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対オーガ忍

中央山。


その山道を。


ヴォイド達は。


静かに進んでいた。


砂漠を越え。


商人達のオアシスを越え。


ようやく。


オーガ国へ続く山道。


帰路だった。


誰も。


気を抜いてはいなかった。


先頭を歩くクロル。


その隣をナイザー。


少し後ろにクライム。


そして。


ヴォイドとディスナイズ。


その時。


崖の上。


中央山の影から。


人影が現れた。


一人。


二人。


三人。


四人。


五人。


全員。


口元を面頬で覆っている。


男女は。


三人の男と。


二人の女。


身体には。


ぴったりと張り付く。


金属質の衣服。


それは鎧にも見えた。


しかし。


普通の鎧ではない。


身体の動きを一切邪魔しない。


まるで。


第二の皮膚。


そんな異様な装束だった。


五人は。


一定の距離を保って。


ヴォイド達の前に立った。


中央にいた男が。


一歩前へ出る。


「我ら対オーガ忍」


静かな声だった。


「宿敵たるオーガの王」


「ヴォイドと見受ける」


ヴォイドは。


ぽかんとしていた。


「ここで」


男が。


腰の武器へ手をかける。


「お命頂戴する」


ディスナイズの表情が変わった。


「敵対勢力!」


すぐに振り返る。


「クロル殿!」


「ナイザー殿!」


「クライム殿!」


「戦闘隊形を!」


三人のオーガが。


一斉に構える。


ヴォイドだけが。


状況を理解していなかった。


「……?」


対オーガ忍の一人が。


腰を落とす。


両手を広げ。


身体を大きく震わせた。


そして。


叫ぶ。


「熊の思想!」


瞬間。


消えた。


「なっ!」


ナイザーが。


槍を構えた。


次の瞬間。


ガキンッ。


槍が。


弾き飛ばされた。


対オーガ忍の男が。


ナイザーの懐へ潜り込んでいた。


「ぐおおおお!」


爪。


人間のものとは。


明らかに違う。


鋭く伸びた五本の爪が。


ナイザーの腕を横薙ぎに切り裂いた。


ザシュッ。


「ぐっ!」


血が噴き出した。


ナイザーが。


一歩下がる。


腕には。


三本の深い爪痕。


普通の人間なら。


ただの武器だけで。


オーガに傷つけられない。


だが。


ナイザーは。


鋼のような肉体を持つ。


その身体に。


傷をつけた。


ディスナイズの顔から。


血の気が引いた。


「……おかしい」


「ディスナイズ?」


「下がってください!」


ディスナイズは。


ヴォイドの横まで下がる。


「彼らは普通の人間ではありません」


「以前、スパイダーウェブで見た資料があります」


「北東の山々に囲まれた秘境」


「そこには、魔族や」


「そして」


「我々オーガを狩ることに特化した戦闘民族がいると」


クロルが。


歯を剥いた。


「人間がオーガを狩るだと?」


「そんな奴らが!」


その瞬間。


別の女の忍が。


両腕を広げた。


「バッタの思想!」


跳んだ。


高い。


異常な高さだった。


魔法による身体強化。


それだけでは説明できない。


人間の身体が。


まるで弾丸のように。


空中を飛んでくる。


「クロル!」


クライムが叫ぶ。


ドンッ!


二人の間へ。


忍が着地した。


「なっ!」


次の瞬間。


脚が動いた。


蹴り。


ただの蹴りではない。


地面を踏み抜くほどの脚力。


クロルとクライム。


二人の身体が。


左右へ吹き飛んだ。


「ぐおっ!」


「ぬあっ!」


二人が。


別々の場所へ転がる。


「分断された!」


ディスナイズが叫ぶ。


さらに。


別の忍が。


ゆっくりと。


ナイザーへ向かって歩いていた。


「穿山甲の思想」


身体を丸める。


ナイザーが。


拳を握った。


「舐めるな!」


踏み込む。


強烈な蹴り。


オーガの脚力。


まともに受ければ。


普通の人間なら。


身体ごと粉砕される。


ドゴォン!


ナイザーの足が。


忍の背中へ直撃した。


しかし。


忍は。


動かなかった。


「……なに?」


ナイザーの顔が歪む。


逆に。


ナイザーが足を引いた。


「いっ……!」


痛み。


効いているのは。


ナイザーのほうだった。


蹴られた忍は。


ゆっくりと身体を起こす。


「硬い……」


ディスナイズが呟いた。


「違います」


「硬いだけではない」


「衝撃そのものを」


「逃がした……?」


五人。


そのうち。


三人が。


すでに。


オーガ達を押さえていた。


そして。


残った一人。


男の忍が。


ヴォイドを見る。


「道が開いた」


低い声。


「猪の思想!」


突撃。


真正面。


一直線。


ヴォイドへ。


ディスナイズが叫ぶ。


「ヴォイド様!」


ヴォイドは。


逃げなかった。


ただ。


一度。


息を吸った。


大きく。


ゆっくりと。


そして。


「……ヴヴおおおおー!!!!」


咆哮。


空気が。


震えた。


木々が揺れる。


地面まで。


震えたように感じられた。


突撃していた忍の足が。


止まった。


「……っ」


身体が。


動かない。


頭では。


進めと命じている。


それなのに。


足が震える。


一歩。


また一歩。


ヴォイドへゆっくりと近づこうとする。


だが。


身体が。


本能的に拒絶していた。


目の前にいる存在が。


自分より。


遥かに上だと。


理解してしまっていた。


それでも。


忍は進んだ。


ヴォイドの目前。


ヴォイドが。


拳を握る。


「……」


ドンッ!


拳が。


鼻先へ入った。


巨体が。


吹き飛ぶ。


「ぐはっ!」


数メートル。


いや。


十メートル以上。


身体が宙を舞った。


土煙を巻き込みながら。


地面を転がる。


ディスナイズが。


思わず息を呑む。


「さすがです」


「ヴォイド様」


ヴォイドは。


拳を見た。


「……?」


ディスナイズが。


周囲を見る。


「しかし」


「あと一人が見えません」


静かだった。


さっきまで。


五人いた。


熊。


バッタ。


穿山甲。


猪。


そして。


もう一人。


どこにいる。


ディスナイズが。


周囲を見回す。


「……」


その時。


地面。


倒れているクロル。


その背後。


影が。


動いた。


女だった。


いつから。


そこにいたのか。


わからない。


音も。


気配も。


なかった。


女は。


地面を這うように。


クロルへ近づいていた。


手には。


細い針。


その先端には。


淡い光。


「……蜂の思想」


クロルが。


目を開ける。


「……なっ」


女の腕が。


伸びる。


「しまっ……」


針が。


振り下ろされた。


クロルは。


目を閉じた。


「無念……」


だが。


針は。


届かなかった。


ドスッ。


「……?」


クロルが。


目を開く。


目の前。


ヴォイドがいた。


背中。


肝臓のあたり。


そこへ。


針が突き刺さっていた。


「……ヴォイド様?」


女は。


一瞬だけ目を見開いた。


そして。


迷わず。


その場から離れる。


「目的は達した」


「離れるぞ」


倒れていた猪の忍へ。


残った忍達が。


一斉に近づく。


「おい!」


クロルが叫ぶ。


だが。


間に合わない。


五人のうち。


一人を残して。


四人が。


山中へ消えていった。


そして。


残された一人。


ヴォイドが吹き飛ばした忍が。


ゆっくりと。


立ち上がろうとする。


「……」


身体が。


震えている。


その瞬間。


身体が膨れた。


「な……」


クロルが。


目を見開く。


「何だこいつ!」


膨張。


さらに。


膨張。


皮膚が。


内側から押し広げられていく。


「ヴォイド様!」


ディスナイズが叫ぶ。


「離れてください!」


次の瞬間。


爆発した。


ドンッ!


轟音。


肉片すら残らない。


山道に。


赤黒いものが。


僅かに散った。


静寂。


クロルが。


ヴォイドを見る。


「ヴォイド様!」


ヴォイドは。


立っていた。


だが。


いつもと違う。


背中。


針が刺さった場所。


傷口から。


血が流れている。


クロルが。


慌てて駆け寄る。


「なんで!」


「なんで俺なんかを!」


ヴォイドは。


答えない。


クロルが。


傷口を押さえる。


「おかしい……」


普段なら。


オーガの回復力によって。


すぐに傷口は塞がる。


だが。


塞がらない。


それどころか。


ヴォイドの赤い肌が。


少しずつ。


紫色へ変わっていく。


「毒……!」


ディスナイズが。


すぐに水を取り出す。


「クロル殿!」


「クライム殿!」


「傷口を!」


水をかける。


何度も。


何度も。


傷口を洗う。


「ナイザー殿は!」


ディスナイズが振り返る。


ナイザーは。


脚を押さえていた。


「俺は大丈夫だ」


「ですが……」


「足が……」


先ほどの蹴り。


その衝撃が。


まだ残っている。


ディスナイズは。


一瞬だけ迷った。


だが。


すぐに決断する。


「クロル殿!」


「クライム殿!」


「ヴォイド様をお連れください!」


「南へ!」


「ヴォイド国へ急いでください!」


クロルが。


ヴォイドの身体を支える。


「わかった!」


クライムも。


反対側へ回る。


「ヴォイド様!」


「俺達が運びます!」


ディスナイズは。


ナイザーを見る。


「私はナイザー殿を連れて戻ります!」


ナイザーが。


頷く。


「すまない…」


その時。


ヴォイドが。


一歩。


踏み出した。


足が。


もつれる。


「……?」


ぐらり。


ヴォイドの身体が。


傾いた。


「ヴォイド様!」


クロルが。


慌てて抱える。


クライムも。


すぐに身体を支えた。


「重い!」


「当たり前だ!」


ヴォイドは。


普通のオーガより。


一回り大きい。


その巨体を。


二人で抱える。


「走るぞ!」


「南だ!」


「オーガ国へ!」


クロルとクライムが。


ヴォイドを担ぐ。


「絶対に間に合わせる!」


二人は。


南へ向かって。


走り出した。


山道を。


駆け下りる。


荷物を積んだ砂舟も。


ニクマイも。


肉も。


水も。


すべて置き去り。


今は。


そんなものは。


どうでもよかった。


ただ。


ヴォイドを。


国へ。


生きて。


連れ帰る。


それだけだった。


「ヴォイド様!」


クロルが叫ぶ。


返事は。


ない。


「ヴォイド様!」


それでも。


走る。


クライムも。


歯を食いしばる。


「絶対に!」


「死なせるな!」


遠く。


南の空。


夕暮れの光が。


山の向こうへ。


沈み始めていた。


その光の中を。


二人のオーガが。


一人の王を担ぎ。


必死に。


走り続けていた。

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