出立
ディスナイズが咳払いを一つした。
「……話を戻しましょう」
わちゃわちゃと騒がしい空気が、少しだけ落ち着く。
タコ娘に首元を掴まれたまま。
グレムリンのクリエイはぶら下がっていた。
「んぁ?」
ディスナイズはマダムを見る。
「本来であれば」
「人手紙」
「賭博闘技」
「闇送り」
「そういった単語が並ぶ時点で、我々としては即時撤退も考える案件ですが」
マダムがくすりと笑う。
「正直ね」
「その反応が普通よ」
ディスナイズは続けた。
「ですが」
「このオーガ草の件、技術者の協力は必要不可欠と判断します」
一拍。
「クリエイ殿」
「同行願えないでしょうか」
クリエイがぴたりと止まる。
そして。
にやぁぁぁ。
と笑った。
「ええで?」
「報酬は?」
マダムが即座に頭を抱えた。
「あなたねぇ……」
クリエイは指を立てる。
「命懸けやで?」
「砂漠やで?」
「あの呪い植物やで?」
「しかもオーガ相手の専属顧問やで?」
「報酬上乗せ案件やろ!」
ディスナイズは真顔だった。
「ちなみに我々が雇わなかった場合は?」
マダムがにっこり笑う。
「闇送り」
クリエイが固まる。
「……」
「……わっかりましたー!!」
「闇送りは断る!!」
タコ娘が無言で頷いた。
完全に慣れていた。
ディスナイズは静かに話を進める。
「では役割を分けます」
「ヴォイド様」
「ナイザー殿」
「クリエイ様」
「現地確認を」
ナイザーが腕を組む。
「俺が監視役か」
「せやな!」
「この脳筋オーガだけやと絶対なんかやらかす!」
「お前も大概だ」
クリエイがげらげら笑った。
ディスナイズは続ける。
「私とクロル、クライムはこの街で情報収集を行います」
「オーガ草の歴史」
「文献」
「流通」
「被害」
「発生年代」
「植生記録」
「可能性があるものは全て拾います」
マダムが満足そうに頷いた。
「助かるわ」
「この街、金さえ払えば情報はいくらでも出てくるもの」
「正しいかは別としてね」
ディスナイズの目が細くなる。
「つまり」
「情報の価値は金額次第」
「ええ」
「それがスパイダーウェブ」
静かな笑みだった。
——————————
場面が変わる。
砂漠。
太陽は山に沈みかけ。
空に薄く二つの月が見え始めている。
巨大な外壁。
その門前に。
ヴォイド達は立っていた。
赤い砂が風に流れていく。
巨大門の前。
屈強な守備隊長デッカが腕を組んでいた。
金銀をあしらった鎧。
だが。
その身体そのものが武器だった。
「基本的に夜間は門は開きません」
低い声。
周囲の兵士達も無言でこちらを見ている。
「ですが北側の小窓、明かりが灯っている場所があります」
「そこで合言葉を」
ナイザーが眉を上げる。
「合言葉?」
兵長がゆっくり言う。
「この『季節』は」
「“砂漠に陽が落ちて”」
一拍。
「返答は」
「“夜となるころ”」
クリエイが感心したように口笛を吹いた。
「へぇそんなシステムやったん」
兵長は無視した。
「あと、こちらがマダムからお渡しするよういわれていた物になります」
門兵が布を外す。
そこにあったのは。
奇妙な乗り物だった。
細長い。
砂上船。
カヤックにも似ている。
後方座席。
両脇の補助席。
船底には。
魔属石が埋め込まれていた。
クリエイの目が輝く。
「おぉ……!」
「古式砂走艇やんけ!」
「まだ残っとったんかこれ!」
兵長が頷く。
「質に入っていた物です」
「魔法使い用の砂漠移動艇」
「操縦には魔力制御が必要ですが」
視線がヴォイドへ向く。
「貴方様なら問題ないでしょう」
ヴォイドは無言で船を見る。
手を置く。
微かに。
魔属石が淡く光った。
クリエイが目を見開く。
「は?」
「反応した?」
「オーガがなんで?」
ナイザーがため息を吐いた。
「いつものだ」
デッカ兵長は礼儀正しく一礼した。
「どうかよろしくお願いいたします」
「私もね……」
一拍。
兵長が鼻をすすった。
「……あの花粉症で困っているんですよ」
クリエイが吹き出した。
「兵長までかいな!!」
「笑い事ではありません!夜勤中にくしゃみが止まらず」
「膝をつきかけました」
笑顔だった。
ナイザーが顔を背ける。
肩が震えている。
ヴォイドだけが真面目に頷いた。
「……辛いな」
「ええ」
兵長も真顔で頷く。
夕陽。
砂漠。
巨大外壁。
そして。
奇妙な一行は。
西へ向かって進み始めた。




