賭博国家
賭博国家。
スパイダーウェブ。
砂漠の中央。
巨大外壁都市。
高く。
白く。
そして。
異様なほど煌びやかだった。
壁には金。
銀。
宝石。
ただし。
成金趣味ではない。
“見せつけるため”の装飾。
力。
富。
支配。
それを示すための壁だった。
その上。
門番達が立っている。
金銀を散りばめた鎧。
豪華な外套。
宝石付きの剣。
だが。
目だけが違った。
血走っている。
眠っていない目。
常に周囲を観察していた。
砂漠。
空。
地平線。
他人。
全部。
監視。
その時だった。
監視兵の一人が、
目を細める。
「……なんだ?」
遠方。
砂煙。
だが。
妙だった。
速い。
異常なほど。
砂嵐に隠れる。
見えない。
だが。
もう遅い。
情報は即座に上へ流れていた。
鐘。
伝令。
怒号。
兵士達が動き出す。
弓兵が並ぶ。
弦を引く。
「未確認高速物体!」
「数不明!」
「迎撃準備!」
空気が張り詰めた。
その時。
重い足音。
ドスン。
ドスン。
ひときわ豪華な鎧。
金装飾。
赤外套。
腹の出た巨漢。
門兵隊長だった。
男は砂煙を見つめ。
鼻を鳴らす。
「……オーガだ」
周囲が静まる。
「門を開けろ」
弓兵が戸惑う。
「ですが――」
隊長が睨んだ。
「開けろと言った」
「死にたくなけりゃな」
静寂。
次の瞬間。
全員が動いた。
巨大門。
解放準備。
その間。
隊長は周囲を見渡す。
「誰か行きたい奴はいるか?」
瞬間。
全員が叫んだ。
「私が!」
「自分が!」
「やらせてください!」
若い兵士。
老兵。
全員。
目が血走っていた。
隊長は笑う。
金の匂い。
褒美。
昇進。
この国では。
情報が金だった。
隊長は一人を指差す。
痩せた若い兵士。
「お前だ」
兵士が震える。
「はっ!!」
「失礼のないようにな」
「マダムを待たせるな」
若い兵士は敬礼し。
次の瞬間。
全力で走り出した。
もし。
許可なく走れば。
逃走。
つまり死。
弁明は無い。
屍に口は無いからだ。
ここは。
恐怖と金が支配する国。
若い兵士は石畳を駆ける。
豪華な街。
光。
宝石。
酒場。
賭場。
悲鳴。
歓声。
全部無視。
その先。
巨大建築。
どこかの王宮より豪華。
白金と黒金。
蜘蛛の装飾。
スパイダーウェブ中央館。
入口。
蜘蛛娘が立っていた。
美しい。
だが。
目が冷たい。
兵士は即座に膝をつく。
「守備大隊長デッカ隊長より伝令!」
「奴隷番号Mの00613です!」
「お目通りと報告をお願いいたします!」
蜘蛛娘は数秒見つめ。
静かに頷いた。
「こちらへ」
脚音がしない。
静かだった。
兵士は震えながら続く。
案内されたのは、小部屋。
暗い。
狭い。
教会の懺悔室のようだった。
壁の向こうは見えない。
だが。
そこに“いる”。
兵士は即座に跪く。
「報告いたします!」
声を張る。
何度も練習した発声。
正確に。
簡潔に。
「南方よりオーガ勢接近!」
「確認人数複数!」
「門到達予測、間もなく!」
「また!」
「奴隷手紙として送付した二名、目視確認!」
静寂。
沈黙。
冷や汗。
兵士は俯いたまま動かない。
その時。
カタン。
小箱。
隙間。
中へ。
金貨一枚。
兵士の呼吸が止まる。
金貨。
本物。
兵士は慌てて拾い上げた。
震える。
涙が滲む。
金貨一枚。
人が一年。
死ぬ気で働く金額。
兵士は額を床へ打ち付けた。
「ありがとうございまず!!」
声が裏返る。
壁の向こう。
女の声が小さく笑った。
「ご苦労様」
それだけだった。
兵士は何度も頭を下げながら退出する。
扉が閉まる。
静寂。
そして。
チリン。
小さなベル。
蜘蛛娘が入室する。
「お呼びでしょうか、マダム」
壁の向こう。
女の声。
落ち着いた。
妖艶な声。
「湯浴みを用意してちょうだい」
「あと食事も」
少し間。
そして。
「……あんまり早いから、
間に合わないかしら?」
蜘蛛娘は即答した。
「二日前より、
会食用料理は常時準備しております」
沈黙。
そして。
クスリ。
女が笑った。
「素晴らしいわ」
「やっぱり、貴女達は優秀ね」
蜘蛛娘は頭を下げる。
その頃。
巨大門の向こう。
砂煙。
轟音。
異常な速度で。
オーガ達が到着しようとしていた。




