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オーガ草

ズズズ……。


地面の奥。


巨大な何かが蠢いていた。


オーガ草の海。


その奥。


棘の群れが揺れる。


ナイザーが眉をひそめる。


「……なんかいそうだな」


クリエイも嫌そうに後ずさる。


「絶対ロクでもないやつや……」


だが。


ヴォイドは違うものを見ていた。


切断されたオーガ草の実。


そこから溢れた。


白い粒。


粘液。


ぬめり。


異臭。


クリエイが鼻をつまむ。


「くっさ……」


「なんやこれ……腐っとるんか?」


ナイザーも嫌そうな顔をした。


「食えるようには見えねぇな……」


だが。


ヴォイドだけが。


しゃがみ込んでいた。


白い粒を摘む。


指で潰す。


ぬるり。


糸を引く。


粘液。


その瞬間。


ヴォイドがぽつりと言う。


「……水」


一拍。


クリエイが止まる。


「……は?」


ヴォイドは粒を指で擦る。


「…多い」


クリエイの顔色が変わる。


「……待て」


「この砂漠で?」


「この量の水分を?」


ナイザーも周囲を見る。


砂漠。


灼熱。


なのに。


ここだけ異常に湿っていた。


オーガ草の根元。


地面。


葉。


実。


全部が。


じっとりしている。


ヴォイドが実を持ち上げる。


巨大。


重い。


中身が詰まっている。


「……水を貯めてる」


クリエイの眼が細くなる。


技術者の目だった。


「せやから燃えへんのか……」


「せやからこの繁殖力……」


「地下水吸い上げとるんや」


ナイザーが周囲を見回す。


「……この量全部か?」


「頭おかしいだろ」


風。


黄色い花粉が舞う。


オーガ草の海が揺れた。


まるで。


巨大な生き物のように。


クリエイがぽつりと言う。


「これ……」


「そこらへんのただの害草ちゃうぞ……」


ヴォイドは返事をしない。


実を見ていた。


じっと。


考えるように。


一拍。


ヴォイドが刀を振る。


ズバン!!


巨大な実が裂けた。


クリエイが叫ぶ。


「無駄や言うとるやろ!!」


だが。


切断面。


中身。


白い粒が大量に詰まっていた。


粘液まみれ。


ぬるぬる。


異臭。


だが。


ヴォイドはその粒を見ていた。


「……食える」


ナイザーが首を傾げる。


「は?」


ヴォイド。


静かに言う。


「…食えると思う」


クリエイが変な顔になる。


「なんやそれ」


「あんたらだけの話しとる?」


ヴォイドは答えない。


しばらくして。


ヴォイド達は。


切れるだけオーガ草を刈り取った。


巨大な実。


蔓。


根。


白い粒。


全部。


古式砂走艇へ積み込む。


クリエイが嫌そうな顔をする。


「ほんまに持って帰るんか……」


「臭いんやけど……」


ナイザーも布を鼻へ巻いた。


「花粉やべぇしな……」


——————————


帰路。


スパイダーウェブ。


門前。


門番兵達が顔を引きつらせる。


「ま、待て!!」


「何を持ち込む気だ!!」


巨大なオーガ草。


門番兵達が一斉に後ずさる。


「いけません!!」


「他の植物が死ぬ!!」


「捨ててください!!」


「外で燃やせ!!」


クリエイがだるそうに言う。


「せやから研究や研究」


「たぶんこれただの雑草ちゃう」


門番兵長が顔をしかめた。


「あんたら正気か……?」


「それのせいで何人病んだと思ってる」


「今じゃ花粉症者は西側は近づくのも禁止区域だぞ」


ヴォイドだけが平然としていた。


そのまま。


オーガ草を担いで進む。


花粉が舞う。


兵士達が悲鳴を上げながら逃げた。


「ぎゃああああ!!」


「持ってこないでぇ!!」


「目が痒いぃぃ!!」


クリエイが笑う。


「大人気やなぁ」


「うるせぇ」


ナイザーが即答した。


その頃。


別室。


ディスナイズ達は。


大量の文献。


古文書。


羊皮紙。


地図。


植物記録。


全部を並べていた。


クロルが頭を掻く。


「スラムの年寄り共も変なこと言ってたぜ」


「昔はもっと緑だったとか」


クライムも頷く。


「“昔は食えた”って言ってた奴もいた」


「ただ名前が違うらしい」


ディスナイズは黙って文献を読んでいた。


静か。


高速。


眼だけが動く。


その時。


扉が開く。


ヴォイド達が戻る。


同時。


部屋中がざわついた。


「うわっ!!」


「持ってきた!?」


「なんで!?」


蜘蛛娘達が本気で逃げる。


クリエイが面倒そうに肩をすくめた。


「まぁそうなるわな」


ヴォイドは切断した実を机へ置く。


どん。


重い音。


ディスナイズが顔を上げる。


そして。


実を見る。


白い粒。


粘液。


棘。


臭い。


静かに。


立ち上がる。


近づく。


一拍。


ディスナイズが全員を制した。


「静かに」


全員が止まる。


ディスナイズは文献を一冊開く。


古い。


ボロボロ。


文字も掠れている。


だが。


そのページ。


植物図。


そこには。


棘のない。


滑らかなハート型の実が描かれていた。


色もうすれてはいるがこんな毒々しい赤色ではない。


もっと目にやさしいピンクの色をしていた。


ナイザーが目を細める。


「……違くねぇか?」


ディスナイズが頷く。


「現在のものとは別種に見えます」


「ですが」


ページを指差す。


そこに書かれていた文字。


古い魔族語。


ディスナイズが読み上げる。


「……ニクマイ」


沈黙。


クリエイが変な顔になる。


「名前?」


クライムが笑う。


「ニクマイ?」


クロルがみる。


だが。


ディスナイズは静かだった。


ページをめくる。


さらに読む。


そして。


目を細めた。


「……肉と共に食せば」


「舞うような味わいをもたらす」


「飢えを退ける神の穀物」


部屋が静まる。


ヴォイドだけが。


その名前を反芻していた。


「……舞う」


一拍。


ディスナイズが静かに本を閉じる。


「オーガ草」


「そう呼ばれるようになった記録は約百二十年前からです」


「それ以前」


「この植物は別名で存在していました」


ヴォイドが実を見る。


ディスナイズも見る。


そして。


静かに言った。


「……世界は」


「これを食べる方法を忘れたのでしょう」

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