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オーガ草試食

スパイダーウェブ。


地下研究区画。


復旧された研究室。


蜘蛛糸で補強された壁。


新設された冷却管。


分厚い圧力容器。


そして。


中央には。


巨大なオーガ草の実が並べられていた。


赤黒い。


棘だらけの。


巨大なハート型。


蜘蛛娘達は距離を取っている。


「近くで見ると本当に気持ち悪い……」


「なんで食べようとしてるの……?」


「意味わかんない……」


だが。


オーガ達は真剣だった。


ヴォイドが実を持ち上げる。


重い。


異常に硬い。


クロルが手持ち鉈で叩く。


ゴンッ!!


鈍い音。


傷一つつかない。


「……これマジで割れねぇな」


ナイザーも眉をひそめる。


「前にヴォイド様が刀で切った時だけだぞ」


「普通の刃全部死んだし」


ヴォイドは静かに実を見ていた。


そして。


花粉が漏れている隙間。


ハートの割れ目。


そこを指でなぞる。


ぽつり。


「……ここから入れる」


ディスナイズが顔を上げる。


「内部浸透ですか」


ヴォイドは頷く。


酒の入った桶へ実を沈めた。


ぶくぶく。


細かな泡。


酒がゆっくり内部へ吸われていく。


蜘蛛娘達が少し引く。


「うわ……飲んでる……」


「生き物みたい……」


ヴォイドは気にしない。


次。


塩水。


さらに。


酢。


順番に漬け込んでいく。


ディスナイズが古文書を確認する。


「……一致しています」


「古文書には」


『数日酒へ沈めよ』


『臭気を抜くには塩』


『酸で締めよ』


「とあります」


クライムが紙へ記録する。


「完全に加工食品だなこれ……」


ナイザーが鼻を動かした。


「臭い変わってきてるぞ」


最初。


腐臭に近かった。


だが今。


少し違う。


穀物。


発酵。


甘い匂い。


ヴォイドはさらに水洗いする。


粘液が流れ落ちる。


黄色い花粉も減っていく。


そして。


巨大な鍋へ投入した。


蜘蛛娘達が身構える。


「爆発しないよね……?」


「昨日したばっかなんだけど……」


ぐつぐつ。


煮える。


オーガ草の実。


硬かった表面が。


少しずつ柔らかくなっていく。


その後。


蒸し器へ。


大量の蒸気。


熱。


時間。


静かな沈黙。


そして。


数刻後。


ヴォイドが実を持ち上げた。


湯気。


香り。


もう。


最初の臭気はない。


肉に近い。


穀物に近い。


腹が減る匂い。


蜘蛛娘達がざわつく。


「えっ」


「なんか普通に美味しそう……」


ヴォイドが指をかける。


ハート型の割れ目。


そして。


軽く力を入れる。


カポッ。


柔らかな音。


実が開いた。


あれだけ硬かった殻がいとも簡単に。


全員が止まる。


中。


白かった粒。


それが。


膨れ上がっていた。


何倍にも。


湯気を立て。


ふっくらと。


大量に。


増えている。


ナイザーが固まる。


「……増えてね?」


クライムも絶句。


「いや待て」


「なんでこんな増えるんだ」


クロルが中を触る。


「軽い……」


「しかも柔らけぇ」


ヴォイドは静かに一粒取る。


潰す。


もちり。


粘り。


だが臭くない。


そして。


焼いた肉を乗せる。


肉汁。


脂。


香辛料。


一口。


咀嚼。


静寂。


全員が見る。


ヴォイドは静かに頷いた。


「……うまい」


蜘蛛娘達が一斉に来る。


「ちょっと待って!?」


「ずるい!!」


「私も食べる!!」


研究室。


一気に食堂になる。


その横。


別机。


クリエイだけは。


別世界にいた。


目の下に隈。


髪ボサボサ。


大量の図面。


魔属石。


オーガの恵み。


そして。


黒銀色の金属塊。


クリエイがぶつぶつ言っている。


「せや……」


「循環や……」


「魔力水は副産物やったんや……」


ディスナイズが近づく。


「何かわかったのですか?」


クリエイが振り返る。


目が怖い。


「オーガの恵み」


「これ使って魔力を圧縮すると」


「魔蓄鋼ができる」


一拍。


「その過程で」


「余剰魔力が水へ溶け出しとる」


ディスナイズの目が細くなる。


「……つまり」


クリエイが笑う。


「魔力水は“排液”や」


蜘蛛娘達が止まる。


クリエイはさらに紙へ書き込む。


循環図。


精製図。


冷却機構。


「しかもこれ」


「一回使って終わりちゃう」


「特定魔属石を通せば」


「再生成」


「再精製できる可能性ある」


クライムが息を呑む。


「循環資源……?」


「せや」


クリエイが机を叩く。


「だから大樽二、三本分のオーガの恵みと」


「魔属石さえ揃えば」


「量産できるかもしれん!!」


音もなく後ろに立ったマダムが静かに笑った。


「……素敵」


全員が見る。


マダムはゆっくり椅子へ座る。


脚を組む。


「ならスパイダーウェブは全面支援するわ」


「設備」


「地下施設」


「冷却庫」


「輸送蜘蛛」


「必要なら全部出す」


蜘蛛娘達がざわつく。


「マダム本気だ……」


「国家案件になってる……」


ディスナイズが静かに頭を下げた。


「ヴォイド国に対して正式に協議します」


マダムが笑う。


「ええ」


「その代わり」


「ニクマイ」


「絶対流行らせましょう?」


その瞬間。


蜘蛛娘の一人が叫ぶ。


「おかわりください!!」


研究室が笑いに包まれた。


昔。


世界が忘れた穀物。


害草。


厄災。


そう呼ばれていたもの。


だが今。


そこには。


湯気を立てる料理と。


笑う人々がいた。


ヴォイドは静かにニクマイを食べる。


そして。


ぽつり。


「……舞う」


ナイザーが吹き出した。


「まだ言ってる!!」

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