賭博2
裏VIPエリア。
国家賭博卓。
第二回戦。
蜘蛛娘のディーラーが。
再び新しい箱を開けた。
封蝋付き。
未開封。
新品。
中から。
五十三枚の魔紋札。
誰も触れていない。
完全な新品だった。
ディーラーが微笑む。
「第二回戦を開始いたします」
シャァッ!!
札が踊る。
速い。
速すぎる。
普通の人間なら。
何が起きているのかさえ分からない。
クリエイが叫ぶ。
「見えへん!!」
「なんや今の!!」
「混ぜたんか!?」
ディーラーは笑顔だった。
「はい♪」
「綺麗に混ぜました♪」
全員。
見えていない。
ただ一人を除いて。
マダム。
身体中の青い目が。
静かに動いていた。
ヴォイドはそれを見る。
見ている。
だが。
まだ分からない。
四枚。
配置完了。
ゲーム開始。
第二回戦。
マダム先攻。
「左」
「青」
倍率一・五倍。
ディーラーが記録する。
ヴォイド。
少し考える。
「前」
「偶数」
倍率二倍。
マダムが微笑む。
「疑念」
会場がざわついた。
ディスナイズの顔色が変わる。
「早い」
クリエイが首を傾げる。
「なんや?」
ディスナイズが答える。
「疑念は強い」
「外せば相手倍率二倍」
「成功すれば半減」
「序盤で使う札ではありません」
マダムは笑う。
「でも」
「当たりそうだったから」
ヴォイド。
無反応。
第三宣言。
第四宣言。
第五宣言。
公開。
結果。
ヴォイド三成功。
マダム二成功。
だが。
疑念成功。
倍率調整。
勝者。
マダム。
第二回戦終了。
会場がざわつく。
「蜘蛛の女王だ」
「読み切った」
「流石だ」
ディスナイズが静かに計算する。
予算配分。
五二対四八。
まだ許容範囲。
だが。
少しずつ。
押されていた。
―――――
第三回戦。
再び新品。
再び開封。
再び混ぜる。
シャァァァッ!!
札が踊る。
この頃になると。
ヴォイドは。
マダムを見ていた。
札ではない。
マダムを。
宣言。
倍率。
視線。
呼吸。
指。
身体中の目。
全て。
見る。
そして。
初めて。
当てた。
「後ろ」
「世界樹」
倍率三倍。
公開。
的中。
会場が沸く。
「当てた!!」
「三倍だ!!」
「怪物か!?」
マダムも少し驚いていた。
「へぇ」
ヴォイド。
静か。
さらに。
二回。
三回。
的中。
勝者。
ヴォイド。
会場がざわつく。
ディスナイズが小さく息を吐いた。
「戻した……」
五十対五十。
互角。
ようやく。
振り出し。
だが。
マダムは笑っていた。
楽しそうだった。
―――――
第四回戦。
空気が変わる。
新品開封。
ディーラーの手が動く。
その瞬間。
ヴォイドは気付いた。
マダムの目。
一つではない。
二つでもない。
十でもない。
数十。
数百。
全てが。
同時に。
札を見ている。
新品の山。
その一番上。
魔王札。
ただ一枚。
それだけを。
追っている。
ヴォイドの目が細くなる。
「……」
気付いた。
ディスナイズは気付いていない。
観客も気付いていない。
だが。
ヴォイドだけは見た。
身体中の目。
その視線。
全てが。
一枚を追っている。
シャァァァァァッ!!
札が混ざる。
普通なら消える。
だが。
マダムには消えない。
何百の目。
異常な動体視力。
蜘蛛娘の超高速シャッフル。
その両方が成立していた。
宣言が続く。
互角。
互角。
そして。
最後。
マダムが笑った。
「右」
静寂。
会場が止まる。
マダム。
続ける。
「魔王札」
倍率六十倍。
悲鳴。
「は!?」
「馬鹿な!!」
「ありえない!!」
クリエイが飛び上がる。
「ブラフや!!」
ディスナイズが青ざめる。
「ヴォイド様に駆け引きは……」
ヴォイド。
動かない。
止めない。
疑念もしない。
マダムだけが笑う。
「さぁ?」
「どうかしら」
公開。
右。
裏返る。
静寂。
そこにいた。
魔王。
魔王札。
会場が爆発した。
歓声。
悲鳴。
怒号。
拍手。
全てが混ざる。
「当てたァァァァ!!」
「六十倍!!」
「化け物!!」
「蜘蛛の女王だ!!」
マダムは優雅に微笑んだ。
ヴォイドを見る。
ヴォイドも見返す。
沈黙。
ほんの少し。
マダムの笑みが深くなる。
「見えてた?」
ヴォイド。
静かに頷いた。
「……見てた」
マダムが笑う。
「でも止めなかった」
「……面白そうだった」
会場が再びどよめく。
クリエイが叫ぶ。
「基準がおかしいわ!!」
ディスナイズは頭を抱えた。
計算。
再計算。
再々計算。
そして。
静かに言う。
「予算配分」
「六対四」
沈黙。
国家予算。
軍備。
研究費。
遠征費。
防衛費。
全て含めて。
四。
スパイダーウェブ。
六。
ヴォイド国。
負けている。
完全に。
だが。
致命傷ではない。
まだ終わっていない。
残るは。
第五回戦。
最後の勝負。
国家予算ではない。
権利。
契約。
未来。
そして。
マダム自身。
全てが乗る。
マダムが笑う。
「さて」
「最後ね」
ディスナイズの手に汗が滲む。
クリエイは震えている。
観客達も立ち上がる。
そして。
ヴォイドだけが。
いつも通りだった。
休憩時間で買った肉。
肉を一切れ口へ入れる。
もぐもぐと咀嚼する。
飲み込む。
そして。
静かに言った。
「……次もやる」
その一言で。
会場は再び沸騰した。




