閑話:食
世界は、腹で生きている。
どれほど強い国も。
どれほど誇り高い種族も。
食わねば死ぬ。
それは変わらない。
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ルインズ王国。
冬。
石造りの家。
痩せた母親が、鍋をかき混ぜていた。
薄い。
ほとんど水のようなスープ。
具は少ない。
芋。
干し草のような野菜。
小さな豆。
それだけ。
子ども達は、
固い黒いライ麦パンを浸して食べていた。
ぼそぼそと崩れる。
噛む力が必要なパン。
だが。
それでも食べる。
食べねばならない。
街では。
「税がまた上がるらしい」
「冒険者も減った」
「物流が死んでる」
そんな声ばかりが流れていた。
食卓は。
その国そのものだった。
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宗教国家カルトマイコン。
巨大大神殿。
長机。
並ぶ白衣。
祈り。
そして。
小さなパン。
塩気の薄い野菜煮込み。
乾燥果実。
量も少ない。
質素。粗食。
それが美徳とされていた。
司祭達は静かに食べる。
聖女候補達もまた同じ。
だが。
最近は違った。
食卓の空気が重い。
戦争。
敗北ではないと宣言された敗北。
魔王。
オーガ。
誰もが、何かを考えながら食べていた。
女騎士オーレナイは、冷えたスープを飲みながら
報告書と意見陳述書を読んでいた。
「また寝てないんですか」
そう言われても、返事をしない。
パンを一口。
硬い。
味気ない。
だが今は、それどころではなかった。
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ドワーフ国。
熱。
炉。
煙。
金属音。
そこでは、食事すら仕事の延長だった。
職人達は、酒とも水ともつかぬ発酵飲料を飲む。
薄い葡萄酒のようなもの。
水代わり。
汗をかくからだ。
丸パンを片手で齧り。
小魚の干物を焼く。
時には。
オーガ国から届いた魔物肉。
巨大な串焼き。
脂が落ち。
火が爆ぜる。
「おい!焦がすな!」
「この肉高ぇんだぞ!」
笑い声。
怒鳴り声。
そして。
鍛冶槌。
ドワーフ達は、食いながら働く。
働きながら食う。
それが普通だった。
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エルフ領。
森。
木漏れ日。
静かな食卓。
果実。
木の実。
香草。
薄切りにされた魚。
最近では。
ダークエルフ達から届く海産物も増えた。
干物。
塩漬け。
燻製。
長年争っていた両者は、食を通して繋がり始めていた。
「この魚、美味しいですね」
「そちらの果実も悪くない」
小さな会話。
昔ではありえない光景。
オーガが穿った山道。
海から山への一本道。
その物流が。
世界を少しずつ変えていた。
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そして。
オーガ国。
そこだけ。
明らかに変わり始めていた。
巨大木柵。
解体中の丸太建築。
増える煙。
肉の匂い。
活気。
若いオーガ達が、大量の魔猪を運ぶ。
巨大な牙。
分厚い脂。
さらに。
魔鶏。
大型の鶏。
その養殖にも成功していた。
卵。
肉。
羽。
全部使える。
供給が安定し始める。
それは。
国の余裕を意味していた。
広場中央。
巨大鉄板。
その前に、ヴォイドが立っていた。
若いオーガ達が集まっている。
ヴォイドは、黙って肉を見ていた。
硬い。
筋が強い。
普通に焼くとまずい。
ヴォイドは肉を置く。
石槌で叩く。
潰す。
伸ばす。
さらに刻む。
脂を混ぜる。
香草を入れる。
丸める。
焼く。
ジュゥゥゥ……
肉汁。
匂い。
若いオーガ達の目が輝いた。
「なんだこれ」
「潰してる……」
「肉を壊した……?」
ヴォイドは答えない。
焼く。
裏返す。
さらに押す。
やがて。
巨大肉団子のような料理が完成した。
切る。
中から肉汁が溢れる。
ヴォイドが食べる。
子ども達が食べる。
顔を見合わせる子ども達。
沈黙。
そして。
「……ウマイ」
周囲がざわつく。
メントも食べる。
目を見開く。
「柔らかい……」
ナイザーが腕を組む。
「なんでだ」
ヴォイドは短く答えた。
「叩いた」
若いオーガ達が騒ぐ。
「叩けばいいなんて!!」
「天才だ!?」
完全に料理革命だった。
さらに。
巨大骨付き肉を、表面だけフライパンで焼き。
葉で包み。
熱した石で蒸し焼きにする料理。
“オーガ焼き”
骨を砕き、長時間煮込んだ白濁スープ。
“岩骨汁”
肉と刻み野菜を、熱した鉄板で挟み焼く。
“潰し焼き”
次々と料理が増えていく。
オーガ達は強い。
だからこそ。
大量調理ができた。
力がある。
運べる。
潰せる。
焼ける。
国中へ、肉の匂いが広がる。
やがて。
外交用料理まで考案され始める。
「エルフには野菜増やすか」
「ドワーフには塩濃いめだな」
「人間はパン好きらしい」
オーガ達が真剣に悩んでいた。
その中心には、いつもヴォイドがいた。
本人に自覚は無い。
ただ。
美味い方がいい。
それだけだった。
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夜。
遠い北。
砂漠を越えた魔族領。
賭博国家。
豪奢な部屋。
煙。
酒。
華美な果実が切り分けられている。
赤い照明。
長い脚を組み。
女が笑っていた。
マダム・スパイダー。




