帰国
スパイダーウェブ。
出発の日。
地下都市の入口には。
蜘蛛娘達。
職人達。
商人達。
そして。
マダムまで見送りに来ていた。
荷造りは。
すでに終わっている。
巨大な袋。
中には。
ニクマイの株。
百株。
一本一本。
根を傷めないよう丁寧に包まれていた。
別の袋。
大量の干し肉。
燻製肉。
保存肉。
さらに。
樽へ詰められた水。
蜘蛛娘達が呆れたように笑う。
「英雄の帰還って」
「もっと宝物とかないの?」
クロルが袋を叩いた。
「宝物だぞ」
「全部食いもんだ」
ナイザーも笑う。
「金貨より価値ある」
ヴォイドは静かに頷いた。
「……肉」
蜘蛛娘達が吹き出す。
ディスナイズだけは違った。
背負う革箱。
中には。
契約書。
同盟書。
研究資料。
ニクマイ栽培記録。
魔力水精製資料。
魔蓄鋼試案。
国の未来が詰まっていた。
マダムが近づく。
「本当に帰るのね」
ヴォイドを見る。
「また来なさい」
「次は負けないわ」
ヴォイドは少し考えた。
そして。
ぽつり。
「……肉あるなら行く」
一拍。
マダムが笑う。
蜘蛛娘達も笑う。
「最後までそれなのね」
クリエイだけは。
木箱へ詰められていた。
側面には。
『取扱注意』
『暴走注意』
『借金返済中』
と大きく書かれている。
中から叫び声。
「ワイ荷物ちゃうぞぉぉぉ!!」
蜘蛛娘達が木箱を軽く叩く。
「三十日後ね」
「逃げちゃ駄目よ」
「工程二倍で」
「働いてね」
「鬼ぃぃぃ!!」
その声を聞きながら。
オーガ達は歩き始めた。
地下都市を出る。
砂漠。
そこには。
来る時に乗った案内はいない。
代わりに。
蜘蛛娘達が用意した砂舟があった。
魔力で砂を滑る。
巨大な舟。
荷物を積み。
静かに進む。
さらさら。
砂を切る音だけが響く。
遠く。
オアシス。
以前立ち寄った商人達が。
こちらへ気付いた。
「あっ!」
「あのオーガ達だ!」
商人達が手を振る。
「あんたらのおかげで商売繁盛だ!」
「また来いよ!おまけするぞ!」
「また来いよ!」
ヴォイドは静かに手を上げた。
小さく。
それだけだった。
だが。
商人達は大騒ぎだった。
「今!」
「手振ったぞ!」
「あの王様!」
「……絵師呼べ!!」
ディスナイズは苦笑する。
「人気者ですね」
ヴォイドは首を傾げた。
「……?」
砂漠は。
来た時より短く感じた。
やがて。
砂が減る。
岩。
土。
草。
山道へ入る。
空気も変わる。
少し冷たい。
クロルが深呼吸する。
「帰ってきたなぁ」
ナイザーも笑う。
「やっぱ山は落ち着く」
クライムは荷物を確認する。
「資料よし」
「株よし」
「水よし」
「肉よし」
ヴォイドは袋を見る。
その中。
百株のニクマイ。
静かに思う。
一株で。
一人が満腹になる。
あの味。
肉汁を吸い。
ほのかに甘く。
粒立ち。
香り。
他の料理を邪魔しない。
どこか懐かしいような。
そんな味だった。
しかも。
あれは源種ではないと。
ディスナイズは言っていた。
原種にすることができるとも言っていた。
もっと美味くなる。
ヴォイドは少しだけ楽しみになった。
あの砂漠。
地平線まで続く。
オーガ草。
あれが全て。
食料になるなら。
国は変わる。
世界も変わる。
その時だった。
山道の先。
風が止む。
鳥が鳴かない。
クロルが歩みを止めた。
「……静かだ」
ナイザーも。
手を槍へ伸ばす。
ディスナイズが周囲を見る。
岩陰。
木々。
崖の上。
何かいる。
気配。
一つ。
二つ。
三つではない。
数はわからない。
ヴォイドも足を止めた。
静かに。
前を見る。
木々の影。
岩の隙間。
そこには。
誰かがいた。
いや。
こちらを。
じっと見つめる"影達"が。
音もなく。
山中へ現れていた。




