閑話:ツツジ旅立つ2
旅へ出た。
一人。
オーガの国を背に。
最初に立ち止まったのは分かれ道だった。
東。
エルフの国。
ヴォイド様が交渉した国。
今では山を貫く大きな坑道が造られ、人も荷も安全に行き来できる。
交易も始まり。
敵ではなく。
隣人になった国。
北東。
人間国家。
そして宗教国家。
こちらもヴォイド様が訪れた国だった。
今行っても。
得られるものは少ないだろう。
ツツジは腰の袋から一枚の紙を取り出した。
書き写された簡単な地図。
北西。
まだ交流のない土地。
小さな村が点々と描かれている。
その先は。
空白。
「……ここですね」
目的地は決まった。
所持金はある。
旅立つ前に村人達から持たされたものだった。
「旅なら必要だ」
「使え」
そう言って押し付けられた。
だが。
なるべく使わない。
狩り。
採集。
自給自足。
それでも三十日ほどで着くだろう。
まずは。
ドワーフ国へ向かう。
山道を歩くこと半日。
巨大な城壁。
見慣れた門。
見張りのドワーフがツツジを見る。
「オーガか」
門番はすぐに敬礼した。
「入国を許可する!」
重い門が開く。
ツツジは軽く頭を下げた。
以前なら。
あり得なかった光景だった。
鍛冶場。
煙。
鉄を打つ音。
熱気。
活気。
その一角で。
見慣れた姿がいた。
オーガ達だった。
巨大な鉱石を軽々と運ぶ者。
荷車を押す者。
荷の護衛をする者。
武器を積み込む者。
皆。
忙しそうだった。
「あ…」
一人のオーガがツツジに気付いた。
「ツツジじゃねぇか!」
「久しぶり」
互いに拳を軽く合わせる。
「どうだ」
「問題ない」
オーガは笑う。
「忙しいけどな!」
近くには。
大きな樽。
『オーガの恵み』
と刻印されている。
さらに。
黒銀色の鉱石。
オーガ鉱石。
荷札が付いていた。
「王都行き」
「研究所行き」
「鍛冶工房行き」
ツツジは静かに眺めた。
「価値は高いのですか。」
近くにいたドワーフが笑った。
「高いどころじゃねぇ」
「オーガの恵みは鍛冶の革命だ」
「オーガ鉱石は加工しやすく丈夫」
「注文が止まらねぇ」
別のドワーフも笑う。
「昔は邪魔な鉱石だったんだ」
「今じゃ宝だ」
ツツジは静かに思う。
ヴォイド様は。
ゴミを。
金へ変えた。
誰も価値を見出さなかったものに。
国の未来を見た。
その事実を。
改めて実感した。
その夜。
ドワーフ国で一泊する。
食事を共にし。
旅の情報を集める。
北西には。
小さな村が点在すること。
街道は細く。
盗賊よりも魔物が多いこと。
山を越えれば。
誰も知らない土地が広がること。
翌朝。
準備を整え。
ツツジは再び歩き始めた。
北西。
まだ見ぬ土地へ。
数日後。
最初の村が見えた。
人間の村だった。
木の柵。
見張り台。
畑。
煙突から立ち上る煙。
静かな村。
ツツジが近付く。
最初に見つけたのは。
薪を運ぶ老人だった。
老人は振り返る。
そして。
固まった。
「……オーガ」
薪を落とす。
大声で叫んだ。
「オーガだぁぁぁ!!」
鐘が鳴る。
村人達が飛び出してくる。
冒険者。
衛兵。
弓。
槍。
剣。
「逃げろ!」
「子どもを家へ!」
「門を閉めろ!」
誰もが武器を構えた。
ツツジは。
静かに立ち止まる。
「……ヴォイド様なら」
「怒りません」
槍を外す。
腰の剣も抜かない。
持っていた武器を。
ゆっくり地面へ置く。
ドスッ。
槍が土へ刺さる。
ツツジは。
両手を組み。
堂々と仁王立ちした。
逃げない。
媚びない。
威嚇もしない。
ただ。
真っ直ぐ村人達を見る。
「私は」
「オーガ国の特使」
「争いに来たのではありません」
「対等に」
「話をしに来ました」
その言葉に。
村人達の表情が変わる。
武器を持たない。
襲ってこない。
目の前のオーガは。
彼らの知るオーガとは。
あまりにも違っていた。
誰も。
次の言葉を返せなかった。




