No.557 死臭と薬品
「(ボス戦の前からパーティーの結束を揺らがせるのが目的なら悪質すぎないか?)」
ノートがメニュー画面から取得した魂を確認すると、そこには未確定名状態の魂を新しく取得したことが分かった。
つまり先ほどのアレは、敵によって起きた現象なのだ。
自らを懐を入れるタイプの極めて特殊なゴースト系の死霊で、対敵感知に長ける。
ヌコォのように反応をつかめても、部屋全体に自分を散らしているのでいまいちよくわからないという認識になる。
素の攻撃性も防御力も生命力も極端に下げることで逆に感知されずに敵を自らの懐に収めるのがこのゴーストの得意技だ。
そして内部に敵が入り込んだら幻覚を見せ、精神的に動揺を誘い精神系統の状態異常を叩き込み、行動を不能にしたらあとはジックリと呪い殺すのだ。
素の攻撃力が3歳児程度の弱さでも、敵が無抵抗なら殺しようはある。その理屈をとことん突き詰めたような死霊。悪質ではあるが面白い特性だとノートは感じていた。特にこの敵の考えを読み取る性質と、幻覚。グレゴリに組み込めたらかなり面白いだろうと考える。
このゴーストの大誤算があったとしたら、一番抑えておきたかった対アンデッド特攻称号持ちの奴がよりによって対アンデッド耐性が高いネクロマンサーで、おまけにパーティーメンバーに同値くらいの高い好感度を持つ人物が複数人いるという普通ならまずありえない精神構造をしている化物だったこと。そのせいで幻覚が揺らいで一瞬で偽物と見抜かれて即座に反撃されて立て直されてしまった。
「まあ、個々人でいろいろと言いたいこともあるだろうけど、この部屋ちょっとした安全地帯っぽいしちょい休憩しよっか」
そうしてノートが座り込むと、皆も異議なしと座り込んだ。
◆
「ツナ、おいでー」
ノートが休憩を始めると、ユリン達がノート達に絡み始める。
一方、いつもは子犬のようにノートの周りにいることの多いツナは逆に少し距離をとっていた。
そのツナにJKが鎧を脱いで声をかけると、ツナはふらふらとそちら向かいJKの差し出した腕の中に吸い込まれるように抱き寄せられた。
「ちょっとびっくりしちゃったんだよね?」
「うん……」
JKは頭がいい。無能とは遊びたくないと言い放ってしまうヌコォが親友と認めている実力の持ち主だ。
それは単純なゲームセンスだけの話に留まらず、思考能力でも同様だ。
ノートが皆に聞いていた供述を聞けば先ほどの状態異常が何を自分たちに見せていたかなど大体わかる。
JKから見てもツナは天真爛漫でとても自分の感情に素直な子に見える。
口が悪い人物なら、子供っぽいと評するだろう。しかしその素直さは大事な武器だ。大人ぶることになれた大人が取り戻せなくなっていく大事な感覚。あるがままをあるがままに感じる才能は大事だ。だから彼女はとても明るくて、少し生き難い。
「のぅツナ、お前物好きじゃのう」
「う゛~……だって、だって〜」
「Heehee, you’re so cute」
そんなツナに目を合わせ、揶揄うように笑うGinger。また顔を赤くしたツナをよしよしとJKは抱きしめて笑顔でなでる。
それを見ていたGingerはあまり嗅ぎなれない匂いを感知し、暫し思案。やがて少しジトッとした目線でJKを見た。
「(こやつ……まさか……………)」
割と真面で安全な匂いがしていたと思っていたのだが、そうでもないかとGingerは脳内の人物評を修正した。
あまり良くない匂いが薄っすらしているが、一方で気遣い癒そうとしているのも確かなのでツナの立て直しは自分から喜んでやっているJKに任せ、部屋のもう一方に視線を送る。
複数の女から絡まれ、はいはいと上手く宥め、次の戦闘についての相談をしているその男。
アレだけはないだろ、とGingerは正直思う。
指導者としては今まで会ってきた誰よりも優れていた。1対1で普通に接している分には悪くない。トン2同様に周囲の感情が理解できてしまうGingerは人の好悪がハッキリしているのだが、その点でいえばむしろ心地よく思う。アサイラムのこの過ごし易い空気を作っている人物が誰かなど嗅覚に頼らずともわかる。
ただ、ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、怖い。
甘くてよい香りなのに同時に脳が危険信号を発する矛盾した匂いがするのだ。
物の腐敗の初期段階でかぎ取れる変な甘い匂いのような。優秀な選手だからと患者を元気づけるみたいなイベントに参加させられた時に病院で嗅ぎ取った、薄っすらとした死臭と薬品の人工的な甘さが混ざったような変な匂い。
短い期間だが、自分の事を心から理解してくれたトン2の事はとても好きだ。自然と気が合ったし、自分に姉がいたらこんな感じなんだろうとも思う。
スポーツ選手としても非常に立派な成績を残していて、人としても選手としても好きだ。
しかしだ。男の趣味だけは非常に悪いなと思った。そこだけはわかり合えそうにない、と強く思った。
人というのは普通、目の前のものを見ている。
それが普通だ。
だが目を合わせてノートと話す度に感じる違和感。こいつは今の自分だけではなく他の何かを常に見ているようにGingerは感じた。
今もそうだ。
あの男がちゃんとツナのケアをしようと思えばできるとGingerは今までの行動から信頼している。それだけの能力があると認めている。
しかし休憩を宣言したときにあの男はツナに背を向けるように座った。
その前に一瞬だけツナと周囲のメンバーの位置関係にも視線を走らせたように見えた。
そうして見ると、JKがツナのケアをしているのも計算尽くなのではないかと推測できる。
自分でケアせずにここでJKに任せる。その判断。
こうして自分が観察していることさえも、おそらく気づかれているように感じる。
そう自覚すると、うっすらとした甘い香りがまとわりついてくるような不気味さをどうしても感じてしまうのだ。
野生の本能:っていうパラメータがあれが一番高いのは間違いなくGinger




