決着
スパイダーウェブ。
裏VIPエリア。
最終戦。
第五回戦。
静寂。
蜘蛛娘のディーラーが。
新品の箱を開ける。
封印紙。
蝋。
全てを切り。
誰の目にも分かるように。
一組だけ。
魔紋札を取り出した。
観客が息を呑む。
「新品だ……」
「これなら細工は無理だ」
「最後の勝負だぞ……」
ディーラーの指が動く。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
五枚。
札が舞う。
縦。
横。
回転。
裏返り。
重なり。
流れるように混ざっていく。
その速度。
人の目では追えない。
だが。
マダムだけは違った。
身体中。
青い瞳。
百を超える目玉が。
一斉に動く。
新品の一番上。
魔王札だけを。
追い続けていた。
「あそこ」
誰にも聞こえない声。
だが。
その視線だけは止まらない。
やがて。
札が配られる。
四枚。
ヴォイドの前へ。
四枚。
マダムの前へ。
ディーラーが微笑む。
「最終戦」
「開始です」
会場が揺れた。
第一宣言。
マダム。
無難。
確実。
倍率を積み上げる。
そして。
ヴォイド。
静かに。
左。
「世界樹」
会場が頷く。
堅実。
倍率三倍。
次。
ヴォイド。
前。
「十三」
ざわっ。
単一数字。
倍率十倍。
さらに。
「世界樹十三」
会場が静まり返る。
完全指定。
倍率四十倍。
ディーラーが確認する。
「変更は可能ですが?」
ヴォイド。
「いい。」
一切迷わない。
マダムが初めて眉を動かした。
その後も宣言は続く。
ヴォイド。
右。
「ゴブリン五」
四十倍。
また完全指定。
観客席。
誰かが笑った。
「外したら終わりだぞ」
「全部飛ぶ」
「無茶だ」
マダムは黙っていた。
最後。
残る権利。
『疑念』
一ゲーム一度。
マダムがゆっくり笑う。
「……疑念」
会場が沸いた。
「出た!!」
「倍率二倍!!」
「勝負を決めるぞ!!」
ディーラーが頷く。
「承認」
「成功なら倍率二倍」
「失敗なら半減」
マダムはヴォイドを見る。
「あなた」
「そこまで読めるなら」
「試してあげる」
ヴォイド。
動かない。
「……そうか」
ただ。
それだけだった。
公開。
左。
裏返る。
世界樹。
十三。
会場。
静止。
四十倍。
疑念成功。
八十倍。
歓声。
「うおおおおおお!!」
「当てた!!」
「完全指定だ!!」
マダムの笑みが消える。
残る一枚。
右。
裏返る。
ゴブリン。
五。
また。
完全一致。
さらに。
疑念成功。
倍率。
再び。
八十倍。
二枚。
合計。
百二十倍。
ディーラーが静かに告げた。
「ヴォイド様」
「倍率」
「百二十倍」
「持込金貨二千枚」
「現在」
「二十四万枚相当」
会場が爆発した。
歓声。
拍手。
怒号。
悲鳴。
誰も席に座っていない。
国家予算。
王国。
鉱山。
港。
研究費。
その全てを越える数字。
マダムは静かに札を見る。
そして。
ヴォイドを見る。
「……何をしたの?」
ディーラーへ振り向く。
「ディーラーちゃん」
「教えてくれる?」
蜘蛛娘は。
にこりと笑った。
それだけだった。
何も答えない。
マダムは長く息を吐く。
「……そう」
「分かったわ」
肩をすくめる。
「そろそろ身を固めろってことね」
「あの人を忘れて」
「次へ進めって」
少しだけ。
寂しそうに笑う。
そして。
ヴォイドへ向き直った。
「負けたわ」
「私の価値は」
「金貨五千枚」
「ずいぶん安売りしたものね」
会場が静まる。
蜘蛛娘達も。
貴族達も。
商人達も。
誰も口を開けない。
ただ一人。
ヴォイドだけが。
首を傾げた。
「……終わったか」
そして。
机の端に置かれていた。
蒸したニクマイを。
一口。
頬張った。
その姿に。
世界中の大物達は。
同じことを思っていた。
――この怪物は。
最後まで。
賭博をしていたのではない。
ただ。
観察していただけだった。




