武将
スパイダーウェブ。
煌びやかな街。
だが。
その裏側。
建物と建物の隙間。
湿った路地。
崩れた壁。
汚水の流れる石畳。
そこにも。
人はいた。
獣人。
亜人。
借金奴隷。
流れ者。
敗残兵。
この街に飲まれた者達。
昼だというのに。
スラムの中央では賭博が行われていた。
木箱を裏返した机。
欠けた皿。
木のお椀。
その中で。
サイコロが転がる。
「三!」
「嘘だろお前!!」
「金返せや!!」
笑い。
怒号。
酒。
汗。
腐臭。
欲望。
全部が混ざっていた。
そんな中。
異様な影が二つ。
ズシン。
ズシン。
オーガ。
クロル。
そしてクライム。
周囲の空気が止まる。
「……オーガ」
「なんでこんな所に……」
「やべぇぞ……」
逃げ腰になる者。
睨み返す者。
露骨に舌打ちする者。
だが。
クロルの胸元。
首から下がる。
銀の蜘蛛紋。
マダムの紋章。
それを見た瞬間。
空気が変わった。
「……っ」
「あれ……マダムの」
「嘘だろ」
途端。
皆の顔が青ざめる。
クライムは気にした様子もなく。
中央の井戸へ向かった。
そして。
銀貨を掲げる。
太陽光を反射し。
眩しく光った。
「私達が求める情報を持つ者」
「あるいは」
「持つ者を連れて来た者」
「それぞれ銀貨を払う」
静寂。
次の瞬間。
爆発した。
「おい!!聞いたか!!」
「銀貨だ!!」
「連れてこい!!」
「ジジイ呼べ!!」
「長耳の婆知ってるだろ!!」
人が走る。
路地裏へ。
酒場へ。
廃屋へ。
まるで蟻だった。
クロルは小さく目を細めた。
「……すごいな」
クライムは腕を組む。
「金の力だ」
「この街では特にな」
やがて。
次々と人が集められた。
片目の老人。
耳の欠けた獣人。
痩せ細った女。
種族も分からぬ混血児。
ボロボロの貴族服を着た男。
全員。
目だけがギラついていた。
クロルは一人ずつ話を聞く。
「西側の草原?」
「知ってるぜ……」
「近寄ると花粉で眼が潰れる」
銀貨。
「燃やしても燃えねぇ」
銀貨。
「昔は違う名前だった気がする」
銀貨。
「昔の井戸跡の近くは伸びが悪い」
クライムの眼が細くなる。
銀貨。
「昔は家畜の餌にしてたって婆が言ってた」
銀貨。
話すたび。
銀貨が消える。
スラムの連中は目を見開いていた。
「マジで払ってる……」
「しかもちゃんと聞いてる……」
「オーガなのに……」
クロルは首を傾げる。
「?」
「約束したからな」
それだけだった。
だが。
それが。
この街では異常だった。
騙す。
奪う。
踏み倒す。
それが普通。
だからこそ。
余計に不気味だった。
そして。
情報を連れて来た者にも。
ちゃんと銀貨が渡される。
受け取った瞬間。
皆。
狂ったように走った。
酒場。
飯屋。
賭博場。
薬。
借金返済。
金の使い道はいくらでもある。
クロルはその様子を見る。
「……忙しい街だな」
クライムは鼻を鳴らした。
「止まったら死ぬんだろ」
その時。
ふと。
クライムの視線が動く。
路地裏。
建物の隙間。
誰かいる。
だが。
次の瞬間には消えていた。
「?」
クロルが見る。
もう何もない。
薄暗い影だけ。
だが。
そのさらに奥。
黒布を巻いた数人が。
静かに二人を見ていた。
「……オーガ」
「間違いねぇ」
「ボーダイ家を潰したあいつと同じやつだ」
低い声。
憎悪。
そして。
恐怖。
男は震える手で。
短剣を握りしめていた。
「報告するぞ……」
「まだ終わってねぇ」
誰にも気づかれぬまま。
影は消えた。
スラムでは。
まだ銀貨が飛んでいた。
欲望と情報が。
渦を巻いていた。




