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違約金

スパイダーウェブ。


地下研究区画。


研究室。


ニクマイの香りがまだ残っている。


机の上。


山積みの契約書。


ディスナイズは無言だった。


一枚。


また一枚。


さらに一枚。


紙をめくる。


めくる。


めくる。


そして。


静かに額を押さえた。


「……なるほど」


マダムが微笑む。


「あら?」


「理解できたかしら?」


ディスナイズが契約書を整える。


「貸金自体は金貨五十枚」


「間違いありません」


クリエイが勢いよく立ち上がる。


「ほら見ろ!」


「やっぱり五十枚や!」


「ディスナイズはん!」


「助かったで!」


だが。


ディスナイズは続きを見ていた。


「研究室利用料」


一枚。


「施設維持費」


一枚。


「宿泊費」


一枚。


「活動支援金」


一枚。


「初期投資契約」


一枚。


「研究素材費」


一枚。


「特別危険物処理費」


一枚。


「損壊補填費」


一枚。


「爆発事故補填費」


一枚。


クリエイ。


笑顔が消える。


ディスナイズが静かに続けた。


「単純計算で」


「金貨三千枚程度でしょうか」


蜘蛛娘達がざわつく。


「三千!?」


「……へぇ……さ…ん…ぜ…?!」


クリエイが震える。


「さん……」


「ぜん……?」


だが。


マダムがくすりと笑った。


「そんな安いわけないでしょう?」


ディスナイズが顔を上げる。


マダムは契約書の一部を指差した。


「ここ」


「違約金条項」


ディスナイズの目が細くなる。


読み直す。


そして。


沈黙した。


マダムが嬉しそうに言う。


「違約金が発生した場合」


「過去の未払い金に対して」


「十日ごとに一割上乗せ」


クリエイ。


ぽかん。


クライム。


ぽかん。


クロル。


ぽかん。


ディスナイズだけが理解した。


「……複利ですか」


マダムが満面の笑み。


「ええ」


「複利よ♡」


蜘蛛娘達が引いた。


「うわぁ……」


「えげつない……」


ディスナイズは計算していた。


静かに。


本当に静かに。


そして。


そっと契約書を閉じる。


「理解しました」


クリエイが飛びつく。


「いくらなんや!?」


「言えや!!」


「いくらなんや!!」


ディスナイズ。


少しだけ哀れむ目になる。


「聞かない方が幸せです」


「言えや!!」


「言ってください!!」


マダムが紙をひらひらさせる。


そして。


満面の笑みで告げた。


天文学的数字だった。


研究室。


静寂。


クリエイ。


石化。


数秒後。


「無理やぁぁぁぁぁ!!!」


床へ崩れ落ちた。


蜘蛛娘達が苦笑する。


「まあそうなるよね」


「払えるわけないじゃん」


マダムは椅子へ腰掛けた。


足を組む。


そして。


一枚の提案書を取り出す。


以前。


インキュバスですら逃げ出した。


あの呪物開発計画。


提案書。


ぺしっ。


クリエイの顔へ貼り付けた。


「だから」


「頑張りましょうね♡」


「いややぁぁぁ!!」


「あんな呪物はもう嫌やぁぁぁ!!」


研究室に悲鳴が響く。


その時だった。


マダムがふと表情を変えた。


真面目な顔。


珍しく。


全員が静かになる。


「で」


「ここからが本題」


ディスナイズも姿勢を正した。


マダムは立ち上がる。


両腕を広げる。


妙にテンションが高い。


嫌な予感しかしない。


「ヴォイド国」


「スパイダーウェブ」


「そして魔王軍」


「今後色々調整が必要よね?」


ディスナイズが頷く。


「その通りです」


マダムがニヤリと笑った。


「だから決めたわ」


蜘蛛娘達。


嫌な顔になる。


「あ」


「その顔知ってる」


「ろくでもないやつだ」


マダムは高らかに宣言した。


「名付けて!」


一拍。


「国家賭博!!」


沈黙。


蜘蛛娘達。


頭を抱えた。


「また始まった……」


「国家を巻き込むな」


クライムが天井を見た。


クロルは笑いを堪えている。


ディスナイズはモノクルを外した。


「……何を言っているのですか」


クリエイはまだ床にいた。


ぽかんとしている。


「国家……賭博?」


「国家?」


「賭博?」


理解が追いついていない。


そして。


その場で唯一。


平常運転の者がいた。


ヴォイドだった。


もぐ。


ニクマイ。


もぐ。


肉。


もぐ。


食べる。


うまい。


その時。


ふと。


視線を感じた。


顔を上げる。


マダム。


満面の笑み。


完全に何か企んでいる顔。


ヴォイドは手を止めた。


そして。


静かにマダムを見る。


研究室。


全員が思った。


あ。


次の被害者決まった。


と。

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