No.29 Pr〇ject X『ALLFOの自由度の限界に挑む者達』
本日のゲリラ投稿3rd
いつも誤字脱字の報告して下さる方々、誠に感謝しております。
「通算30体目終了。最速タイム更新。トラップ使用数は6。回復系のアイテム消費もかなり抑えられた」
「パターン入っちゃえば後は煮るなり焼くなり、だからな。相変わらずヌコォのパターン構築のスピードは真似できん」
「ブイッ」
提灯鮟鱇型敵性MOBの巨大な体がポリゴン片になり、ヌコォはそれをバックにピースでポーズを決める。
ミニ噴出花火から火花が舞い上がるように、地面から舞い上がった赤いポリゴン片。まるでやたら爆炎をバックに決めポーズをしたがる戦隊モノのようであった。
提灯鮟鱇の撃破後、メギドをもっと上手く運用しようと、鮟鱇にリトライしたノート達。同じ周回と言っても、提灯鮟鱇がかなり格上のMOB故かステータスの伸びもよく、スキルや魔法の習得率も上がった。
メギドもかなりの成長────概ね頭脳以外────を見せていた。
最初こそメギドの攻撃が大部分を占めていた戦闘も、20回目以降はユリンとヌコォの攻撃の割合もかなり増えていた。
というのも、召喚当初のメギドは【狂戦士】の能力が半数以上を占めていた。
だが、ノートはめげなかった。ノートはメギドにタンクの役割を覚えさせるべく、守備主体の動きを指示。結果、【守護戦士】としての技能の習得が加速。【守護戦士】の優秀な技能を使用可能になれば、ノートもよりその手札を生かした動きを指示出来る。これにより、【守護戦士】の能力である程度は敵の攻撃を耐えてチャージを重ね、適切なタイミングで凄まじいカウンターを叩き出して相手の初動や決め技を的確に潰す動きを確立。一撃必殺技を連発出来る非常に厄介なガード役としての運用がある程度出来るようになってきた。
守護戦士系で特に戦闘に大きな影響を与えたのは、自分に敵意を集中させる挑発系のスキル。この手のスキルは【狂戦士】にもあるが、系統の違いによって効果が競合しないものも少なくない。狂戦士のスキルと守護戦士のスキルを重ねることで、より効率的に敵の攻撃をメギドに集めることが出来る。
ここで、ALLFOにおける敵意に関する仕様について補足をする。
ALLFOのみならず、この手の多対多が発生するゲームには、【ヘイト値】という概念が存在することが多い。
味気も減ったくれもない言い換えをするなら、攻撃対象優先指数。誰を優先的に攻撃するかは、この数値の大小を基に決定されている。
このヘイト値に関するシステムが無いと、敵性MOBは自分から見て一番近い敵をただただ攻撃するという、極めて機械的で無機質な動きだけをしてしまう。
逆に、ヘイト値の概念があれば、このヘイト値のカウントの仕方一つで敵性MOBに個性を与えることすら出来る。
例えば、ゴブリンなどの低知能な存在。一般的なゲームに於いて、ほとんどアホで雑魚なゴブリン。このゴブリンには、「ゴブリン自身から見て近い順にヘイト値が高めにカウントされる」ように設定しておく。このようにすれば、ゴブリンは機械のように自分に一番近い敵を攻撃する。
これにより、ゴブリンには「優先順位を判断出来ないアホ」という個性を与えることができるようになる。機械的な動きを、「低知能」として描写出来るのだ。
一方、深霊禁山の祟猩のように、後衛に対して異常なヘイト値をカウントするように設定したらどうなるか。近接職がいくらヘイト値を自分に集めても、後衛職に高いヘイト値が残ったままになる。これにより、「後衛職に対して優先的に攻撃をする」という厄介かつ高い知能を持った存在として祟猩を描写することが出来る。
そしてこのヘイト値は、非VRシステムのゲームでは敵にしか適用されないことが多い。と言うより、プレイヤー側に適用するのが難しい。
だが、ALLFOの場合はプレイヤー側にもヘイト値が適用される。ではどうシステム的に反映されるのか。
知能が高いプレイヤーであれば、敵の動きを見て、どの敵を優先的に叩けばいいかわかるはずだ。それなのにどうやってヘイト値の概念を生かすのか。その疑問に対するアンサーが、強制的な視線方向と移動方向の固定だ。
これが如何に厄介かサンプルパターンで解説する。
プレイヤーXの周囲には、敵AとBとCとDの4体がいると仮定する。
プレイヤーXから見て敵Aが一番手前にいて、敵Bは近くにはいるが、Aとは逆方向に回り込みを仕掛けている。一方で敵Cと敵Dは敵Aの奥に位置取りをしている。所謂後衛職の立ち位置だ。
敵Aは戦士系。
敵Bは盾持ち。
敵Cは高ランク魔法使い。
敵Dは弓使いだ。
プレイヤーから見ると、高火力遠距離攻撃を得意とする敵Cが一番厄介だ。優先的に倒したい。
この場合、通常であれば敵Aをなんとか押しのけて、Dの攻撃を回避してさっさとCに直接攻撃を仕掛けたいところだ。
だが、ここで敵Bがヘイト集中の効果を持つスキルを発動したとしよう。この時、それぞれの敵に設定されたヘイト値の割合が大きくBに偏った場合、プレイヤーは自分の意思に関わらず、いつの間にかBの方を向いてしまう。Bの方を見てしまう。であるならば、背後に向けて走ったり攻撃を放てば敵Cに攻撃を当てられるか、というとそうでもない。敵Cの方向に放とうとした攻撃も、自然とBに向いてしまう。
これは敵側も同じ。ヘイト集中を発動され、それぞれに与えられたヘイト値のバランスが崩れてしまうと、その発動者に視線方向をロックされてしまう。攻撃すら、自然と発動者の方向に向いてしまう。
よって、無差別広範囲爆破でもしない限り、まずヘイト集中系技能の発動者を真っ先に潰すしかなくなってしまう。
ここが少々ややこしい点なのだが、ヘイト値はあくまで攻撃の優先順位指数だ。1位を必ず、絶対に最初に攻撃しなければならないわけではない。あくまで「相対比で見た時に、飛びぬけて高いヘイト値を集めた人物がいた場合にのみ、そちらに視線と攻撃方向がロックされてしまう」というロジックなのだ。
広く真っ暗な部屋で、それぞれダークグリーン、ダークグレー、ダークブラウン、ダークブルーの色のマントを付けた4人組がじっと座っている状況を想像してみよう。その状況なら、若干グリーンを被った人物が目立つくらいで、他の人物が目に入らないほどじゃない。どんぐりの背比べだ。
だが、このダークグリーンのマントを被った人物が、マントを脱ぎ棄ててブラジルのサンバの格好になり、大声でソ連国歌を歌いながら体中にイルミネーションを付けてリンボーダンスをし始めたらどうなるか。
論ずるまでもなく、誰だってその頭のおかしいムーブをし始めた脳内ハッピーセット野郎に注目してしまう。
数値的に高いか低いか、ではない。重要なのは「その場において突出して指数が高い」かどうか。だいたい、その対象以外のヘイト値の平均値に対して2倍を超える指数を記録していると、“突出して高い”と認定される。
この平均に対して高いか、というのを先ほどの例を踏まえて説明するとしよう。いきなり盆と正月と誕生日とハロウィンが一緒に来たようなムーブを一人がしていたら当然目立つ。だが、グリーン以外の全員も同じようなムーブをし始めたら?相対的に元グリーンは目立たなくなる。皆ウザくて目立つ。
他が目立っていない状態で1人だけ目立つからこそ、視線が集まる。
その突出によって起きる視線誘導と攻撃方向の指定にシステム的な強制力を発生させているのが、ALLFOのヘイトシステムである。
そして、当然だが、肉体が大きい存在ほど、もともと目立つようになっているし。目立つ存在は、それだけで注目度が高まる。注目度の高い存在は、どうしても優先的に叩かれやすい。物理的に大きいという事は、防御した時のカバー範囲も物理的に広くなる。
メギドのような5mの上背を持つ、ただでさえ非常に目立つ奴が、全力でヘイト集中を行ったら、その場にあるヘイト値はメギドに集中する。これがプレイヤー相手ならあの手この手でヘイト値から逃れたり、視線固定をされようともなんとか技能を駆使して優先的に潰すべき敵に攻撃を当てようとする。が、敵の場合はそこまで知能のあるケースは多くない。よって、メギドが集中的に攻撃される。
ここで猛威を振るうのが、【辛狂復讐者】のスキル〔ルナティックダメージチャージ〕。
元々「戦闘開始から自分に対して発生したダメージ分だけ攻撃力アップ」という類のスキルをメギドは幾つか有しているが、この〔ルナティックダメージチャージ〕は効果が単発な代わりに、強化倍率が桁外れに高い。
掛け算にさらに大きな掛け算が重なれば、攻撃力の上がり幅は一気に跳ね上がる。
ヘイト集中で敵の攻撃を受けつつ、本来デメリットである防御力低下によって効率よくダメージを稼ぐ。ダメージを稼いだ分だけ火力が跳ね上がっていく。
この手のダメージ発生量依存のスキルは、強力な代わりに2つの問題がある。
1点目は、スキルのコスパに見合った“ちょうどいい塩梅”までHPを減らす必要がある点。ビビって大してHPが減っていないのにチャージを解放したら、火力は跳ねない。かと言って限界まで引っ張ると下手に相手の大技を受けてダウンなんて悲劇が起きかねない。
2点目は、チャージ時に必要となる維持MP。
ダラダラとスキルを使ってチャージしていればMPが減り続ける。かと言ってすぐに使えばあまり火力が出ないジレンマ。では積極的にHPを減らしにいけば?それはそれで怖い。
だが、その特性上被ダメが自然と増えやすく、自動HP回復で安全ラインを確保し易いメギドはこのジレンマを解消出来る。短い時間で大きなダメージをチャージして、効率よく攻撃倍率を稼げる。
あとは相手の攻撃にカウンターする形でスキルを発動してポールアックスをぶちかませば、ヒットした相手からほぼ100%ダウンかスタンを取れるという無法の戦果を叩き出す。
『JIJIJIJIJIJIJI!』
「はいはい、どうぞ」
加えて、メギドにより上手く指示を聞かせるには好物を与えればいいことも判明していた。
大雀蜂の頭には花(花粉だけではなく丸ごと食べる)。
天牛には樹木(枝葉で可)。
リオックには大きめの昆虫。
頭部の種類ごとに好みとする餌は異なった。
なお、リオックに与える昆虫は敵性MOBではなく、虫網などで捕獲可能なノンアクティブな生物だ。『虫籠』というアイテムを買っておいて虫を入れておけば、原則生物を収納出来ないインベントリにも生きたまま昆虫をしまっておける。
ノートはだんだん動物園の飼育員でもやっているつもりになってきたが、見た目がもう少しどうにかならないかな、と虫を勢いよく貪るリオックの頭にジト目を向ける。理由は不明だが、餌として与える際は虫がポリゴン片にならないのでグロテスクさが倍になっているのだ。どうしてそこに拘ったんだ、とノートはALLFOにツッコミを入れたかった。
複数の生物の要素を強引に取り込んでいるキメラタイプは、合成元の種族の能力を使えると言う破格の強さを持つ。一方で、複合している分だけ育成もややこしい。特に多頭は頭ごとに人格があるので、頭の数分だけ別の生き物を相手にしているようなものだ。
Aの頭にとっては良いことも、Bの頭には反対されたりするなんてことは珍しくない。このややこしさがキメラタイプの大きなデメリットなのだが、ノートはまだ知る由もない。
「うまいか、それ?」
『JIJIJI!JIJIJI!』
「わかったわかった。丸々太ったタランチュラみたいなのが気に入ったのね。今度また見つけたら捕まえておくから落ち着け」
ALLFOの設定関係は偏執的に細かいので、昆虫が好みと一口にいっても、その中に殊更に好む種類まで設定されている。中でもリオックヘッドは悪食で、デカい昆虫が大好き。甲虫を生きたまま強靭な顎でバリバリ砕いて食べる様はもはやホラーである。
「お前は……まずフルフェイスが完全同化してるから、餌の与えようがないんだよな」
メギドの推定人型頭部を覆うアーマーは、頭部に癒着している為に着脱の概念が無い。隙間は目元にしかなく、口の部分は開かない。隙間からねじ込めてせいぜい薄焼きお煎餅一枚くらいである。念のためにノートは色々な物を顔に近づけたが、悉く無反応だった。タナトス達のようにコミュニケーションが出来れば簡単なのだが、メギドは話せない。
故に、何が好物かわからない。
強いて言うなら、狂気的と形容出来るほどのバトルジャンキー。どこを見ているのかわからないくらい普段はボーッとしているが、戦闘を許可した途端に咆哮し、鬼神の如く暴れ出す。
敵がいなくなれば、スイッチが切れたようにまた沈黙。他の虫頭がギーギー騒いで、そこら辺にある植物を引きちぎったり虫を捕まえたりして、拾い食いをし続けている。
加えて、狭い屋内に放置するとストレスが溜まりやすい事も確認出来た。これは全ての頭部に言える特性で、広くて自然の多い─────拾い食いし放題な場所ともいう───────場所を好む傾向があった。
強いて反応したのは、砥石。
無論、砥石をボリボリ齧るわけではない。
ユリンが双剣を軽く研いでいた時に人型頭がジッとユリンを見ていたので、試しに与えてみたら唸りながらポールアックスを研ぎ始めたのだ。
メギドの肉体の一部なので研ぐ事に如何程のメリットがあるかは不明だが、少なくとも喜んでいそうだった。
そんな感じで、メギドの頭部は個性豊か。特にリオックは拾い食い大好きで、他の頭部と喧嘩して肉体の主導権争いが発生。まるで酔っ払いみたいにフラフラしている姿も観察された。それらの観察をもとにアプローチをしてみた結果、戦闘が終わったら餌を与えて、平時は砥石を与えておく事で平静を保つという飼育方法が確立。召喚当初よりは幾分か指示が通るようになった。
「しかし、お前を加えても般若面には未だ1回しか勝てていないのは悔しいな…………」
大苦戦していた提灯鮟鱇にも、今やパターン処理出来るほど強くなった。だが、それでも尚越えるべき壁はある。
般若面蟷螂人。メギド参入以降の交戦回数15回。そのうち、撤退14回、勝利1回とかなり厳しい戦績だ。
この勝利した1回も、実態は完全な偶然の産物なので、ノートとしては勝利とは言い難い。
その偶然が起きたのは、般若面蟷螂人とメギドが真正面から戦闘中のことだった。ノートがヘイト維持の管理をミスして、メギドのヘイト集中が予期せぬタイミングで終了。これによって自由になった般若面蟷螂人はメギドを無視して、メギドの後方からチクチク魔法を撃って邪魔していたノートを殺そうと飛びかかった。
それを追うべく振り返ろうとしたメギド。
時を同じくして、メギドに対していきなり潜伏して様子を伺っていた人面蜚蠊が突撃。メギドは驚異的な反射神経でその突撃に反応して、振り返る際のターンを利用して大楯をスイング。人面蜚蠊も避けようと身を捩ったが、盾の先端が人面蜚蠊にヒットした。
空中で身を捩ったせいで変な格好になっていた人面蜚蠊。盾の当たった位置が先端。そして人面蜚蠊が発動していた突進系スキル。この3つの要素が絶妙に噛み合った結果、人面蜚蠊は変な軌道を描きながら高速で吹っ飛び、その吹っ飛んだ先に偶然にもノートに飛びかかろうとしていた般若面蟷螂がいた。
斜め後ろからの予想外の飛来物。飛び掛かるべくジャンプしていたせいで般若面蟷螂人は回避も迎撃も間に合わず、よりによって右後頭部にクリーンヒット。
余程当たり所が悪かったのか、Critical判定が発生。
般若面蟷螂人は派手に転倒し、顔面から地面に大胆なダイブ。更に運の悪いことに、転んだ先に岩があって強かに頭を強打。僅かながらダウン状態へ陥った。
その千載一遇のチャンスをメギドが逃すわけもない。
大跳躍。からのフルチャージ状態の〔ルナティックダメージチャージ〕を乗せたポールアックスの振り下ろし。
もし、般若面蟷螂人が岩に頭を打ち付けなければ、ダウンまではいかなかったかもしれない。もし般若面蟷螂人が、自分に乗り掛かって気絶していた人面蜚蠊を咄嗟に振り払うことを優先しなければ、最低限のガードが間に合ったのかもしれない。
だが、そうはならなかった。むしろ振り払ったせいでまるでメギドを歓迎するように両手を広げて仰向けになってしまい、そこにポールアックスの振り下ろしが完璧な形で炸裂。
頭部から股まで真っ二つ。完璧なCriticalヒット。文句なしのスタン。そこにすかさずユリンとヌコォが大技を叩き込み、仕上げにノートが魔法連打。なんとか殺し切った。
再現性のない、完全にまぐれの勝利だった。
般若面蟷螂人は何よりもまず、提灯鮟鱇とは比較にならないほど速い。ストレイ○・クーガー張りに速い。
HPも防御力も提灯鮟鱇より大きく劣るが、こちらの攻撃に対して「当たらなければどうということもない!」と言わんばかりにスキルすら使わずに高速立体機動を披露する。まるでファンタジーNINJAも斯くやの機動だ。
何か妙な直感能力でもあるのか、トラップも悉く回避。メギドの大振りな攻撃を「小足見てから昇龍余裕でした」と言わんばかりに余裕で回避、カウンターする。
これだけでも敏捷特化戦士として十分優秀なのだが、コイツは魔法も使う。
デバフを敵にかけて防御力を下げ、自分にはバフを重ね掛けして火力を強化。
超スピードから繰り出される斬撃は、戦闘が始まってある程度時間が経過し、パッシブスキルで強化されたメギドと同等の火力を叩き出す。つまり、掠っただけでもノート達は瀕死まで持っていかれかねない。急所の首にCriticalヒットを叩き込まれたら即死だ。
故にどうしても慎重にならざるを得ず、そこから他の敵性MOBの横槍まで警戒していると討伐難易度は更に大きく上がる。
デカさは強さだが、逆に下手なBOSSよりも強い敵がプレイヤー程度の大きさしかないと、FFアリのシステムでは厄介なことこの上ない。それが素早ければ尚更だ。
パラメータの合計値だけを見れば、提灯鮟鱇と大きな開きはない。
だが、平均的にパラメータが高い提灯鮟鱇に対して、速度と攻撃に特化したピーキーな性能。バフデバフでギアチェンをしてくるという厄介さ。おまけに翅があるので低空で飛ぶ。
身もふたもないことを言えば、技量を削る代わりにパラメータを全体的に大きくアップしてバフデバフを使えるユリンのような存在が般若面蟷螂人だ。
しかも、同じ鎌持ちの対抗意識があるのか、メギドはやたらと般若面蟷螂人を敵視していた。遭遇するや否や、執拗に攻撃するので指示が通りにくくなる。
この手の敵こそタンクとして活躍して欲しいのに、攻撃をしたがるのだ。
「(だが報酬は美味しい…………かなり美味しい。次の死霊レシピがいくつも解放されるぐらいには美味しい敵には違いない。だからもう少し狩ってみたいんだが…………)」
ノートの死霊召喚のリスト解放は、一回だけでも倒せば候補が増える。だが、一回だけでOKではない。複数回倒して魂を蓄積することで、より強い種類の死霊がアンロックされる。強力な死霊を使いたければ、強い敵を複数回倒す必要があるのだ。
しかし、ノートの表情は少々渋い。
ネックとなるのが武装の耐久値。
般若面蟷螂人の攻撃を防御出来たとしても、刃物による攻撃なのでゴリゴリ耐久値が削られていく。折角新調したユリン達の武器も、般若面蟷螂人との15回に渡る戦闘だけで3割以上耐久値を削られているのだ。
同じ二刀流で同系統の戦闘スタイルのユリンは「絶対ぶっ殺す!」と息巻いているのだが、リアリストのヌコォは「効率が悪すぎる」と苦言を呈して諫めていた。
「ノート兄さん、欲しいものは揃った?」
「ああ、鮟鱇の提灯の部分な。ようやくドロップしたよ。これがまた使い道が多くて困るが、嬉しい悲鳴だ」
メギドへの餌やりを終えて、休憩に入ったノート達。野原に胡座をかいてメニュー画面を操作していたノートの顔をヌコォが覗き込む。
「ならよかった。頑張った甲斐がある。ただ進言させてもらうなら、やっぱり武器のレベルが環境に追い付いてない。ゴヴニュも今のような戦闘が続くようならもう一度武器を強化した方がいいかも、と言っていた」
「つまり…………鉱石を掘らなきゃダメか」
「Exactly」
「またボクを酷使する気?」
ノートの後ろから抱きついて話を聞いていたユリンはヌコォにジト目を向けるが、ヌコォは首を横に振る。
「それに関しては対策を練ってきた。主にアテナとの話し合いで問題点はクリア出来た。アテナが成長して、生成出来る糸の種類も性能も上がったお陰。大工も家具を作らせて成長させてあるし、他にも色々なことができるようになったから可能になった作戦」
「具体的にはどうする気だ?」
胡座をかくノートの脚に座ってふんすと鼻息一つ。メニュー画面を他人にも見えるように設定し、ヌコォはリアルから持ち込んだ画像をノート達に見せる。
「大昔のビルの窓清掃の方法を採用する。あれは屋上にクレーンを設置してゴンドラを吊るし、作業員に窓を拭かせていた。この要領で、崖からゴンドラを吊るして採掘作業を実施する」
「でもそれは重さとかの問題でヌコォ自身が無理って言ったじゃん」
1度目の採掘の後、採掘を行いながらユリン達はより良い方法を模索していた。その際にユリンは近い案を出していたのだが、それを却下したのは他ならぬヌコォ自身だった。
課題となったのは2点。
一つ目はワイヤーの強度。
これに関してはアテナの糸の強度と縄の製作技術の向上で解決した。
問題は2つ目。クレーンを如何に制御するか。複雑な機構を短時間で組み立てるのは不可能に近く、動力もない。幽霊馬車に括り付けて制御する案もあったが、テコの原理を駆使しても安定して踏ん張れる保証がなかった。
対して、ヌコォは楽しげにポールアックスを砥石で研いでいるメギドを指差した。
「『重戦士』には、ノックバックを喰らわないために踏ん張りを大きく強化するスキルがある。加えて、素の重さもパワーも途轍もない。メギドなら余裕でゴンドラを操作出来ると計算した。実は──────」
ユリンに提案された当初はゴンドラ案を却下したヌコォだが、ゴンドラ自体は何かに使えるかもしれないと、設計図は書き上げていた。
木工縛りだったらヌコォも難色を示し続けていただろう。だが、ゴヴニュの加入で金属の部品が使えるようになった。金具やネジを設計に組み込めれば強度問題の話が大きく変わる。ヌコォは重量に気をつけつつ、頑丈さと重量の両立をしたゴンドラを設計。アテナとゴヴニュに作製可能か確認したところ、2人は快諾。すぐに作製に取り掛かった。
ワイヤーに関しても錬金術を駆使して金属を編み込み強度を補強。耐久実験でも十分にゴンドラを支えられる強度があると確認された。
「──────重量も懸念だけど、リアル換算で推定200キロオーバーのポールアックスを片腕で振り回せるメギドの膂力なら十分可能と判断した。滑車も組み込んでテコの原理で負担も減らせる」
「相変わらず出来そうなことはすぐやってみるその姿勢は見習いたいところがあるよ、ほんと。まあ俺も───────」
再度の採掘に向けて準備していたのはヌコォだけではない。ノートも野盗戦で大量に鹵獲して死蔵していた『錆びた剣』などの武器をゴヴニュに与え、リサイクルを依頼。わずかに余った深霊禁山の鉱石を混ぜ込んで、丈夫なピッケルを作製してもらっていた。
ピッケル自体はアイテム自販機でも購入出来るのだが、深霊禁山の硬い岩肌相手ではすぐにお釈迦になってしまっていた。採掘系のスキルでもあれば話が変わるのだが、今はスキルを習得するよりも、ピッケルの性能を上げた方が手っ取り早い。実際、深霊禁山の鉱石から作り出したピッケルは硬い岩壁を穿つには十分な強度を獲得していた。
「───────それでだ、もしそのゴンドラが実用化可能なら、召喚した死霊に代わりに採掘作業を任せられないか?ゴヴニュの召喚のお陰で、簡易召喚に鉱夫系のゾンビが追加されている。そいつをゴンドラに乗せて、ピッケルを持たせて採掘してもらう。万が一失敗してもそれならほとんど損害もない。俺はメギドと鉱夫ゾンビへの指示出しに専念するから、戦闘は任せきりになるが…………ヌコォとユリンなら、もう余裕で渡り合えるんじゃないか?」
腐沈森でハードな戦闘をし続けていたのだ。相対的に深霊禁山は楽になる。ノートの提案に、ユリンとヌコォはコクリと頷く。
「死霊術師…………検証しがいがある。やってみる価値はある」
「ノート兄の案なら賛成。やってみる価値はある」
こうして、ノート達のALLFOの限界に挑むプロジェクトが開始された。
ブクマも評価点もPVもびっくりするぐらい増えております。皆さまありがとうございます。
度々繰り返すようですが、感想頂けると非常に嬉しいです。ゲリラ投稿率上がります。レビュー?即刻レビュー感謝ゲリラ投稿しますよ、もちろん。
追記:No.28より先に投稿するポカをやらかしたので、お詫びにNo.30も今日中にゲリラ投稿します




