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大陸縦断

出発は早かった。


夜明け前。


空気がまだ冷たい時間。


オーガ国中央門前。


クロルとクライムが、縄を引っ張っていた。


その先。


使者の人間と獣人。


二人とも、大量の荷物を背負わされている。


若いオーガ兵が困惑していた。


「……持たせるんですか?」


ナイザーが頷く。


「当たり前だ」


「自分の荷物は自分で持つ」


人間の使者が青ざめる。


「いや待っ――」


その瞬間。


クロルが片手で持ち上げた。


「おら」


縄。


ぐるぐる。


背中へ固定。


獣人が悲鳴を上げる。


「ちょっ!?」


クライムが笑う。


「飛んでくなよー?」


ディスナイズが真顔で確認した。


「固定良し」


「落下時回収不能のため、絶対に離さないように」


人間の使者が震えた。


「落下ってなんだ……?」


ヴォイドが歩き出す。


それが合図だった。


ドゴォン!!


地面が爆ぜる。


若いオーガ兵達が歓声を上げた。


「うおおお!!」


「速ぇぇぇ!!」


オーガ達は走る。


ただ。


ひたすら。


真っ直ぐ。


山。


岩。


川。


崖。


全部無視。


踏み砕く。


飛び越える。


人間の使者は開始十分で泣いていた。


「速い速い速い速い!!」


獣人は白目だった。


風圧。


振動。


衝撃。


普通の馬など比較にならない。


ヴォイドはその先頭を走っていた。


特別なことはしない。


ただ速い。


異常なまでに。


その背を見ながら、クロルが笑う。


「やっぱ速ぇなぁ……」


クライムも笑う。


「合わせてくれてこれだぞ」


ディスナイズは普通に計算していた。


「現在速度、推定時速百二十以上」


人間の使者が絶叫した。


「意味わかんねぇ!!」


その日。


山を越えた。


翌日。


さらに北。


三日目。


中央山脈半分を突破。


そして五日目。


北砂漠入口。


普通なら。


三十日。


いや。


この使者達は、

家族を人質に取られながら、

死ぬ気で三十日走った。


だが。


オーガ達は違った。


疲れていない。


若干汗ばんでいるだけだった。


砂漠入口。


商隊拠点。


そこにいた商人達が、腰を抜かした。


「は?」


「え?」


「なんで南側からオーガが来る!?」


人間の使者が、涙目で叫ぶ。


「五日だぞ!?オーガの国から!!」


商人達が固まる。


「五日で!?」


「は?」


水商人が近づいてきた。


「水だ!」


「高品質保存水!」


「水袋1つ銀貨5枚!」


ディスナイズが眉を寄せる。


「通常相場の一万倍ですね」


ナイザーが鼻で笑う。


「クソ商売」


だが。


ヴォイドは普通に金貨を出した。


ジャラッ。


商人の目が飛び出る。


「買うのか!?」


ヴォイドは頷く。


「必要だ」


それだけだった。


大量の水袋。


保存肉。


塩。


全部購入。


商人達がざわつく。


「あの値段で……?」


「躊躇無しか……?」


その後。


全員が休憩していた時だった。


ヴォイドが立ち上がる。


近くの長木へ歩く。


刀。


一閃。


ズバァン!!


巨大木が倒れる。


商人達が悲鳴を上げた。


「何してんだ!?」


ヴォイドは無言。


さらに刀を振るう。


切る。


削る。


抉る。


V字。


巨大な舟みたいな形。


中空。


全員乗れる。


人間の使者が呆然と呟く。


「……船?」


ナイザーが顔を覆った。


「またあれか……」


ディスナイズが真顔になる。


「推進方法は」


ヴォイド。


腰の袋から、魔属石を取り出す。


爆風石。


クロルが吹き出した。


「はははは!!」


「マジか!!」


クライムが腹を抱える。


「死ぬ死ぬ!!」


人間の使者が震え始める。


「待て」


「嫌な予感しかしねぇ」


ナイザーが全員を見る。


「縁を掴め」


「死にたくなきゃな」


人間の使者が青ざめた。


「死ぬ前提!?」


獣人は泣いていた。


「帰りたい……」


全員搭乗。


ヴォイドは最後尾へ座る。


魔属石起動。


ゴォォォ……


空気が唸る。


次の瞬間。


ドォォォォン!!!


船が爆走した。


砂漠。


一直線。


砂煙。


衝撃。


跳ねる。


飛ぶ。


曲がらない。


人間と獣人は即気絶した。


だが。


縄で固定されている。


飛ばない。


クロルが大笑いしていた。


「最高だぁぁぁ!!」


クライムも叫ぶ。


「もっと飛ばせぇ!!」


ディスナイズだけが冷静だった。


「右へ傾斜三度」


「このままだと転覆します」


ナイザーが怒鳴る。


「左寄れぇ!!」


全員でバランスを取る。


船。


いや。


もはや凶器だった。


普通なら。


十日。


砂漠越え。


だが。


夜走り。


朝。


太陽が昇る頃。


そこに。


巨大壁が見えた。


光。


塔。


無数の灯。


砂漠の中に輝く巨大都市。


スパイダーウェブ。


気絶から目覚めた人間の使者が、

涙目で呟く。


「……着いた?」


獣人が空を見上げる。


「うそだろ……」


「こんな時間で……」


商人達がこちらを見ていた。


呆然。


恐怖。


驚愕。


その中。


獣人の使者が、ふらつきながら笑った。


「これ……」


「商売になるぞ……」


ディスナイズが即答した。


「死亡率が高すぎます」


ナイザーが続ける。


「あと客が吐く」


クロルが笑う。


「ははは!!」


「細けぇことだ!!」


その背後。


スパイダーウェブ。


巨大な欲望の国が、彼らを待っていた。

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