ヴァイス(2回目)-4
「それで、次はどうするんだい?」
コバトに大量のお菓子を作ることを確約されてしまったヴァイスは料理長に怪訝な顔をされながらも、なんとか作ってくれるという約束を取り付けれた。
それを聞いていたコバトは先ほどからこの調子で機嫌がとてもいい。
「まずは、このローゼ・ルヴァについての資料が今朝、届いた。これをみる限りローゼ・ルヴァの様子がおかしくなったのは最近のようだ。これに心当たりは?」
「ザクロが過去戻しなんてことをした時点でなんとなく察しはついていたが、面倒なことを引き受けてるな」
ヴァイスから渡された資料を斜め読みをしてコバトは小さくため息をついた。
「面倒とはなんだ?」
「コイツにはアタシらの同族が憑いてる。と言ってもアタシらのなり損ないみたいなものだ。変に力のあるせいで、人との契約の仕方を学習しちゃったんだろ。
こっちはザクロがなんとかすると思うから、襲われたら運が悪かったと思え」
確かに契約には命を助けるなんてことはなかったため、この冷めた言葉は当たり前だとヴァイスも思うが、せめて、アドバイスくらいは欲しかった。
だが、この程度で引き下がるわけではない。
ヴァイスは資料の1ページにローゼが出席する仮面舞踏会の招待状に偽名で署名した。
コバトは時間外労働はする気はないようで、下町で飲んでくると言い、城を飛び出してしまった。
仕方がなく、ヴァイスは1人で出席をする。
愛想笑いと社交辞令、さりげなくルヴァ男爵についての噂などもかき集める。
一言聞いただけで、聞きたくもない雑言を綺麗な言葉で包んで言う、ああ、嫌になる。
だが、彼らをまとめなければいけないのだ。
それがヴァイスの宿命なのだ。
ヴァイスは夜風にあたろうとバルコニーに出ると、すでに先客がいた。
寛容な人のようで、同席を許された。
彼女と話している間は社交辞令などもなく楽しいと久しぶりに思った。
不意に彼女は黙り込み、哀愁を漂わせながらある話をした。
その話に出てきた婚約者にヴァイスは共感した。
そして確信した、彼女はカトレアだと。
「愛していたのでしょう」
そう言ったことは間違いじゃない。あの時、まだ少し息があったのだ。懸命な祈りが通じたのだ。
その事実だけ、カトレアが未練もないような言動をすれば、それだけで良かったのだ。
そうすれば、諦める決心がついたのに。
可愛く、耳や首まで真っ赤にして全身から嬉しいと言っている。
やっぱり、好きだなぁ。
自分の中に渦巻くどす黒い感情を無理矢理にでも白くする。でなければ、きっとカトレアを別の意味で傷つけた。
カトレアが離れていき、緊張が解けたようでヴァイスはその場にへたり込む。
「さっさと帰らないと、いろいろもたない」
ヴァイスはルヴァ男爵家のことに確信を持ってから城に戻った。
執務をしていた国王のもとに直談判し、ルヴァ男爵家に関することなどを洗いざらいはいて、婚約破棄のために教会堂を借りることに成功した。
「いいのか?この婚約はお前が望んだことだったんだぞ。あんなに嬉しそうだったのに」
ヴァイスの作った契約書にサインをする父がヴァイスを心配する声をかけた。
父のこんな顔を見たのはいつぶりだろう。
「ああ、いいんだ。もう」
父は完全に署名をした。
ごめんな、カトレア、もう直ぐ終わるから。
客人も舞踏会の時に出会った男もヴァイスでした。
ちゃんと国王は国のことももちろんだが、1人の父親として祝福していました。そのためにたくさん根回しして、婚約者までこじつけました。
ヴァイスのカトレアを前にした時の言動も緊張していたことも見抜いていましたが、そのうち打ち明けるだろうとどこか楽観的に考えていたら、まさかの婚約破棄。内心ぽかーんと口を開けるほど驚いていました。




