頭
古式砂走艇に、全員が乗り込む。
長い船体。
底面には金属板。
左右には砂除けの板。
そして後部には、魔法使いが魔力を流し込むための制御席。
本来ならば。
魔法使い数人が交代で魔力を送り込み、数日かけて砂漠を越えるための乗り物だった。
ナイザーが舵へ座る。
クリエイは中央付近へ。
ヴォイドは後方へ立った。
ナイザーが振り返る。
「クリエイ」
「縁に捕まるか、中で寝そべってろ」
「あと顔に布巻いとけ」
クリエイが眉をひそめる。
「なんやそれ」
「子供扱いしよって」
「……まぁええわ」
そう言いながら。
縁に腰掛ける。
その時。
ヴォイドが懐から魔属石を取り出した。
黒紫色。
内部で鈍く光が脈動している。
クリエイの顔色が変わる。
「おい待て待て待て」
「危ないもん出すなや!」
「ここで暴発したら終わりやぞ!」
ヴォイドは無言。
東へ向き。
魔属石を構えた。
クリエイが首を傾げる。
「……なんや?」
「目印でもつけるんか?」
「いや待て」
「お前らオーガやろ」
「さっきもだけどそもそも魔力使えんわな……?」
「あれ?映像の魔法は…魔道具?…起動は?…」
ぶつぶつ唸る。
一拍。
ヴォイドが。
魔属石を起動した。
轟音。
爆風。
古式砂走艇が。
砂漠を弾丸のように射出された。
「ぎゃああああああ!!?」
クリエイが吹き飛びかける。
細腕で必死に縁へしがみつく。
髪が後方へ千切れそうな勢いで流れた。
何か叫んでいる。
だが。
風圧で誰にも聞こえない。
ナイザーは平然としていた。
舵を切り。
船体の角度を微調整する。
「やっぱ速ぇな……」
「ほんと意味わかんねぇ乗り方だ」
砂漠が後方へ吹き飛ぶ。
岩。
砂丘。
枯れ木。
すべてが流線のように消えていく。
一刻ほど。
その頃には。
太陽は沈みかけていた。
ナイザーが目を細める。
「……ヴォイド様」
「見えてきました」
ヴォイドが魔属石を止める。
爆風が消え。
古式砂走艇は慣性だけで滑走した。
砂との摩擦。
重い振動。
ナイザーが舵のグリップを握り込む。
船底の金属板が。
ガコン、と開いた。
ハの字に広がる。
速度が一気に落ちる。
やがて。
船は止まった。
そこには。
異様な景色が広がっていた。
一面の緑。
砂漠のはずだった。
だが違う。
地面を埋め尽くすツタ。
棘。
巨大な葉。
そして。
顔ほどもある。
赤黒いハート型の実。
だが。
表面には無数の棘。
見るだけで痛々しい。
さらに。
以前ヴォイドたちが切り倒した大樹。
あのヤシのような木でさえ。
完全に覆われていた。
葉も。
枝も。
実さえも。
すべて。
オーガ草へ侵食されている。
空気が黄色い。
花粉。
砂。
臭い。
むせ返るような植物臭。
ナイザーが顔をしかめる。
「……なんか痒ぃな」
クリエイも鼻を押さえた。
「最悪や……」
「目ぇ痛い……」
ヴォイドだけが。
平然としていた。
そのまま。
オーガ草へ歩いていく。
太い蔓を掴む。
引く。
だが。
抜けない。
地面の奥。
根が異常に絡み合っていた。
大きな毒々しい赤色の実を引き寄せる。
ヴォイドは腰の刀を抜く。
クリエイが叫ぶ。
「待て待て!」
「そいつ斬るん無駄や!」
「刃ァ死ぬぞ!」
ヴォイドは止まらない。
刀を振る。
斬撃。
ズバァン!!
巨大なオーガ草の実が切断された。
クリエイが固まる。
「……は?」
切断面。
硬質な繊維。
そこから。
白い粒が大量に溢れていた。
だが。
粒は粘液に覆われている。
ぬるり。
糸を引く。
異臭。
腐臭に近い。
クリエイが鼻を押さえる。
「うわっ臭っ!!」
「なんやこれ!」
「最悪や!」
だが。
ヴォイドは白い粒を見ていた。
じっと。
観察するように。
ナイザーが眉をひそめる。
「ヴォイド様?」
その時だった。
クリエイの視線が。
ヴォイドの刀へ固定される。
刃。
鍔。
内部。
埋め込まれた魔属石。
そして。
そこから流れている魔力。
クリエイの顔色が変わる。
「……おい」
「おいおいおいおい」
船酔いも。
花粉症も。
全部吹き飛んでいた。
グレムリンの眼が。
獲物を見つけた時のそれになる。
「魔属石が……生きとる」
「しかも加工済みや」
「なんで壊れへん」
「なんで流れとる」
「なんで指向性維持しとる」
クリエイが刀へ飛びつきそうになる。
「金属伝達で魔力流しとるんか!?」
「ありえへん!」
「理論上だけやぞそんなもん!」
ヴォイドは首を傾げる。
「……そうなのか?」
「そうなのかやない!!」
クリエイが叫ぶ。
「これ完成したら革命や!!」
「魔力蓄石作れる!」
「魔力をためれる!」
「組み合わせで永久駆動に近いことできる!」
「海水を真水に変える装置!」
「遠距離伝達!」
「大型灯火!」
「これからの技術全部変わるぞ!!」
ナイザーがぽつりと言う。
「……頭良いのに」
「なんであんな負けてんだこいつ」
「勝負事と研究は別や!!」
クリエイが即座に怒鳴った。
ヴォイドが顔を上げる。
オーガ草の海。
これらをどうするか…。




