引き抜き
スパイダーウェブ。
地下研究区画。
研究室。
ニクマイの香りがまだ残っていた。
蜘蛛娘達は食後で満足そうだ。
オーガ達も珍しく穏やかだった。
そんな中。
クリエイだけは。
机へ突っ伏していた。
大量の設計図。
魔蓄鋼。
魔力水。
冷却機関。
循環装置。
義手。
義足。
意味不明な図面が山になっている。
クリエイが勢いよく立ち上がった。
「できる!!」
全員が見る。
「できるで!!」
「魔蓄鋼ができたら!」
「魔力水も回せる!」
「義足でも!」
「義手でも!」
「なんなら補助外骨格でも作ったる!!」
蜘蛛娘達が引く。
「また始まった……」
「寝てない顔してる……」
クリエイは止まらない。
「砂漠用の揚水機!」
「冷却設備付き運搬箱!」
「魔力蓄積庫!」
「全部いける!!」
ディスナイズが静かに聞いていた。
そして。
ゆっくり口を開く。
「なるほど」
一拍。
「クリエイさん」
「あなたは国家級人材です」
研究室が静まる。
クリエイが止まる。
「……へ?」
ディスナイズは続けた。
「オーガ国として正式に提案します」
「研究費」
「材料費」
「設備費」
「生活費」
「活動費」
「交遊費」
「全てこちらで負担します」
クリエイの目が丸くなる。
ディスナイズはさらに言った。
「加えて」
「十年間で金貨千十五枚」
「報酬としてお支払いします」
沈黙。
クリエイ。
停止。
蜘蛛娘達。
停止。
クライムがぽつり。
「金貨……千……?」
ナイザーが眉をひそめる。
「多いのか?」
蜘蛛娘達が叫ぶ。
「多いなんてもんじゃない!!」
「一生二生三生生まれ変わっても遊んで暮らせるわ!!」
クリエイの瞳が。
金貨になった。
キラーン。
「マジか!!」
机を叩く。
「めっちゃええやん!!」
「それならそっちで腕振るわせてもらうで!!」
そして。
少し考えた。
「いや待て……」
「金貨三枚と銀貨二百枚……」
「それを毎年でええ」
全員が首を傾げる。
クリエイが真顔で言う。
「いっぱい持つと暴走する」
「残りは預かっといてくれ」
「十年後に残りはまとめて欲しい」
ディスナイズが頷く。
「承知しました」
ヴォイドも頷いた。
よく分かっていないが。
頷いた。
その時だった。
「それは困るのよねぇ」
全員が振り返る。
マダムだった。
優雅に椅子へ腰掛けている。
脚を組む。
笑顔。
だが目が笑っていない。
「その子を連れて行かれると」
「とても困るの」
クリエイが固まる。
「マダム?」
マダムは続ける。
「オーガ草の件は感謝してるわ」
「同盟も歓迎」
「魔王様との会談もぜひお願いしたい」
「でも」
視線がクリエイへ向く。
「この子にはまだ働いてもらうものが」
「いっぱいあるのよ」
そして。
一枚の紙を取り出した。
契約書。
クリエイの手形。
べったり。
押されている。
クリエイが青ざめる。
「あ」
蜘蛛娘達が目を逸らした。
「あー……」
「それか……」
ディスナイズが静かに頭を下げる。
「なるほど」
「以前伺ったペンタブラックリスト案件ですね」
マダムが頷く。
「そうよ」
ディスナイズは懐から袋を出した。
机へ置く。
金貨。
五十枚。
重い音。
ジャラリ。
「でしたら」
「ちょうど五十枚持参しております」
「これで解決ということになりますでしょうか」
静寂。
マダムが止まる。
笑顔。
そのまま。
動かない。
ディスナイズも止まる。
そして。
ふと。
違和感。
契約書を見る。
もう一度見る。
契約内容。
視線が走る。
次の瞬間。
ディスナイズの目が見開かれた。
「……なるほど」
顔を上げる。
マダム。
満面の笑み。
勝者の顔。
完全な勝者の顔。
ディスナイズは理解した。
あの契約書。
借金契約ではない。
投資契約だ。
しかも。
かなり昔から。
クリエイ育成のための。
長期契約。
つまり。
五十枚払えば終わる話ではない。
クリエイ本人だけが。
ぽかんとしていた。
「……え?」
「借金だけちゃうん?」
誰も答えない。
ヴォイドだけが。
ニクマイを食べながら言った。
「……うまい」
ナイザーが頭を抱えた。
「今それじゃねぇんだよ……」




