


骨が伸び、筋肉が増え、内側から押し広げるように大きくなる。


一年も経てば、人間で言う七、八歳ほどになる。


そして——


歩いていた。


足裏が地面を捉える。

体重が乗る。


問題なく、動く。


(……うごけるな)


最初に向かったのは——食事だった。


肉。


生。


森で捕まえられたイノシシの魔獣。

まだ温かい。

血が滴る。


それを、皆がそのまま噛みちぎっている。


(……腹は壊さないのか)


疑問だけが浮かぶ。


だが、別の感覚が動く。


(……効率が悪い)


枝を集める。

乾いたものを選ぶ。


擦る。


火を起こす。


煙。

火。


周囲の視線が集まる。


肉を置く。


焼く。


脂が落ち、火が揺れる。

匂いが変わる。


「……」


食べる。


(……こっちの方がましだ)


何も言わない。


ただ食べる。


周囲が、火を恐れるように見る。


「……なんだそれ」

「焼いてるのか?」


答えない。


一体が近づく。

真似る。


焼く。


食べる。


「……うまいな」


短い言葉。


それだけで、広がる。


次。

また次。


やがて——全体に伝播する。


さらに。


洞窟。


結晶を砕く。

舐める。


(……塩)


肉に振る。


食べる。


(……いい)


それもまた、広がる。


生肉に振る。

吊るす。


保存される。


気づけば——


食事が変わっていた。


理由は——わからない。


理屈も、説明もない。


だが、結果だけが残る。


誰も教えていない。

誰も命じていない。


それでも、全員が理解していた。


「……あいつがやった」


次に向かったのは、村の端。


そこには——


排泄物が散乱していた。


臭気。

虫。


(……このままは、よくない気がする)


理由はわからない。


だが、手が動く。


地面を見る。


しゃがむ。


掘る。


浅く。

さらに深く。


穴を作る。


そこへ——


火の後に残った灰と炭を入れる。


「……?」


視線が集まる。


そのあたりの巨木を掴む。


へし折る。


丸太。


引き裂く。


地面に突き立てる。


囲う。


壁。


さらに裂く。


板にする。


組む。


土台。


座れる形。


箱。


灰と炭を入れる場所。


「……」


誰も理解していない。


だが——


誰も止めない。


そこに座る。


何も言わない。


立ち去る。


それを——全員が見ていた。


 


時間が経つ。


穴の中。


灰。

炭。

排泄物。


混ざる。


変化する。


誰も見ない。

誰も触れない。


ただ——


結果だけが現れる。


「……あれ」


誰かが気づく。


「匂いが、しねぇな」

「前よりマシだ」

「虫も減ってやがる」


一拍。


「……いいな、これ」


理由はわからない。


仕組みも知らない。


だが——


“ここを使えばいい”


それだけが、共有される。


自然に。


言葉もなく。


私は、その場所を一度だけ見る。


確認するように。


そして——何もせず、立ち去る。


その日から。


誰も言葉にしないまま——


“あいつのやったことは、正しい”


それが、この群れの中で決まり始めていた。


理由はない。


理解もない。


だが——


従う。


それだけが、残った。

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