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国家の意思

スパイダーウェブ。


翌朝。


地下都市の空気は静かだった。


昨日まで歓声に包まれていた裏VIPエリアも。


今は普段の賑わいを取り戻している。


帰還の日。


大広間。


長い机。


その上には。


大量の書状。


契約書。


覚書。


見積書。


協定書。


そして。


分厚い革表紙の帳簿。


ディスナイズは一枚一枚確認していく。


隣では。


蜘蛛娘達が印章を押し。


書類を仕分けていた。


向かいには。


マダム。


優雅に紅茶を飲んでいる。


その隣。


ヴォイド。


静かに座っていた。


会議が始まる。


ディスナイズが一礼する。


「国家予算の配分につきましては、この書状の通りでございます」


蜘蛛娘が書類を配る。


昨日の国家賭博。


その倍率。


五回戦の結果。


全て反映された数字だった。


マダムが軽く目を通す。


「ええ」


「異論はないわ」


ディスナイズは続ける。


「また」


「オーガ草問題の解決に対する謝礼につきましては」


「後日予定される魔王様との会談にて相殺扱いといたします」


マダムが頷く。


「構わないわ」


「本題はその先でしょう?」


ディスナイズも静かに頷いた。


「はい」


「ニクマイ」


「その運用と利益についてです」


部屋の空気が少し変わる。


蜘蛛娘達も耳を傾ける。


ディスナイズは紙をめくった。


「我が国としましては」


「利益は折半を提案いたします」


「ただし」


「源種の一部」


「および株分け可能な苗」


「これらは持ち帰らせていただきます」


「もちろん」


「対価は正式にお支払いいたします」


マダムは口元へ指を当てる。


少し考え。


柔らかく笑った。


「いいわ」


「販路はうち」


「栽培は共同」


「利益は半分」


「悪くない話ね」


ディスナイズは書き記す。


さらに。


「現在保有されております魔力水」


「こちらも購入を希望いたします」


「代金は別途お支払いいたします」


マダムは肩をすくめた。


「どうせクリエイが全部使う予定だったもの」


「持っていって構わないわ」


その瞬間。


部屋の隅。


木箱が揺れた。


「ちょっと待ったぁ!!」


箱。


縄。


札。


『商品』


そう書かれている。


中から。


クリエイの声。


蜘蛛娘達が蓋を開ける。


飛び出してくる。


髪はぼさぼさ。


目は真っ赤。


「魔力水設備!」


「まだ終わっとらん!」


「最低六十日は要る!!」


マダムは一瞥した。


「三十日」


「いや工程的に──」


「三十日」


「五十日!!」


「一日二倍働けば済むことよ」


部屋が静まる。


クリエイ。


固まる。


「…………」


「三十日でお願いします」


蜘蛛娘達が吹き出した。


ディスナイズも苦笑する。


「完成後」


「オーガ国へ技術者として来ていただく件につきましては」


「その時点で改めて協議いたします」


クリエイは勢いよく頷いた。


「行く!」


「絶対行く!」


「義手でも義足でも作ったる!」


マダムが微笑む。


「その前に」


「私の仕事を終わらせてからね」


再び箱へ押し戻される。


蓋が閉まる。


静寂。


ディスナイズは気を取り直した。


最後の書類を取り出す。


「もう一点」


「我が国より」


「駐在員と駐在所を設置したく存じます」


マダムが興味深そうに見る。


「ほう?」


「二名から三名」


「常駐いたします」


「滞在費」


「施設費」


「活動費」


「全て我が国が負担いたします」


「見積書をご確認ください」


蜘蛛娘が受け取る。


ディスナイズはさらに続けた。


「今後」


「質問」


「書状」


「技術交流」


「外交連絡」


「全てその駐在所を通します」


「決して」


「伝書人などに直接持たせることはなさらぬようお願いいたします」


少しだけ声が低くなる。


「重要情報は」


「必ず管理された経路を通すべきです」


マダムはゆっくり拍手した。


「流石ね」


「外交官って感じ」


「安心したわ」


書類が一枚ずつまとまっていく。


署名。


印章。


契約。


国家同士の約束が。


静かに形になっていく。


その間。


ヴォイドは。


一言も喋らなかった。


ただ静かに席へ座り。


湯気の立つニクマイを口へ運ぶ。


ほのかな甘み。


肉汁を吸った粒。


静かに噛みしめる。


その姿を見て。


誰も急かそうとはしなかった。


オーガ王は。


終始無言を貫いていた。


それでも。


この場にいる誰もが。


その沈黙こそが。


国家の意思であると理解していた。

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