国家賭博
スパイダーウェブ。
最上階。
マダム専用応接室。
豪奢な絨毯。
巨大な窓。
夜景。
その中央。
円卓。
マダムが上機嫌で座っていた。
机の上。
サイコロ。
カード。
ルーレット球。
色とりどりのチップ。
まるで子供のおもちゃ箱だった。
だが。
ここにいる全員が知っている。
この女は本気だ。
マダムが金色のチップを指先で転がす。
「国家間同盟」
「素敵な響きよねぇ」
ころん。
チップが回る。
「軍拡費」
「防衛費」
「研究費」
「遠征費」
「私兵維持費」
「交易費」
「施設投資」
「人材交流」
「色々あるじゃない?」
ディスナイズが静かに頷く。
「ありますね」
「そのためにここに来ました」
マダムが満面の笑みになる。
「だから決めましょう」
一拍。
そして。
両手を広げた。
「国家賭博で!」
沈黙。
蜘蛛娘達。
頭を抱える。
クリエイ。
ぽかん。
ディスナイズ。
無言。
ナイザーが小声で言う。
「始まったな……」
クロルも頷く。
「始まったな……」
マダムは気にしない。
ルーレット球を摘まむ。
ころころ。
指の上で踊る。
「話し合いだけで決めるなんて味気ないわ」
「人生には刺激が必要よ」
「だから魔王札で決めるの」
ディスナイズが眉をひそめる。
「魔王札?」
マダムがニヤリと笑う。
「知らない?」
「世界最高峰の賭博遊戯よ」
カードを扇状に広げる。
ゴブリン。
ドラゴン。
世界樹。
エルフ紋。
様々な絵札。
「お互い予算をチップへ変換」
「勝負」
「その割合で予算配分」
「上下関係」
「優先権」
「投資権」
「交渉権」
「全部決めるの」
蜘蛛娘達がざわつく。
「また始まった……」
「国家規模予算でやる人初めて見た……」
マダムはさらに楽しそうだった。
「例えば」
クリエイを指差す。
「この子」
クリエイ。
びくっ。
「どっちが獲得するか」
「賭けられるわよ?」
「えっ」
「は?」
「ワシ!?」
クリエイが自分を指差す。
マダムは続ける。
「例えば」
空中映像。
以前の映像。
ヴォイド国。
オーガ娘達。
訓練風景。
市場。
街並み。
「この子達の商業交流権」
「移住権」
「共同開発権」
「全部賭けられる」
蜘蛛娘達。
ざわつく。
ディスナイズ。
頭痛を感じ始める。
マダムは止まらない。
「運が悪ければ」
「ヴォイド国はスパイダーウェブへ吸収」
「運が良ければ」
「クリエイ獲得」
「研究費丸投げ」
「軍備増強」
「なんでもありよ!」
恍惚。
完全に恍惚だった。
ディスナイズが静かに言う。
「却下です」
即答。
「国家主権は賭博対象になりません」
「人材も同様です」
「同盟内容は契約書にて――」
「つまらない」
マダム。
即答。
ディスナイズ。
額を押さえる。
マダムが椅子へ深く座る。
「だからあなたは堅いのよ」
「賭博は人生」
「人生は賭博」
「国家もまた賭博」
クリエイが小声で呟く。
「なんやその理論……」
マダム。
無視。
そして。
ゆっくり。
視線を向けた。
ヴォイドへ。
その瞬間。
ニクマイを食べていたヴォイドが手を止める。
もぐもぐ。
飲み込む。
マダムが笑う。
「どう?」
「オーガ王」
「国家賭博」
「やる?」
部屋が静まる。
蜘蛛娘達。
固まる。
クリエイ。
固まる。
ナイザー。
嫌な予感。
ディスナイズ。
絶対反対してくれと思う。
だが。
ヴォイドは。
少し考えた。
本当に少しだけ。
そして。
静かに言った。
「……いいぞ」
沈黙。
全員。
止まる。
マダムも。
止まった。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
「ぷっ」
吹き出した。
肩が震える。
笑う。
笑う。
笑う。
大爆笑だった。
「あはははははははは!!」
「最高!!」
「最高じゃないの!!」
机を叩く。
涙が出るほど笑っていた。
「好きよそういうの!!」
ディスナイズが頭を抱える。
「ヴォイド様……」
クリエイも青ざめる。
「なんで了承するんや……」
ヴォイドは首を傾げる。
「……駄目?」
「駄目です」
ディスナイズ即答。
だが。
マダムはもう止まらない。
立ち上がる。
腕を広げる。
「決まり!!」
「裏VIPエリア開放!!」
蜘蛛娘達がざわつく。
「えっ」
「マジで?」
「あそこ使うの!?」
マダムは満面の笑み。
「今やってる卓は全部中止!」
「特等席も全部空ける!」
「中継も許可!」
「スポンサーも呼ぶ!」
「国家賭博開催よ!!」
蜘蛛娘達が悲鳴を上げる。
クリエイが青ざめる。
クライムが頭を抱える。
ナイザーが天井を見る。
クロルが笑う。
ディスナイズが記録を始める。
そして。
ヴォイドだけが。
残ったニクマイを口へ運んだ。
もぐもぐ。
静かに。
一言。
「……うまい」
誰も聞いていなかった。




