表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/110

謁見

ドワーフの街に、異様な列が入ってきた。


先頭と最後尾。

そして左右。


重装のドワーフ兵が囲んでいる。


槍。盾。

視線は鋭く、間合いは詰めすぎない。


一歩で届く距離ではない。

だが、二歩で仕留められる距離。


計算された配置。


——護衛ではない。


監視だった。


その中心を、オーガの一団が進んでいる。


石畳を踏む足音が、重く、一定に響く。


通りに立つドワーフたちは、思わず手を止めた。


鍛冶の槌が止まる。

炉の火を見ていた者が顔を上げる。


視線が、一斉にその列へ向く。


「……オーガだぞ」

「囲ってる……」

「討伐、じゃないのか?」


ざわめきが、波のように広がる。


だが——違和感が残る。


「いや……なんか、おかしくないか?」

「服……着てるぞ」

「しかも、揃ってる」


視線が、列の内側へ集中する。


オーガたちは、暴れない。

騒がない。


歩幅が揃っている。

呼吸が乱れていない。


視線がぶれない。


ただ——前を見て進んでいる。


「……整ってる」


誰かが、ぽつりと呟いた。


その言葉が、妙に残る。


本来ならありえない。


囲まれれば暴れる。

怒る。吠える。


それがオーガだ。


だが——違う。


囲まれているのに、従っているように見えない。


ただ——同じ方向へ進んでいるだけ。


命令されているのではない。


“理解して動いている”。


その違いが、説明できない。


「……なんで王宮に向かってる」

「まさか……謁見か?」

「ありえねぇだろ……」


噂と推測が、積み重なっていく。


そして——列は止まらない。


そのまま、王宮へと入っていった。


 


高い天井。


石造りの巨大な空間。


冷たい空気。

足音が反響する。


玉座へ続く階段。


謁見の間。


オーガたちは並ぶ。


膝はつかない。


だが——乱れもない。


その背後。


距離を取り、ドワーフ兵が配置につく。


弓は張られ、槍は向けられている。


完全な警戒。


それでも——


場の中心にある“圧”は、別の場所にあった。


オーガの列。


その静けさ。


その揃い。


それが、空間の重心を奪っていた。


周囲のドワーフたちが、小さく息を呑む。


(……普通のオーガじゃない)


王宮付きの外交官が、確信する。


通常のオーガであれば——


暴れる。

奪う。壊す。


会話は成立しない。


そして何より——価値を知らない。


金も。

銀も。


鉄剣一本がどれだけの価値を持つかも理解しない。


鉄剣一本で、一金貨。


それは人間が一年で稼ぐ金額に近い。


鎧一式なら、三金貨以上。


六体分を揃えれば——


十数金貨。


質を求めれば、二十を超える。


それを——


オーガが求めている。


違和感は、もう疑いではない。


(こいつらは、“価値”を理解している)


その時——


階段の上から声が落ちる。


「私はこのドワーフ国の統率者、ドヴェルグと言う」


ドワーフ王。


姿は他と大差ない。


だが——重い。


そこに立つだけで、空気が締まる。


深く刻まれた顔の傷。

熱で焼けた皮膚。

分厚い腕。


積み重ねた時間が、そのまま圧になる。


「そなたたちオーガの取引について話を聞こうと思う」


わずかに間。


「まずは、この国に対して戦闘の意思がないことは確認したい。どうか?」


沈黙。


空気が張る。


視線が集まる。


そして——


三本角が、一歩前に出る。


ニズム。


これまでの短い言葉。


だが——


今、その呼吸が変わる。


「……我々は、この場で戦わない」


最初は、短い。


だが、続く。


「理由は単純だ」


一拍。


言葉を選ぶ。


組み立てる。


「ここは、壊す場所ではない」


ざわめきが、わずかに走る。


ニズムは止まらない。


「我々は——作るために来た」


言葉が繋がる。


途切れない。


「我が王に誓っている」


「無駄な戦闘はしない」


「必要なものだけを取る」


「それ以外は——触れない」


静かに、しかし確実に。


言葉が場に積み上がっていく。


ドワーフたちの視線が変わる。


理解し始める。


「我々は鉄の装備が欲しい」


「剣。槍」


一拍。


「防具一式」


そして——止まらない。


「理由は明確だ」


「生き残るためだ」


「守るためだ」


「次に進むためだ」


言葉が、重なる。


強くなる。


ニズム自身が、それを感じている。


言葉が——通じる。


力になる。


その感覚を、掴み始めている。


ドワーフ王は、わずかに目を細めた。


「……あいわかった。その言葉は信じよう」


一拍。


「では次だ」


視線が樽へ向く。


「量と質を聞こうか」


空気が、さらに重くなる。


「対価として、そなたたちは何を持ってきた?」


ニズムは、樽を見る。


そして——言葉を選ぶ。


今度は、迷わない。


「量は——百」


ざわめき。


その数の重さを、誰もが理解する。


ニズムは続ける。


「質は、条件を出す」


視線が集まる。


「壊れないこと」


「繰り返し使えること」


「我々の力に耐えること」


明確。


具体。


曖昧さがない。


そして——


一歩、踏み込む。


「対価として——」


間。


だが、その間は“詰まり”ではない。


“選択”だった。


「この鉱石を持ってきた」


樽を示す。


「オーガ鉱石」


言い切る。


ざわめき。


だが——今度は笑いが弱い。


ニズムは続ける。


止まらない。


「硬い」


「溶けない」


「削れない」


一拍。


「だから捨てられた」


視線が刺さる。


だが——受ける。


「だが、それは“使えない”ではない」


空気が変わる。


「“まだ使い方がない”だけだ」


沈黙。


ニズムの目が、わずかに細くなる。


思考が、そのまま言葉になる。


「もし——」


「これを加工できるなら」


「価値は変わる」


「鉄とは別の強さになる」


「新しい道具になる」


言葉が積み上がる。


もう、途切れない。


「今回の価値は二つだ」


指を一本立てる。


「量」


もう一本。


「可能性」


言い切る。


「我々は、それを対価として提示する」


完全な沈黙。


計算が走る。


金ではない。


数字でもない。


技術。


未来。


それを——差し出された。


ドワーフ王は、ゆっくりと口角を動かした。


「……面白いな」


低く。


重く。


その一言で——


場の空気が、完全に変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ