裏VIP
スパイダーウェブ。
深層区画。
豪華なカジノを抜ける。
煌びやかな照明。
金糸。
宝石。
笑う貴族達。
飛び交う金貨。
だが。
マダムは止まらない。
さらに奥。
豪華な廊下。
さらに奥。
使用人用通路。
さらに奥。
何故か。
大理石の巨大な便所。
クリエイが首を傾げた。
「なんでやねん」
「どこ向かっとるん?」
蜘蛛娘達は答えない。
マダムも答えない。
そのまま歩く。
そして。
最奥。
行き止まり。
壁。
完全な壁。
クリエイが眉をひそめる。
「終わりやん」
だが。
マダム達は止まらない。
そのまま。
壁へ向かう。
一歩。
二歩。
三歩。
スッ。
消えた。
「は?」
クリエイが固まる。
蜘蛛娘達も当然のように消える。
ディスナイズが眼鏡を押し上げた。
「転移結界ですか」
「似たようなものよ」
マダムの声。
壁の向こう。
ヴォイドは何も気にせず歩く。
そして。
消えた。
ナイザーも続く。
クリエイだけが取り残される。
「待て待て待て待て」
「説明しろや!!」
慌てて飛び込んだ。
暗闇。
狭い。
何もない。
石壁。
湿った空気。
クリエイが不安になる。
「なんやこれ」
数度曲がる。
階段。
また曲がる。
扉。
そして。
巨大な黒いカーテン。
マダムが笑った。
「ようこそ」
「裏VIPエリアへ」
カーテンが開く。
光。
眩しいほどの光。
クリエイが目を閉じる。
次の瞬間。
絶句した。
広い。
とてつもなく広い。
闘技場。
競売場。
賭博卓。
観覧席。
高級酒。
宝石。
金貨。
銀貨。
魔属石。
飛び交う。
そして。
人。
人。
人。
王族。
貴族。
豪商。
海賊。
将軍。
大神官。
ギルド長。
各国の重鎮達。
誰もがここにいた。
そして。
賭けていた。
「北方鉱山三年分で」
「受ける」
「なら港湾権を追加だ」
「金貨百枚上乗せする」
国家予算が飛び交っていた。
クリエイが真っ青になる。
「頭おかしいやろ……」
その時。
闘技場で歓声。
巨大魔獣。
六本脚。
暴れている。
調教師達が挑む。
観客達が叫ぶ。
「五分以内に制圧だ!」
「いや八分!」
「右の女調教師へ百枚!」
命は取らない。
だが。
金額がおかしい。
さらに別卓。
発明賭博。
研究者達が新技術を披露していた。
「新型蒸気機関!」
「魔力伝達機構!」
「どちらが十年後主流になるか!」
クリエイの目が輝く。
「なんやここ」
「天国か?」
蜘蛛娘達が呆れる。
そして。
突然。
会場が静かになった。
ざわめき。
広がる。
「来たぞ」
「蜘蛛の女王だ」
「主催者だ」
「マダムだ」
空気が変わる。
マダムが笑う。
優雅に手を振る。
観客達が頭を下げる。
そして。
次。
視線が動く。
ヴォイドへ。
静寂。
完全な静寂。
誰かが呟いた。
「オーガ王ヴォイド……」
別の誰か。
「魔王へ膝をついた怪物」
「巨大悪魔を単独撃破した」
「あの映像の……」
空気が凍る。
ヴォイドは。
何も気にしていなかった。
屋台の肉を見ていた。
「……うまそう」
ナイザーが頭を抱えた。
「そういうとこだぞ」
マダムが大笑いする。
「最高ね!」
「本当に最高!」
そして。
会場中央へ進み出た。
両手を広げる。
歓声。
拍手。
笑う。
そして。
高らかに宣言した。
「諸君!」
「本日の特別卓を開設するわ!」
観客達が湧く。
マダムが満面の笑みで言った。
「国家賭博よ!!」
会場が爆発した。
歓声。
悲鳴。
笑い声。
そして。
ディスナイズだけが。
静かに頭を抱えた。
「……帰りたい」




