ようこそ、星の家へ
スーツケースを片手に、僕は玄関の前で固まっていた。
「……ここが、シェアハウス“星の家”……?」
案内写真で見たよりも、ずっと派手だ。
壁はやたらに光沢を放っているし、屋根にはアンテナとも飾りともつかない突起がぎっしり。
……いや、これもう住宅っていうより宇宙船じゃないか?
おそるおそるドアノブを回すと、カラン、と可愛らしいベル音が鳴った。
中からはにぎやかな声がざわざわと溢れ出してきて、僕は思わず身構える。
次の瞬間__
バンッ! 目の前のドアが乱暴に開いた。
「やっほーーーっ!!!」
勢いよく飛び出してきたのは、やたら明るい少年。にこにこ笑顔で僕に手を差し伸べてくる。
「君が今日から来るって噂の、天体オタクくんでしょ!? 僕、ティエラ! 地球担当です! よろしくぅぅ!!」
「ちょ、ちょっと待って!? 地球……って何!?」
僕が一歩後ずさる間もなく、彼の背後からふわふわと別の人物が現れる。
「ソ〜ウ〜レ〜〜☆ 太陽だよ〜〜〜☆ 今日もぽかぽか〜☆ まぶしいでしょ〜?」
半分寝てるような笑顔を浮かべた男が、両腕を広げて伸びをする。
「まぶしいというか……まぶしすぎるんだが!? 誰!?」
「え、えっと……」さらにひょこっと顔を出す少女がいた。
「わたしは、リュンヌ……月、です。
地球の……衛星で、いつもそばに、います……よ、よろしく……」
おずおずした小さな声。
なんかもう、ツッコむ気力が削れていく。
そのとき、廊下の奥からドタドタと足音が響いた。
「おぉ!?新入りか!!?オレはカセ!火星だっ!!
やっべ〜ティエラ!
マーキュが知らないか?
ピジュタのプリン食べちゃったからめちゃくちゃアイツ怒ってるぞ!!」
「ええぇ!?また!?
全くもう…マーキュったら…
今ゲスト来てるから後でね!」ティエラが慌てて返す。
直後、廊下からお玉を持った巨体がのっそり登場した。
「ぼくの……プリン……誰か、食べたよねぇ……?」
のんびりした口調とは裏腹に、手のお玉がやたら物騒だ。
「あの、ちょ……ほんとに何!? なにこの家!? 星の名前名乗ってるけど、みんなキャラ濃すぎだろ!!」
叫ばずにはいられなかった。
すると、ティエラが胸を張ってドヤ顔を決める。
「だってここは、“太陽系の星たち”が暮らすおうちだからね☆」
「いやいやいや!! シェアハウスって普通、人間同士じゃないの!?」
「ん〜でもさ」ソウレがだらりと笑う。
「君も人間だけど星が好きなんでしょ?
だったらもうほぼ仲間じゃない?」
「……わたし、こういうの……きらいじゃないです……」
リュンヌが頬を赤くする。
「ねぇ人間くん」ピジュタがにっこり微笑む。
「とりあえずおやつ食べて落ち着こう?」
「いやさっきまで怒ってた人が言うか!?」
「オレもクッキー作るの手伝った!
おいしいぞ!」
カセが元気に拳を突き上げる。
「えっ、あ、うん……。
……で、プリン食べたの、マーキュって子で合ってる?」
舞台の奥から小さな少年の声が返ってきた。
「ちっ……バレたか」
ああもう、頭が追いつかない。
地球?太陽?月?火星?そしてプリン泥棒の…マーキュだから、マーキュリーで水星?
……なんで僕、こんな家に来ちゃったんだ。
「というわけでっ!!」ティエラが僕の肩をバンッと叩いた。
「今日からこの家は、“星哀ティアを囲む宇宙的日常”のはじまりだーー!!!」
目の前で次々に集まる“星たち”。
僕はただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。




