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No.31 ジェットコースター

おはよう御座います投稿。

コロナ収束し始めたみたいですね。しかし油断は禁物。拙作を読み暇な時間を楽しく過ごしていただければ幸いです。


「この、緊張感ッ、久しぶりだな!」


「ここへ来たばっかの時は、こんな感じだったねぇ!」


「攻撃パターンは変わってない。上手くやれば普通に勝てる」


 ペナルティを食らった後、再び『深霊禁山』に足を踏みいれたノート達。そこでいきなりあの化け物が再び飛び出してくる、ことは幸いなかった。その上森の姿も元通りになっていた。


 だが、出現するMOBの強さは跳ね上がっていた。ノート達が回顧するように、ノート達が深霊禁山に初めて入った時のようなギリギリの回避、カツカツのHPとMP。巨大半人半蠍を瞬殺したメギドも今まで一刀で斬り伏せていた『深霊禁山』の敵性MOBの討伐に4手ほど必要になっていた。


「不幸中の幸いは、ステータス強化されたMOBは別物カウントでちゃんとこっちのステータスが成長するところだな!」


 ノートが危惧していたとあること。

 オンラインゲームに限らずたまにあるクソ要素なのだが……簡単に経験値制を基準に説明すると、とある理由で特定のMOBが強化されて倒しにくいのに特定のMOB自体が変化してるわけではないので取得経験値は同じ……そんな事態がたまにオンラインゲームでは起きたりするのだ。まさしく噴飯ものである。

 だがALLFOもそこまで鬼ではなかったか、成長が止まりつつあったノート達のステータスはちゃんと成長していた。


「てか、サラッとランク上がったのはビビったぞ!どんだけ強化してるんだよ!」


「被ダメから計算するに約2倍。攻撃力・速度・HP共に腐沈森の巨大半人半蠍とあんまり変わらない?」


「それが50体とか団体様で来たのを撃退すればランクも流石に上がるか。でもこうなってくると腐沈森が怖いな、あそこ名前の通り一応ながら“森”だしな!」


「…………折角勝てるようになってきてたのに」


「言うな言うな!ドロップも強い分良くなってるし、結果オーライだとおもっとけ!」



 迫り来るデカい猪、狼、鹿、猿を撃破していくノート達。ストーンサークル側の障壁を使ったローテーションでうまく敵を倒していた。


「なんか、今まで止まり気味だったステータス成長がぐんぐん伸びてってるね!」


「ユリンとか早々と敏捷と器用カンストしてたしな、そりゃ伸びるよ!」



 1時間ほどみっちりと戦闘を積み重ねたノート達は、ランクをさらに1つあげたところでキリ良く撤退した。


「なんか、久しぶりにしっかり戦闘したわ」


「メギド大喜び、今回一番成長したのはメギド?」


「ほとんど肉弾戦しかないからな。メギドとしては最高だろう」


「でも武器もアイテムもすっからかん。ボク達だからまだ良かったけど、これ普通のプレイヤーなら致命的だよねぇ」


「推奨ランク20〜にしては変だな、と思ってたけどこう言った絡繰があったわけだ。鬼畜にもほどがあるぜ」


「でも、私達の次に誰がやらかすかと思うと、ちょっと楽しみ。多分スレは大騒ぎになる」


 そこで「あっ」、とユリンが何かを思い出したような声を出す。


「スレと言えば、言い忘れてた。初期限定特典プレイヤーの情報、ノート兄に言ったっけ?」


「そういえば頼んだきり聞いてなかったな。それで、どんな書き込みだった?」


「えーっとね、それっぽいのを見つけたのは迷惑なプレイヤースレみたいなところだったかな?プレイヤーネームこそ晒されてなかったけど、『スタンピード』の通称で呼ばれてたよ」


「スタンピードってゲームだと魔物の異常発生からの集団暴走みたいな意味合いだったはずだが、どう言うことだ?」


「書き込みを読んでる限り、していることはモンスタートレイン。ただその規模が凄いんだって。他のプレイヤーと戦ってた敵性MOBまでそのプレイヤーを追っかけ始めるからいい迷惑だとかなんとかって。

 挙げ句の果てにNPCにも追いかけ回されてたとか、どこまで本当かはわからないけど、ファイブシティのスレにそう書いてあった」


「スクショ……は許可なく載せられないから無理か。でもそれが初期限定特典なのか?モンスター誘引体質みたいなものが?」


 心底不思議そうに問いかけるノートに、ユリンはちゃうちゃうと首を横に振る。


「ノート兄、初期限定特典組はヘイト値が高くなるようになってる。ボク達は人里からすぐ離れたせいで比較対象がいないからわからないけど、一般のプレイヤーから見たら本来は途轍もなく高くヘイト値が設定されてるんじゃないかな?」


「…………となると、初期特典はモンスター誘引体質じゃなく、モンスタートレインがスタンピードと呼ばれるぐらいになるまでずっと逃げ回れる『脚』の強さか」



 ユリンから齎された初期特典組の存在を仄めかす情報。他のプレイヤーはまだその実態を掴めていないが、ノート達は初期限定特典組ではないかとすぐにあたりをつけてファイブシティのスレを周回。各々で情報を再び持ち寄ったところ「やはり特典組ではないか」と結論づけた。



「…………どうする?このプレイヤーと接触する?」


「それがな〜……悪役ロールはいいが、迷惑なだけのプレイヤーになりたいわけじゃ無いからなぁ。何故モンスタートレインを繰り返しているのか、それが非常に気になる。特典組なんだからさ、あんなシティの周りの雑魚モンスターくらい、やろうと思えば素手でもいけるはずなんだ。なのに何故、わざわざファイブシティの周りでモンスタートレインをずっとしているのかが分からん」


「愉快犯?」


「………の可能性もあるよねぇ。それにまずファイブシティの座標だってわからないから首を突っ込む必要も「座標なら大体掴んだ」……は?どうやって?」


 元から否定的なユリンはどうでも良くない?と言う態度だったが、ヌコォの被せられた言葉に咄嗟に反応してしまう。


「ALLFOの風景のスクショを上げているスレッドの写真を解析して割り出した。旅人ロールしてるプレイヤーはかなり精力的に活動してる。その彼らのスクショに写る雲、これに着目した。

 写真を解析して類似する形をピックアップするソフトに取り込んで、一致する写真同士を繋ぎ合わせる。物の距離と縮尺率の計算は自分のスクショで容易だった。あとは同時刻に取られた写真に写る雲を重ねて縮尺率などを計算。座標は正確とまでいかないけど方角は大方わかる」


「本当にそんなことしたのか?」


「ALLFOに落選した検証厨仲間にも声をかけた。暇人多いから無言で説得したら引き受けてくれた」


「要するに要求だけしてあと無言電話か。脅しみたいなことすんなよ!」


 あまりにも酷い妹分の行動に思わずノートは叱る様な声を出すが、ヌコォは肩をすくめてスルーする。


「一晩では流石に1人では無理。彼女らも最初は懐疑的だったけど、情報が集まってきて地図が出来始めたら寧ろ喜んでやり始めた。この地図情報はALLFOで情報屋をやってるプレイヤーにRMTするって。

 実はこの作戦、他のゲームで一回失敗してる。けれど私はALLFOの作り込みに賭けた。そして勝った。飛び飛びの地図だけど、それぞれのナンバーズシティの座標は判明し始めてる」


「時々変態的な情熱でびっくりするようなことするよな。でも運営は嫌がるんじゃないか?」


 どう考えても正攻法でない方法で得た情報を現実の金銭で取引するのは如何なものかとノートは心配するが「安心していい」とヌコォは落ち着いて答える。


「GMコールで公開の可否を問うたら、制作過程までアップするならいいって。寧ろ雲の繋ぎ合わせで地図ができるくらいの出来栄えなんだ、って発表してくれると結果的に作った側としては誇らしいのかも。予想外ではあったみたいだけど」


 「まだ全体の情報を集めきれてないから見せられないけど、正確さはある程度保証する」とヌコォは言い切った。


「距離は?」


「意外と遠くない。サードシティから北東。ALLFOのナンバーズシティ、ある人の予想だと国ごとに円を描くように配置されてるんじゃないか、って。

 日本のサーバー数は12。ファーストシティからトゥウェルブシティ。各シティの情報と写真を繋ぎ合わせていくと、時計状になった。他のシティに行きやすくする工夫と思われる。幽霊馬車をもう一度強化して全力で走らせ続ければ、サードシティから2時間あれば問題なしと予測する」


「それはALLFO内時間で?」


 ALLFOを始めたばかりだとよくあるトラブルなのだが、ALLFOの世界は現実の約2倍速で時間が進んでいる。なので〇〇時間後、という表現をした際はどちらを基準にした時間なのかよく注意する必要がある。


「そう。シティ同士の間には森があって、今のプレイヤーではまだ難しいけど、私達なら強行軍で突破できる」


「そういえば、リスポーン地点選びの時…………ああ、そう言うことか!俺たちがここに飛ばされる前に見た地図の範囲、思い出してみりゃそんなんだったわ。弧を描くようにファースト、セカンド、サードシティが表示されてたな。

 ん?あっ、わかったぞ、なんで運営がファーストシティの『東の森』に俺達が居続けると都合が悪いのか!

 今回のイベントの各シティでポップし続ける巨大ボスを倒した数を『シティ』で競うイベント、このイベントが終わると各シティへの道が開通するんじゃないか?わざわざ初っ端からシティ間で競わせた理由もそれで説明つくんじゃないか?」


「まだイベント中だからわからない。だけどその可能性は高いかも。ノート兄さんナイス」


「つまり…………イベント終了まであと4時間あるから、繋がっちまえばすぐに動くやつらもいるはず。スムーズに移動したいなら、今から動くしかないか?」


「ええ〜……行くの決定なのぉ?」


「ま、ダメでも他のシティの商品がアイテム自販機に増えるし、帰りにPKしながら帰れば損はなしじゃないか?」


 そして突発的に行動を取り始め再びシティの方へ向かい始めたノート達に、第3管理室の皆様は胃がキリキリ痛むのだった。








「なに!?なんで!?暫く大人しくしてたと思ったのにまたシティの方向に突撃し始めたよ!?」


「凄え、幽霊馬車ってこんな悪路でもジェットコースターみたいに降りてけるんだ」


「なにをしようとしてるんだ!?」


 久しぶりの第3管理室。

 初期特典組が3人つるんだ時点で主任が発狂。ノート達をたまに監視するにとどめていた第3管理室は、監視者を3人に増やし常時監視体制に移行という英断を行なった。運営側の過剰反応と思うなかれ、主任の胃とメンタルを守るために仕方のないことだったのだ。

 監視者は若い社員T君は継続として、新入社員M君とKさんが増えて3人である。


 悪い意味で3人に慣れ始めたT君だけは、突飛な行動よりも幽霊馬車のすごさに素早く現実逃避しているあたりそろそろ監視者ランク2は名乗れるだろう。



「もう俺は驚かない。こっちの仕掛けてる地雷をほぼ回避していくこの人達がなにをしようと驚かない。プレイヤーのユリンとヌコォのプレイヤースキルはちょっと異常だけど、それ以上に2人をコントロールして死霊術師なんてクソ難しいジョブを使いこなしてるノートってプレイヤーが一番怖い」


「死霊術師ってそんな難しいんですか?」


「攻撃用の死霊は強いけど、だからってガッチガチに本召喚の死霊を攻撃用で固めるとコストがかかるから次の召喚へ繋げられないし、FFだらけでまともにコントロールできなくなる。

 でもこのノートってプレイヤー、一番初めに攻撃用を本召喚したけど、それ以降はほとんど技術全振りの本召喚してる。そして実戦は簡易召喚だけで切り抜けてる。

 一見変だけど、運用方法としては正解なんだよ。初期で本召喚できる死霊はみんな知能が低いから、兎に角序盤は我慢しなきゃいけないんだ。

 ユニークチケットだって生産系に惜しげも無く使うとは思わなかった。でも迷いなく使った。そして結果的にかなり強力な死霊を手に入れてる。満を持して召喚した戦闘系のメギドには天晴れ、と言いたいね。

 あれだって隠しパラメータの好感度を蔑ろにすると本当に暴走するタイプの死霊なのに、餌を与えたり声をかけたり色々試してる。「言うこと聞かないから別のやつ!」とならずに召喚した死霊によく向き合って、性能を引き出してる。

 アレって凄く大事なんだ。確かに進化すれば死霊系でも賢くなっていく。だけどろくに面倒も見ず実用的になってから『はい、協力してね』といっても従わないように設定されてる。これは「飼ったペットなどは最後まで責任を持って」というメッセージ性を含んだシステムなんだけどね」


 T君は今まで聞かせる相手がいなかったため溜め込んでいた感想とうんちくが溢れ出てて、まだALLFOに慣れきってないM君とKさんは目を白黒させる。


「でも、それって初見殺しというか、しょうがないところもありますよね?」


「ALLFOってまずグランドクエストの最初でも分かる通り、プレイヤーの基本的な立ち位置は“天使側”なんだよね。だから悪性プレイヤーにはかなりキツイ条件が色々存在してる。死霊術師も本当は転職自体難しい職業なんだよね。悪性に傾いたプレイヤーのみが転職可能な職業が死霊術師なんだから。即刻詰んでもおかしくない難度の職業をここまでうまく運用されるとは思わなかったよ」


「いいんですか、それ?不満とか上がりませんか?」


「ALLFOは沢山のプレイヤー、今までゲームをしてこなかった人にも快適にプレイして欲しいから、道徳的な面にとても配慮してる。

 そしてぶっちゃけると、『Golden Pear』以外の会社ってまだまだALLFOには到底及ばない程度しか第7世代対応のゲーム開発ができていない。だから当分他に大きな受け皿はないから強気に出れる。元からPKや迷惑プレイヤーが自然と減少して淘汰されるように最初からできてるんだ。

 最初からPK禁止とかも案にはあったけどね、何でもかんでも禁止するとイメージが悪いから、そういうシステムになったらしいよ。

 PK自体はゲームにとってスパイスなのかもしれないけど、絶対にトラブルの引き金になるし、プレイヤーの満足度より悪感情が増えやすい。少数意見を黙殺するようだけど、その妥協点として『禁止にはしてないからいいでしょ』というのがALLFOのスタンスなんだ」


「はっきり言うなら、自由意志のポーズだけはしてる、と言うことですか?」


 Kさんの歯に衣着せぬ言葉を聞くと、T君は苦笑する。


「そうだね。否定はできないよ。さらに善性は高い方がこのゲームは色々といいことあるし、他のPLをPKから守ったり悪性プレイヤーを倒すと善性が上がったりするから、余計に悪性プレイヤーは生きづらい世界だよ。

 でもしょうがないんだ。第七世代機は今までとは隔絶したシンクロ率とリアリティがある。もう既にもう1つの世界といっても過言じゃない。

 そんな世界で人殺しや盗みが横行してて気分いいかい?ALLFOの影響で、現実でも気安く犯罪行為に及んだりされたら会社はどうする?今まで以上にPKにとても重みがあるんだよ。それにみんなが気づいて自分たちでPKをしない、迷惑行為をしない気風を作り出す。禁止されたからではなく自ずからプレイヤー達が空気を作っていく。

 第七世代機のゲームの先頭としてALLFOが担ってる役割はすごく重たいんだよ」


「あの……失礼とは重々承知なんですけど、T先輩からそんな深い話を聞くとは思いませんでした。いつも叫んでるイメージがあったので」


「Mさんはキツイなぁ。でも見れば叫びたくもなるでしょう?現に2人だってさっきは叫んだし」


 T君の指摘にM君とKさんは気まずそうな顔になる。


「この人たちはALLFOを全力で楽しんでる。何が狙いかわからないけど、きっともっと叫びたくなることをしてくれるんじゃないかな?なんだか俺は最近楽しめるようになってきたよ」



ブクマ1000人記念ゲリラ投稿するからお楽しみに。

皆様ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 管理者ランクの1と2の差もまた隔絶たるものだった(真理 主任に祝福あらんことを(願望
[一言] なかなか腑に落ちる設計思想 しかしなぜ初期特典入れたw
[一言] 「T君、明日からあの3人の専任ね」
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