準備
裏VIPエリア。
特別卓。
国家賭博会場。
熱気が渦巻いていた。
だが。
その中心。
当事者達はまだ席についていない。
マダムが立ち上がる。
グラスを揺らしながら微笑んだ。
「では一刻後」
「ここへ戻ってきてちょうだい」
「契約書もあるし」
「予算振り分けもあるし」
「クリエイちゃんの件もあるしね」
クリエイが反応した。
「ワイの件ってなんや」
マダムは笑顔だった。
嫌な予感しかしない笑顔だった。
「色々よ」
クリエイが青ざめる。
ディスナイズは見なかったことにした。
そして。
ひとまず解散となる。
その瞬間。
裏VIPエリア全体が動き出した。
「どっちに賭ける?」
「蜘蛛の女王か?」
「オーガ王か?」
「いや噂の智将がいるぞ」
「あの参謀は怖い」
「あの王はもっと怖い」
様々な声が飛び交う。
即席の賭け卓まで出来始める。
「オーガ国勝利で三倍!」
「スパイダーウェブで一・八倍!」
「国家吸収まで行けば十倍だ!」
クリエイが目を剥く。
「何賭けとんねん!」
その横。
既に商人達は動いていた。
「魔紋札だ!」
「最新版!」
「魔王札入り!」
「国家賭博記念版!」
箱ごと売れていく。
貴族達が大人買いしていた。
「あの時の魔王札がなぁ」
「俺はあれで鉱山失った」
「私は港を取ったぞ」
「南方交易路も取れた」
規模がおかしい。
国家予算で遊ぶな。
クリエイは本気で思った。
その頃。
少し離れた席。
ディスナイズがヴォイドを見る。
「ヴォイド様」
「はい」
「勝算はありますか?」
静かだった。
参謀としては重要な確認だった。
国家予算。
研究予算。
軍事支援。
同盟内容。
全てが掛かっている。
ヴォイドは少し考えた。
そして。
ぽつり。
「……賭け事」
「……やってみたいと思ってた」
ディスナイズが目を閉じた。
頭が痛い。
本当に頭が痛い。
「そうですか」
「……」
「そうですか」
沈黙。
そして。
ディスナイズは深く息を吐いた。
「分かりました」
「ヴォイド様を信じます」
「その代わり」
「最終的な予算振り分け」
「契約内容」
「費用負担」
「その辺りは私に決めさせてください」
ヴォイドは即答した。
「……任せる」
ディスナイズは少し安心した。
最低限の理性は確保できた。
その後。
オーガ達は裏VIPエリアを見て回る。
闘技場。
競売場。
賭博卓。
発明展示場。
全てが規格外だった。
ナイザーはいつの間にか。
剣闘予想で小銭を増やしていた。
「勝った」
「またかよ」
クロルが呆れる。
クライムは展示されている古代兵器を見ていた。
研究者達と議論している。
ヴォイドは。
肉を買っていた。
巨大串焼き。
鉄板炙り肉。
燻製肉。
骨付き肉。
全部買った。
「……うまい」
ディスナイズはどんなことをしでかさないか心配でついてきた。
「また肉ですか」
「……うまい」
「そうですか」
会話終了。
その途中。
恐る恐る近づいてくる者もいた。
商会長。
貴族。
王族。
様々だ。
「お、オーガ王様」
「少々お話を」
だが。
その全てを。
ディスナイズが綺麗に処理していく。
「申し訳ありません」
「後程正式な場を設けます」
「現在は準備中ですので」
笑顔。
完璧。
相手は満足して帰る。
参謀が優秀すぎた。
一方。
蜘蛛娘達は忙しかった。
卓の設営。
魔導映像。
中継準備。
記録係。
配当計算。
全員が走り回っている。
その中の一人が。
ヴォイドへ近づいた。
「その武器」
刀を見る。
魔属石を見る。
目が輝く。
「凄いわねぇ」
「担保にする?」
ヴォイド。
少し考える。
「……嫌だ」
即答。
蜘蛛娘は笑った。
「でしょうね」
また別の蜘蛛娘。
「あの映像のオーガ娘達」
「可愛かったわねぇ」
「今度連れてきなさいよ」
ナイザーが吹き出した。
「何だよその感想」
「人気あるのよ?」
「へぇ」
世界は広かった。
その頃。
会場中央。
最高席。
豪華な椅子。
赤い絨毯。
金装飾。
クリエイはそこへ座っていた。
腕組み。
ふんぞり返る。
「ほほう」
「これがVIP席か」
「さすがワイ」
「評価されとるな」
誰も何も言わない。
そして。
蜘蛛娘が首へ札を掛けた。
番号付き。
金属製。
クリエイが首を傾げる。
「なんやこれ」
蜘蛛娘。
にっこり。
「商品番号です」
沈黙。
クリエイ。
固まる。
ゆっくり後ろを見る。
机。
大量の書類。
契約書。
要望書。
見積書。
借用書。
投資計画書。
技術申請書。
研究計画書。
そして。
自分の席の上。
大きく書かれていた。
『特別研究資産』
『クリエイ』
クリエイが震える。
「……商品やん」
蜘蛛娘。
笑顔。
「商品ですね」
クリエイが叫んだ。
「人権どこいったぁぁぁぁ!!」
遠く。
裏VIPエリアのどこかで。
マダムの楽しそうな笑い声が響いていた。
舞台は整った。
国家賭博。
開幕まで。
あと少しだった。




