表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/125

軽食

視線。


絡め取られるようだった。


マダムの無数の眼。


額。


頬。


首。


腕。


手の甲。


青い宝石のような瞳達が、

それぞれ別方向を見ながら、

オーガ達を観察している。


クロルが眉をひそめる。


「……なんか見られてんな」


クライムが鼻を鳴らした。


「全部こっち見てるぞ」


ナイザーは無言。


ディスナイズだけが、

マダムを見返していた。


この女。


ただ美しいだけではない。


観察している。


値踏みしている。


そう理解していた。


マダムは静かに微笑む。


「まずはお疲れ様」


声が柔らかい。


だが。


妙に耳へ残る声だった。


「遠路はるばる、

ここまで来てくださって、

ありがとうございますね」


長い袖が揺れる。


「本当なら、

わたくしから赴くべきなのだけれど……」


小さく肩を竦める。


「わたくし、

この国を離れると危ない、

よわぁい個体ですので」


クロルが吹き出しそうになる。


だが。


ディスナイズは笑わなかった。


この女。


自身が弱いなど、欠片も思っていない。


「大変お疲れでしょう?」


マダムがベルを鳴らす。


チリン。


「少し緊張を解しましょう」


「軽食にいたしましょうか」


蜘蛛娘達が静かに現れる。


「ここではなんですので」


案内された。


さらに奥。


豪華な食事室。


白い長机。


燭台。


金。


銀。


だが。


嫌味ではない。


洗練されていた。


マダムが振り返る。


「オーガの食事事情に詳しくなくて」


「何がお好み?」


ディスナイズが即座に頭を下げた。


「ご配慮、感謝いたします」


静かな声。


「ですが」


「我々は、友誼を結ぶ相談の元に参りました」


「ですので――」


一拍。


「同じものをいただきたい」


空気が少し止まる。


蜘蛛娘達の目が動く。


マダムの額の目が細くなった。


魔族流。


“対等”。


それを意味する言葉。


つまり。


新興国家オーガ国は、スパイダーウェブと同格になりたい。


そう宣言した。


クロルが汗をかく。


(怒られねぇかこれ)


だが。


マダムは笑った。


「……素敵」


その笑みは、少しだけ本物に見えた。


「では」


綺麗な手が上がる。


蜘蛛娘達が料理を運び始めた。


「軽食ですし」


「この後、お話もありますから」


「一気に運んでちょうだい」


料理が並ぶ。


豪華な皿。


純銀。


美しいフォーク。


スプーン。


ナイフ。


完璧な配置。


マダムは微笑む。


「ここには、

我々しかいないのだから」


「堅苦しいマナーなんて不要よ」


「好きに召し上がって」


ディスナイズは思う。


(マナーは不要と言っておきながら、この配置か)


つまり。


これは試験。


どう扱うかを見ている。


ディスナイズは頭を下げる。


「では先に、我々の文化をお伝えします」


全員が見る。


「我々は、食べられるものを最後まで食べます」


「苦手なものには手を付けません」


「ですが、食べると決めたものは残しません」


「そちらの、“少し残す礼儀”には反するかもしれませんが」


「ご理解いただければ幸いです」


マダムは静かに頷いた。


「文化を先に伝える」


「相手の文化も理解している」


「素晴らしいわ」


「嫌いじゃない」


料理が運ばれる。


蜘蛛娘達が、一言一句間違えず料理名を告げる。


「紅豆原種の温サラダ」


小皿。


美しい盛り付け。


赤い紅豆がたくさん蒸されている。


上には半熟卵。


オペラ鳥の卵。


さらに。


魔猪の最上肉を、胡椒燻製にした小間切れ。


粉雪のように、大量の白い削りチーズ。


ディスナイズの眉が、僅かに動く。


(紅豆原種……?)


紅豆。


一粒から万粒になる作物。


だが。


味は落ちる。


そして育成が難しい。


しかし、その内の1粒、元種と呼ばれる豆は1万倍の美味さであるとされる豆。


大量使用など、普通はありえない。


次。


「キングシュリンプ稚海老のサラダ」


ダークエルフ領産。


透明感のある小海老。


香草。


油。


香りが異常に良い。


キングシュリンプ。


成体は一メートル超え。


だが。


稚海老は小指を丸めたくらいのサイズ。


つまり。


鮮度維持したまま、超長距離輸送した。


ディスナイズは理解する。


(物流が異常だ)


次。


巨大皿。


「オペラ鳥若鶏の香蒸焼き」


六本。


香辛料まみれ。


表面はカリカリだが、中から肉汁があふれている。


湯気。


クロルの腹が鳴った。


「腹にくるかおりだ……」


クライムも見入っている。


オペラ鳥。


親鳥ですら危険。


雛を狙えば、群れ全体が狂暴化する。


その若鶏。


しかも大量。


次。


深皿。


細麺。


信じられないほど細い。


揃っている。


上品。


黄金色の油。


「マツバキ香油和え細麺」


添えられた赤。


魔鷹の爪。


香りだけで腹が減る。


ヴォイドが言った。


「……うまそう」


ナイザーが吹き出した。


ディスナイズは、静かに計算していた。


(この食卓だけで……)


(一人あたり銀貨五十枚は下らない)


一人前。


普通の人の半年分の金額。


軽食。


しかも。


惜しげもなく出す。


つまり。


この国は。


金を“見せるために使える”。


それが恐ろしかった。


——————————

 

食事は静かに始まった。


マダムは、ほとんど食べない。


ただ。


オーガ達を見る。


食べ方。


反応。


視線。


全部観察していた。


その時。


ヴォイドは2番目のフォークのみで食べ進める。


ヴォイドが、若鶏を掴む。


豪快に齧る。


肉汁。


香辛料。


煙香。


ヴォイドの目が少し開いた。


「……うまい」


静寂。


麺をすすり流し込む。


マダムが笑った。


今度は。


少しだけ、嬉しそうだった。


「それは良かったわ」


青い眼達が、ゆっくり細まる。


「では――」


「食べながら、お話を始めましょうか」


欲望の国。


スパイダーウェブ。


その宴が、静かに始まった。

なんの料理を参考にしたかは…おわかりいただけただろうかw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ