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神ゲーしようと思ったらクソピーキー性能のチート詰め合わせの初期限定特典に当選したので悪役に徹することにする  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
Chapter1 終わりの始まり

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No.28 クリーチャー型の真価

やばいミスった。先にNo.29投稿しちゃった。


「さて、MPも溜まったので次やるぞ〜」


 リアルで少しドタバタしたことで、ちょうどMPを全回復。ノートはゴヴニュに続いてもう一体の死霊の召喚を執り行う。

 

 巨大半人半蠍の各部位1セット。ノート達が周回を続けていたのも、それぞれのパーツを状態のいい状態で入手する為という側面があった。 

 希少種の脳味噌系3個。深霊禁山で討伐した、巨大な赤いオオスズメバチと緑に発光していた大土牙猪。腐沈森で倒したクリスタル状のボディに変異していた人面蜚蠊(ゴキブリ)。

 希少種という遭遇率の低い個体の、これまたレアリティの高いドロップ部位を状態のいい状態で手に入れるのは至難の業。ノートとしても相当に価値の高い素材だ。

 

 それに加えて、昆虫枠のフリー枠で巨大人面羽根芋虫の大羽根と巨大人面蛾の猛毒鱗粉袋。

 希少種とユニーク個体の素材も大量に必要だ。

 ピアーヘラクレスの希少種────銀色のメタリックなボディになっていた────鋭貫角。

 大きなスズメバチの様なモンスターである憤激赫(ラースヴェスパ)大雀蜂(マンダリニア)の希少種────紅に染まっていて3倍の速度で動いた────の素材一式。

 暴碧天牛《レイズルーロンジコーン》の希少種────大顎がブルーサファイアの様になっていた────の強毟顎。

 権剛象虫のユニーク個体────サイズが通常の倍程度で甲殻が黒光りしていた────の剛甲皮。

 殺戮化蟋蟀(ジェノサイドリオック)のユニーク個体────ボディビルダーの様にムキムキになっていた────の靭臓。

 首狩蟷螂(ヴォーパルマンティス)の希少種────体の左右で色が異なっていた────の刈鎌。

 豪跳飛蝗(リピングラスホッパー)の希少種────多肢症なのか脚が複数あった────の太炸脚。

  

「(素材だけでコストたっけぇ…………)」 


 コストが高いのは素材だけに留まらない。

 PL(人間)の魂300、希少種系の魂100、昆虫系の魂200、巨大半人半蠍の魂が15、半人型の魂10、アンデッド系1つ。特筆すべきはPLの魂の要求量。戦闘型の死霊でこれだけ人の魂を求める死霊は、現状2000種を余裕で超えるノートの召喚候補リストの中のたったの3種。その程度には珍しい。


 生贄のメインは、犯罪傭兵ギージャの使っていた武器『狂武乱双斧』。

 もはや常連のユニーク化チケット。

 ゴヴニュに仕上げてもらった、巨大なポールアックス──────槍、斧、鎚が複合した対全身鎧用の重量武器──────全身鎧、大楯の3点セット。 

 野盗討伐で入手した『牙返しの盾』、『鉄の剣』、『鉄の槍』

 盗賊団【黒土竜】の長が装備していた『黄怨毒の大曲刀』。

 呪いと闇への適性を高める為に、腐沈森で入手した『邪囚石』と『濁血石』。

 余った枠で、ゴヴニュの召喚で上手くいったこともあって願掛けの意を込めて『怒髪獄辛』。それでも余ったのでアンデッドの素材を適当に。


 触媒はネクロノミコン。


「────《特殊下級死霊召喚・アボミネートスコーピオンガードマン》!」


 

 お馴染みの金魔法陣、金の沼からズズズズズッとゴヴニュ以上の巨体が徐々に現れる。地面にあった陣に向いていたノート達の視線が徐々に上がり、天井付近まで上がってきたところでノート達も思わず後ずさった。


──────────────────────────────────

▇≫ 死霊階級(アンデッド・クラス):特殊下級

▇≫ 魔物種族(スピーシーズ):アボミネートバグキメラゾンビホプライト

▇≫ 固有特性(オプション):[特(SP)][独(UNQ)]

──────────────────────────────────

▇≫外来追加技能(エクストラアドオン):辛狂復讐者

──────────────────────────────────

【所持技能】

>狂戦士

>重戦士

>守護戦士

>鎚斧槍(ポールアックス)使い

>大楯使い

>蟲技[首狩蟷螂(ヴォーパルマンティス)]  

>蟲技[憤激赫(ラースヴェスパ)大雀蜂(マンダリニア)]

>蟲技[殺戮化蟋蟀(ジェノサイドリオック)] 

>蟲技[暴碧天牛《レイズルーロンジコーン》]

 

【常時効果】

>自動HP回復【大】

>物耐上昇【特大】

>魔耐上昇【特大】


【呪縛】

>常時激怒状態

>常時発狂状態

>被ダメージ量上昇【中】

──────────────────────────────────

 

『Grrrrrrrrrrr……!!』

『KIKIKIKIKIKIKI』

『GIIII GIIII』

『JIJIJIJIJIJIJIJIJI』


 人間誰しも初見で、「あ、これはやべぇヤツ」と思うものにばったり遭遇する時があるかもしれない。

 やべえ、の方向性は色々ある。

 狂っている、キモい、怖い。様々だ。

 これらの感情を掘り下げると、生理的嫌悪や本能的恐怖に辿り着くことが多い。特に上記三つは根源的な物が感情を想起させる。

 

 そしてノートの目の前に現れたのは、狂っている、キモい、怖いの3要素をコンプリートしていた。


 基本形は、ノート達が腐沈森で散々殺していた屈指のフィジカル強者、巨大半人半蠍だ。

 だが、ケンタウロスのサソリ版でしかないオリジナルとはわけが違う。

 まず大きく異なるのは、その人間の上半身を覆う漆黒のフルプレート。各部が鋭利に尖っており、縦方向に溝を入れて強度を上げている点はゴシック様式に類似しているように見える。されど細部に目をやれば、それは甲冑にしては異常にパーツ数が多く、肉体に直接癒着した甲殻のような物だと分かる。

 それを証明するのは巨大なサソリの下半身と人間の胴の境目。サソリとしての甲殻と鎧の甲殻は同質の物で、違和感なく組み合わされている。

 その厳つい人間ボディの背中には、蜻蛉の翅のような翅が6対。長さは1枚2m以上と破格のサイズ。軽く震えるだけでノート達の顔に微かな風が当たるほど、その羽ばたきは力強い。

 また、この死霊は最初から固有の武器を装備していた。

 長さ4m、刃のサイズが1.5mというアンバランスな銀のポールアックス。刃の部分が非常に大きい為、槍と鎚がなければポールアックスというよりバルディッシュと判定されただろう。

 それと対を為すように目立つのが、防御壁と見まがう3mオーバーの大楯。真ん中が鋭利に突出し、下部に数本のスパイクがあることから対クロスボウなど攻城戦で用いられていた盾であるパヴィスが源流にあると推察できる。

 

 ポールアックス、大楯にはもがき苦しむような多種多様な昆虫の意匠があしらわれ、非常に趣味が悪い。その趣味が悪く実用性皆無な巨大過ぎる武器2つを、それぞれ片腕で持つ膂力。その腕は、競輪選手の太ももの如く異常に発達している。

 その主腕の下には、漆黒の蟷螂の腕が2対。蟷螂の刃もただの昆虫のそれではなく、金属光沢を放つ大鎌。引っ掛け、捕獲を主題とした蟷螂と違い、切断による殺害を目的としている腕だ。サソリ部分の巨大な触腕、鋏はそのまま残っており、こちらも金属質の甲殻に覆われて打撃にも使えそうな見た目である。

 下半身のサソリ部分はオリジナルから大きく変わっていないが、最も尾に近い第四脚は、バッタの後肢の如く異常な発達を遂げている。


「これは…………なかなか…………」

「高難易度死にゲーのDLCボスっぽい」

「どっちかというとぉ、ゴシックホラーじゃない?」   

 

 頭部もオリジナルとは大きく異なる。

 真ん中は隙間なく頭部を覆うクローズヘルム。目元にはわずかに隙間があるが、黒く濃い霧が漏れ出ていて一切中を見通せず、口元からも呼気のように黒い霧が漏れている。人型ではあるが、微かに漏れる声は既に人の言語を為していない。

 その頭部の右にはブルーサファイアのような鮮やかな色合いの天牛(カミキリムシ)。左には真紅の大雀蜂。

 まるで変則的なケルベロスだ。

 更にそのクローズヘルムの頭部の後ろには、後方を向いてリオックの頭部が付いている。

 合計4つの頭部。多頭の中でもかなり多い。

 

 加えて、鎧、盾、武器からサソリの部位まで例外なく、全身に紫色に怪しく発光しながら脈動する血管が走っていた。

 そんなキメラクリーチャーのサイズは5m弱。あまりに大きい為に真っ直ぐ立てず、猫背になって少々身をかがめている。そのせいでノート達を見下ろすようになっており、余計に恐怖を煽る。

 

「半人半蠍の脳味噌に、希少種の脳味噌3つでこれって…………むしろ4つないと最低限の理性を保てないのか」

『Grrrr!』


【激怒】の状態異常になっている為、本来であれば無軌道に暴れてもおかしくないはずだ。だが、4つの頭部とネクロノミコンによる制御で、激怒状態は維持しつつも暴力性を抑え込んでいる。

 ノートの中ではいくつか名前の案があったが、その様子を見ていると一つの名がしっくりときた。

 

 生理的嫌悪からくる恐怖感を具現化した様な肉体。恐怖は一定のラインを超えると、神秘性を獲得するに至る。荒ぶるまつろわぬ神。怒りの具象化。

 新約聖書の『ヨハネの黙示録』に於いて、神の怒りが降り注ぐ丘の名は────────────

  

「────────────よし、お前の名前はメギドにしよう」


『Grrrrrrrrr!!!』

『KIKIKIKIKIKIKI!!!』

『GIGIGIGIGIIII!!』

『JIJIJIJIJIJIJIJIJI!!』


 ノートがその名を与えると、4つの頭が歓喜するように咆哮する。その巨体が持つ肺活量は人間の限界を遥かに超越しており、ビリビリとミニホームが震えるほど。思わずノート達も目を細めて少しのけぞる。

  

「あ〜……それ返事なのか。言葉は一応ながら通じているみたいだな。よしメギド、まずログハウスから出ようか」


 とりあえず動きを見てみようと外に出るノート。

 そこでゴスッという音が聞こえて振り返れば、ログハウスの扉が小さくて潜り抜けられないメギドの姿が。肩幅も2mオーバー、蠍の体はハサミを含めてどう縮めても4m幅を下回らない為、どうやっても通れないのは当たり前である。だが、メギドは仇討ちに燃える少年漫画の主人公の様に唸り声を上げながら強引に通り抜けようとしており、身体の方がミシミシと嫌な音を立てていた。

 それを見て慌ててメギドを止めるノート。見た目こそ木製だが、全く壊れないミニホームの頑丈さを評価すればいいのか、メギドの身体が意外と脆いのか。

 ノートはマナポーションを一気飲みしてMPを回復。外に出てからメギドを再召喚する。


「さて、ステータスを見る限りアホみたいに強いが…………試金石はどうしようかな?」


 ノートはメギドと共に結界を越えると、ヌコォに索敵を依頼。遠距離に巨大半人半蠍を発見したところで、ユリンに石を投げてもらう。投球系のスキルを発動しながら投げられた石ころは非常に長い距離を飛び、目標の後頭部にヒット。途端、巨大半人半蠍は振り向くや否や怒声を轟かせながら突進してきた。


「メギド、最初の命令だ。どんな手を使ってもいい、アレを殺してみろ!」

『Guoooooooooo!』


 空気が震えて肌が粟立つほどの咆哮。メギドは主人の命令を受けて、重装備とは思えないスピードでロケットスタート。異常発達した後ろ脚で地面を抉りながら飛び立ち、巨大半人半蠍に向かっていく。


 技量と全体的な速度で負けているからこそユリンに後(おく)れをとっているだけで、巨大半人半蠍のフィジカルは今まで戦ってきた敵性MOBの中でも屈指。真正面からの衝突など絶対に避けたい悪手中の悪手。

 だが、メギドはその悪手を取った。


 ギチギチと身体を軋ませながら肩口を大きく捩り、振り下ろす前の予備動作の様にポールアックスを後ろに構えるメギド。


 接触。

 巨大半人半蠍は飛び掛かるが、その飛び掛かりを阻むはメギドから伸ばされた4本の鎌腕。非常に鋭利な鎌が素早く伸びて巨大半人半蠍を貫く。突き刺したのは肩関節と肘関節。重要な稼働域を一息で潰す。おまけに下半身の鋏で巨大半人半蠍の前脚もガッチリと掴んでいる。

 その状態から赤く発光する大楯。巨大半人半蠍は抵抗しようともがくが、時既に遅し。シールドバッシュ系のスキルで勢いを増した大楯がほぼ無防備な巨大半人半蠍の顔面にクリーンヒット。巨大半人半蠍の上半身が大きくのけ反る。

 頭部への強烈な衝撃によるほんの僅かなスタン。その僅かな間の無防備。空白を切り裂くように振り下ろされたのは、投石器の如く引き絞られたポールアックス。アックスが接触する寸前で巨大半人半蠍は頭を咄嗟に逸らすも、完全には間に合わない。脳天を逸れただけで顔から胴まで深々と切り裂かれ、赤いポリゴン片が激しく噴き出る。


『U゛OAAAAAAA!!』

 

 通常の生物であれば即死に近いダメージ。されど巨大半人半蠍は足掻く。強靭なフィジカルで関節を刺されようともそのままメギドに少しでもダメージを与える為に、スキルを使いながら突き進もうとする。

 少年漫画であれば、弱者が強者に一矢報いる激アツなシーンにも近い迫力。

 だが、現実の強者は容赦が無い。

 メギドは振り下ろしたポールアックスをそのまま構え直しながら、再度大楯のシールドバッシュ。

 突進系のスキルが衝突し、自動車同士が激突したような凄まじい衝撃音。仰け反る両者。ややメギドが押されたか。スキル込みの単純なフィジカルの押し合いとなると、巨大半人半蠍はメギドに競り勝つフィジカルを有している。

 が、戦闘とはフィジカル同士の押し合いで決まらない。

 仰け反りながらも、唸りを上げつつ突き上げられるポールアックス。スキルの影響で黒い光を放って輝く、長く鋭利な槍先。容赦の無い突きが、仰け反って無防備に正面に晒された巨大半人半蠍の腹部を勢いよく突き上げる。

 腹部からダムの如く溢れ出す赤いポリゴン片。

 腹部への強烈な衝撃に今度は身をくの字に曲げる巨大半人半蠍。


 それでもなお、死に至らない。至れない。

 巨大半人半蠍のフィジカルの強さは、高過ぎる生命力も含まれる。しかし、それは生き延びてこそ意味がある強さだ。

 先程の正面衝突の衝撃で関節から抜けた鎌腕。その鎌腕が引き絞られ、黒い光を纏いながら空気を裂く。首に二振り、心臓と先程貫いた部位に一振りずつ。全て急所。4連撃Critical。首はかっ飛び、上半身は致命的な崩壊。

 それでも尚、アンデッドはもがく。最後の一瞬まで。

 弱々しくも、それでも──────。

 そんな余韻など知ったことか言わんばかりにダメ押しで振るわれた、メギドの巨大な蠍鋏。下腹部にクリーンヒットした一撃によって巨大半人半蠍は最後の一撃すら阻まれ、肉体の全てが赤いポリゴン片の塊と置換されて爆散した。


『Grrrrrrrraaa!!』

 

 圧倒的なフィジカルを誇る、純粋なパワーファイタータイプの巨大半人半蠍。技量と搦め手でしかノート達ですら倒せなかったそれを、流れるようなコンボで瞬殺。

 メギドは歓喜の雄叫びを上げてポールアックスを無軌道に振り回していた。


 鮮烈過ぎる戦果にユリンはポカーンとして、ヌコォも思考がうまく纏まらない。

 だが、ただ1人、事前に大まかな性能を知っていて、結果をある程度予測していたノートだけは微妙な表情だった。


 メギドの咆哮により、周囲から集まってきた敵性MOB。ノートはメギドにそれらの迎撃を命令したが、暴風の如き勢いでその全てを単騎で返り討ちにした。


「強すぎる。これなら般若面蟷螂人とも1on1で相対できる強さはあるはず」


「うん…………ボクの存在意義が…………」


 ヌコォとユリンは忌憚のない正直な感想を言うが、ノートは少し苦々しい顔で首を横に振る。


「いや、コイツの常時運用は無理だ。種明かししちまうと、この異常な強さはメギドのとあるスキルと能力が奇跡的に噛み合ってるからだ。詳しく説明すると──────」


 メギドのアイデンティティ、中核とも言える1番の要素となるのが【狂戦士(バーサーカー)】。

 一般的なゲームでもメジャーな職種で、大体は防御力が低い代わりに通常攻撃ですら一般的な近接職の溜め技くらいの高火力を連発するキャラとして設定されやすい。ALLFOの狂戦士も例に漏れず、被ダメが増加する代わりに高火力を叩き出す職種となっている。

 その狂戦士の技能ツリーの中には、〔血戦狂喜〕というパッシブスキルがある。効果は『戦闘開始と同時にHPを自動消費し続ける代わり、全パラメータの大きなブースト』。相当ボコボコにされながらも敵を撃破しまくらない限り、まず習得しない地雷寄りのパッシブスキルだ。だが、メギドの場合は最初からこのスキルがアンロックされている。されてしまっている。そして一度でもアンロックされたスキルそのものを消去することは、基本的に不可能だ。

 本来であればメリットを与えつつも、恐怖心が麻痺していそうなプレイヤーを諌める役割も持っているのがこのスキルなのだが、このスキルと最高のシナジーを発揮するのがエクストラアドオンで習得している【辛狂復讐者】の能力だ。


 【辛狂復讐者】は、ただでさえ防御力が低くなっているメギドの被ダメージを引き上げてしまう凶悪なデメリットを持っている。その代わり、戦闘開始時点から減少したHPの量だけ、攻撃力がノンストップで上昇(・・・・・・・・・)し続ける。

 また、この能力の発動中は【激怒】の状態異常が悪化。知能により大きなデバフが入る代わりに、攻撃力に対して大きな倍率強化(・・・・)が発生する。


 それでいて、重戦士と守護戦士の顔も持ち合わせているので、下がっている防御力はある程度自前でカバー可能。尚且つ膨大なHPに加えて、強力な自動HP回復技能まで持ち合わせている。

 火力という観点だけで見れば、自分のHPというリソースを火力に効率よく変換して超高火力の攻撃を放つ非常に恐ろしい存在と言える。


 が、指揮によって運用する戦力という観点で見ると、非常に扱いづらい。

 まず一番の問題が、そのHP残量の不安定さ。

 折角の大きなHPも、たったの一撃で想定以上に被ダメージを受けていたり、更にはスキルによってセルフで削ったり自己回復したりする。その為、常に見張っていないと現状のHPがすぐに分からなくなる。

 加えて、【激怒】の状態異常によって指示が通らない。脳内で念じても、細かい指示はほぼ通らない。大声で直接指示を、それも犬に与える様なかなり大雑把な命令ではないと無視される。

 リアルタイムで細かく具体的な指示を出せば動くには動くが、臨機応変に動けない。与えた指示通りの動きをする。ニュアンスによる理解を殆どせず、直近の指示を第一優先に動く様は21世紀始めのAIを彷彿とさせる。


 更に問題となるのが、ペース配分。

 ノート達は「この後どれくらい長さ、頻度で戦うか」「異常事態に備えてどの技は温存しておき、どの技は普段使いするか」を取捨選択しながら戦闘をしている。一戦一戦持てるカード全てを使った全力投球をしているわけでは無い。

 しかし、メギドの場合は全てが全て、高校野球決勝戦の試合終盤のピッチャーも斯くやの全力投球。今出来る範疇で如何に相手に最大級のダメージを与えるか、という観点にしか頭にない。よって非常に高コストなスキルを惜しげもなく次々と使い続けて、とんでもない勢いでMPを消費する。極端に言えば、家に出没したゴキブリ一匹を殺すのに火炎放射器を持ち出しているようなものである。


 ユリン達が短距離走選手にも見紛うスピードでも走り続けられる長距離走選手なら、メギドは50m短距離走を繰り返して長距離走している短距離走選手なのだ。

 戦闘スタイルも常に肉を切らせて骨を木っ端微塵、と言った様相なので、傍から見ていて非常にヒヤヒヤする。アンデッドは死を恐れずにいつでも命令に忠実に戦う点が非常に心強いだが、メギドのようなタイプだと逆にその死を恐れなさすぎる特性が命知らずにしか見えなくて怖いのだ。

 となると、半人型決戦兵器的な運用がメインとなる。だが、少しでも連れ歩こうものなら手当たり次第にそこら中の敵に襲いかかってしまい、MP残量の管理が困難になる。

 トドメとなるのが、メリットのはずの桁外れの火力。

 大柄かつ大振りな攻撃を得意とするメギドに、「連携」の二文字は無い。となるとユリン達が合わせるしか無いのだが、万が一掠ったらそれだけでユリン達はアウトだ。ある程度安全と言っても、チェーンソーの周りで鬼ごっこなど誰もしたくないだろう。

 その上、メギドは常にソロ前提でスキル回しをする為、ユリン達にトドメを任せていい場面でも高コストスキルを発動して殴りかかり、コスパのコの字もない動きをしかねない。

 

「───────要するに、現在の俺達の基準で言えば桁外れに強い。代わりに単騎運用前提の決戦兵器過ぎるんだよ。これは1から相当教育しないとパーティープレイとしては0点に近い存在になるぞ」


「…………メリットとデメリットが極端」


「使い所を間違えると、むしろボクたちのパフォーマンスの方が下がっちゃうよねぇ」


 ユリンの目には、ポールアックス一本で5体を薙ぎ払うメギドの姿がくっきり焼きついていた。そんなメギドの一撃が紙装甲気味のユリンやヌコォにかすりでもしたらどうなるか。想像するのは容易かった。


「だな。だが、見ている限りスキルの使い方、戦況判断センスとか、短期的戦闘に関しては凄まじいセンスと能力を持っているのも確かだ。他にメリットを挙げるなら───────」


 デメリットばかりを論(あげつら)えば、とんでもないメギドは不良債権だ。

 一方で、その大きなデメリットを課せられるだけのメリットもある。


 まず、その強靭なフィジカル。

 巨大半人半蠍と正面衝突した時に競り負けた点だけを見ると、そこまで特筆するべきか?となるだろう。だが、メギドの推定ランクと巨大半人半蠍に大きなランク差があると考慮すれば、むしろ吹っ飛ばされなかった方がおかしい。極端な話、2tトラックに生身の状態で突っ込まれて、ちょっと後退りする程度で衝撃を抑え込んだようなものだ。


 また、職業編成もかなりバランスが取れている。

 凶悪な火力を叩き出す【狂戦士】。

 狂戦士で脆くなった防御力を補いつつ、重量武器への適性を引き上げてより大きなダメージを狙える【重戦士】。

 更に防御力とHPにブーストをかけ、大楯への適性を与える【守護戦士】。

 莫大なHPリソースを存分に使い、超火力を保証。更には重度の激怒を維持することで他精神系状態異常を退ける【辛狂復讐者】。

 プレイヤーという観点で見ても、何をしでかすかわからない高火力持ちの癖に、盾の扱いに長けるという厄介な編成だ。


 これだけでも十分だが、メギドはキメラタイプのアンデッド。ゾンビの如きタフネスさを持ち、武器も鎧もメギドの一部になっている為に武装の補修の必要もない。

 更には昆虫の使う技能も使うことができ、昆虫譲りの感覚の鋭さと、サイズに見合わぬパワーを発揮する。


 そもそも造形からしてズルだ。

 ポールアックス、大楯、鎌腕4本に蠍鋏2本。正面から挑んだ時点で8本腕と戦うのと同じ。刺突、切断、打撃が一本でこなせるポールアックスに、大楯の組み合わせだけでも非常に面倒なのに、正確無比な刺突と斬撃を可能とする4本の鎌腕。上ばかりに目線を向けていたら、成人男性を容易く掴める鋏で捕獲され、そのまま握り潰されるかあるいは鎌腕でバラバラか。

 手数の強さを遺憾なく発揮して、格上だろうがまず技を封じて一方的に敵を叩き続けることができる。


 では大型の宿命として、背後が完全にお留守か、と言えばそうでもない。リオックの頭部が背後を常に見張り、巨大な蠍の尾が敵の攻撃を弾き飛ばし、毒針のカウンターを入れる。

 下手に後ろからちょっかいを出そうとしようものなら、鋏腕を器用に活用して即座にクイックターン。ポールアックスによるアツい歓迎を受ける。

 

「──────はっきり言うと、ぶっつけ本番なら……俺たち3人がかりでガチ戦闘しても勝率は7割を切るだろうな。あと成長性がアンデッドのレベルじゃない。今の戦闘だけでスキルが10増えた」


 プレイヤーですら、1日の戦闘でスキルが10も増えることはほぼほぼない。それこそゲームを始めたての状態から余程ハードな連戦でもしない限りはない。

 ましてやアンデッド。アンデッドは召喚時点で基礎技能が充実している傾向がある。一方で成長性は全魔物の種族の中でも最下位争いをしている種族だ。

 タナトス達のような生産職なら、高い知能と無尽蔵の体力をバックに、質の高い経験を積み上げ続けることである程度ハンデを埋められる。だが、メギドのようにオートラン運用が不可能な戦闘職の場合はそうもいかない。アンデッドの成長性の低さが足を引っ張り、何も考えずに運用すると費用対効果のピークが召喚当初なんてことになりかねない。


 それが普通なのに、メギドは半日にも満たない戦闘でスキルを10も習得した。

 桁外れのポテンシャル。アンデッドという観点から見ても異質だからこそ、未知数且つ未整備の実力。

 常にフルパワーと言う欠点にも思える特性は、裏を返せば妥協がないということ。自分がその場で使用可能な手札全てを使って最大ダメージを貪欲に狙う戦闘スタイルは、極めて質の高い経験となってメギドにフィードバックされ、有用なスキルが次々と解放されていく。

 

「パラメータとして記載されていない部分も優秀なんだね。タナトスたちの内職技能全振りを戦闘技能全振りにした変更した結果が、メギドなのかなぁ……。だったら納得?」


「もう一体戦闘系を作る?」


 ヌコォはメギドの性能を鑑みてノートに提案するが、ノートは首を横に振る。


「いや、やめておこう。実はヌコォを迎えに行く途中で、俺らはとあるネームドNPCを討伐したんだ。『犯罪傭兵ギージャ』。そいつの持っていた───────」


 ギージャの所有していた武器【狂武乱双斧】。

 非常に強力な武装ではあったのだが、呪いも強過ぎてまともな運用が困難な代物。加えて、鑑定しても弾かれて内容を確認できない点があると言う不安要素満載。

 ビジュアル、性能、鑑定難易度から高レアなことはわかったが、倉庫の肥やしにしても仕方ないのでノートはメギド召喚の際に生贄として使ってしまった。


「んで、推測通り高レアの方が影響力の比重が高くなる。あの武器は相対的に高いレアリティを持ってたんだろうな。だから──────」

 

 祝天鍛冶鎚でゴヴニュが召喚されたように、高濃度の狂気を孕んだ武器によって、メギドは強力な狂戦士に化けた。

 推奨ランクを超えたジャイアントキリングを平気で成し遂げるのは、そのイレギュラーな武器が齎した莫大なポテンシャルがあってこそ。

 メギドの為に使えそうな武装は粗方吐き出した為、有り合わせで核となるようなアイテムもない状態で召喚しても、ラミアスケルトンのような微妙な結果になることは予測できる。


「──────ってことで、やるならもっと準備を整えてからだな。しばらくメギドのお守りで忙しいだろうし、焦る必要はない」


「死霊術師…………結構難しいけど楽しそう」


「ああ、俺も予想以上に楽しんでる」


 ノート達の視線の先には、ポールアックスを振り回して近寄ってきた敵に片っ端から襲いかかるメギドの姿が。

 3体の敵性MOB相手だろうが一歩も引かず、大ダメージを受けつつも一切怯まない。そして振るわれる横一閃。莫大な火力を誇る一撃に薙ぎ払われ、纏めて3体を殺害。

 メギドの勝鬨の咆哮が腐沈森に響き渡った。


◆


 

「よいしょー!」

「ヘーい。バッタービビってるー」

「メギド、〔ピーキーハウル〕発動後に顔面を大楯の〔クラッシュノック〕で引っ叩け!そこから鎌で首刺し、ポールアックスで〔ヘヴィスウィング〕!」


 メギドの初戦から暫し作戦会議。戦闘中のメギドの様子を観察し、今後の運用について検証を重ねたノート達。

 メギドを交えて何回か戦闘を繰り返し、ポジションの微調整。ある程度メギドの運用のクセが掴めたところで、彼等は遂に強敵に挑むことにした。

 それはノートとユリンにとっての因縁の相手、初めて死亡まで追い込まれた提灯鮟鱇型の魔物だ。


 改めて、腐沈森に棲息する提灯鮟鱇型の魔物についておさらいしよう。

 全長はどの個体でも15mオーバー。頭部の大きさだけでも縦横幅2mを超える。

 頭部は提灯鮟鱇。長い胴は百足。しかして脚部は全て亡者でできている。

 一見すると隙の多い肉体に見えるが、普段は地面を泥状にして地下に潜っている為にそもそも攻撃が当て難い。胴の横から突撃しても、亡者が抱き着いて全力で妨害してくる。下手に接近すると泥沼に脚を取られて詰む。加えて、その巨体からは考えられない敏捷性も有している。

 泥沼から先制の飛びかかりを回避できず、丸呑み。初手TheENDなんて初見殺しを平気でやってくる。


 だが、その厄介な特性も逆に利用できる。

 ノート達は提灯鮟鱇の潜伏地点を発見すると、そこから近い、木々ができる限り入り組んだ地点にトラップ各種を設置。石ころを投げ付けて泥沼から地上に釣り出したら、提灯鮟鱇をトラップ地点へ誘導。

 蛇のように長い肉体にとって、入り組んだ地点は鬼門。おまけにトラップを張りやすい。提灯鮟鱇はトラップに絡め取られ、泥潜りを封じられ、高い機動力も発揮できなくなる。

 無論、提灯鮟鱇は野盗ほどやわなフィジカルをしていない。激しくのたうち、トラップの粘糸に巻き込まれた樹木ごと根こそぎ振り解く。が、引き千切る為の時間は0にはできない。振り解く為に二手三手遅れる。そうなると厄介な能力の数々を使うまでに猶予ができる。

 その隙ができれば、メギドを突撃させることができる。


 因みに、半人型決戦兵器であるメギドを最も適切に運用するには、という難題については『メギドの戦闘スタイルが安定するまで、ノートが1から10までリアルタイムで指示を出し続けてFFや暴走のリスクを徹底して抑える』という身も蓋も無い解決案が採用された。

 その為、ノートの負担は激増。ユリンやヌコォの位置取りを計算しながらメギドにリアルタイムで指示を出し、更には無詠唱で簡易召喚を行い、魔法によるデバフから攻撃までをこなし続けるという鬼畜モードとなっていた。

 言うなれば、数十もボタンのあるコントローラーでラジコンロボットを操作しつつ、バスケをしているようなものである。


 だが、その負担を強いるだけの成果はあった。

 5m級の半人型異形種と巨大なホラーモンスターの激突は、まるで小規模な大怪獣決戦。

 ユリン達は攻撃に混じって粘糸による足止めを続け、提灯鮟鱇の突進と逃走を封じる。逃げ道を失った提灯鮟鱇は、正面から戦うしかない。

 泥沼化は飛び抜けて厄介だが、裏を返すと他に飛び道具がない。人間程度なら丸のみできる捕食攻撃も、5mも背丈があるメギドでは無意味。相性最悪だ。


 ノートが囮として召喚した死霊に捕食攻撃を行おうと飛び掛かる提灯鮟鱇。そこに割り込む形で再召喚されたメギドが咆哮しながら真正面からのシールドバッシュ。防火壁の如く分厚い大楯と巨大な頭が衝突。ゴゥオンと大鐘を撞いたような重い金属音が響き、思わずのけぞる提灯鮟鱇。その首を鎌で刺し、捕らえ、ポールアックスの薙ぎ払いで顔面の半分をざっくりと切断。

 頭部への集中攻撃により、僅かにダウンが発生する。

 

「よっしゃ、ダウンし(ピヨっ)た!《ブラックブラッドパワー》!メギド、頭部へ全力攻撃!ユリン達も胴部分を!」


 ぐったりと地面に崩れ落ちる提灯鮟鱇。

 それを見るや否やノートは即座にメギドにバフを飛ばし、細かな操作を放棄。ユリンとヌコォにもバフ魔法をかける。


「オッケー!〔戦舞・暗襲九斬双翼〕!」

「了解────〔エナジーイーター〕」

「《ダルスライト》!」


 続けてノートが使用したのは、相手がダウンや気絶、スタンなど行動不能系の状態異常に陥った時、状態異常からの自然回復を妨害する魔法。これにより、状態異常に罹る時間が延長される。

 この魔法は発動に必要なMPは一定だが、相手が状態異常から回復するまでは継続して魔法をかけ続けることができる。この継続時に消費されていくMPは、対象が自分よりも強いほどマッハで減る。

 だが、リターンは非常に大きい。

 ダウンによって数秒間無防備な相手をフルボッコにできるのだ。そのボーナスタイムを数秒でも延長することができると考えれば、如何程の価値があるのかは考えるまでもない。


 ポールアックス、鎌、鋏、大楯と使える手札を全て使い、狂ったような勢いで頭部へ怒涛の大技ラッシュをするメギド。

 ユリンはユニークスキルを使って突貫。脚代わりの亡者の抱き着き攻撃を華麗に回避。カウンターでズパズパ切断。脚を切り落として機動力を削げるだけ削ぐ。

 ヌコォはメギドの背を蹴上がりながら、猛毒を塗ったナイフで首を突き刺す。大きく減るHP。同時にスキルを発動。提灯鮟鱇のHPとMPが凄まじい勢いで削られていく。


 この猛攻でもタフな提灯鮟鱇を殺しきることはできなかったが、提灯鮟鱇はHPに加えてMPを削られ、脚まで切られたので立て直しをすることもできなかった。

 そのままじわじわと追い詰められ、最後には上空から全力で頭頂部への刺突をしたユリンの攻撃がCriticalヒット。

 提灯鮟鱇の巨大な体は赤いポリゴン片に変換され、爆散した。 


 

◆


 

「いやぁ、ダメだねぇ。糸玉とかのトラップをすごい使っちゃったし、かなり無理な戦い方してたから武器の耐久値もゴリゴリ削れるね」


「ポーション系もかなり使った。ランクは上がったけど、少し割に合わない」


 提灯鮟鱇戦を終えて、ストーンサークルに戻ってきたユリン達。彼等は自分のインベントリなどを見ながら今回の戦闘の総評をする。


「メギドの力を借りてもかなりきつい戦いだったな。だがドロップ品は大型だからか多いし、今までにない系統の魂の属性を複数も持っているぞ。死霊術師的には一回だけでも倒しておいて損はなかった、と言っておこう」


 ALLFOの魔物からのドロップは、一体につき複数のドロップ品を入手することも珍しくない。討伐した魔物のサイズが大きければ大きいほど、一度に得られるドロップ品の数も増えていく。その点でいえば、今回提灯鮟鱇から得られたドロップ品は13。過去最高の数だ。

 加えて、死霊術師【特】にとっては「一度でも倒したことがある」という実績が重要だ。

 一つでも魂を取得すれば、死霊として召喚可能になる。加えて、その魂と既に倒したことのある敵性MOBとシナジーがある死霊の召喚もアンロックされていく。メトカーフの法則の如く、倒した敵性MOBの種類が多いほどに一度のアンロック数が増える。その敵が強大であればあるほど、今までにない特性を持っていれば持っているほど、有用な死霊が一気に解放されるのだ。

  

「なら、溜飲も少しは下がるかなぁ?でもノート兄がメギドのフルコントロールをしていると、デバフとインスタント召喚が減っちゃうし、メギドを中心に立ち回りを考えないといけないからこっちも戦いづらいね」


「うん、ノート兄さんのクールタイム無しというチート性能が宝の持ち腐れ。メギドをさっさと進化させて知能を上げるべきそうすべき」


 メギドをコントロールしながらサポートも攻撃もするという人間離れした動きをしていたノートだが、それでもメギド無しの状態と比較するとサポートのクオリティは落ちる。

 特に、ノートはMP消費に目を瞑れば魔法を連発し続けられる強力無比な特性がある。そのポテンシャルの発揮率を下げてしまうのなら、メギドをさっさと単独運用可能な路線に育てるべき、というのは最もな指摘だ。

 

「うーん、進化先をいくつか見ているが、一番簡単な奴でも希少種の脳味噌50個を要求されるぞ。しかも、一定以上のクオリティの脳味噌だ。今のメギドを知能を上げる方向で進化させようとしたら────」


 必要となる希少種の脳味噌の数はより多く求められる。また、それに加えて、一定以上の知性を持つ脳味噌が要求される。人型系の脳味噌が理想的なのだが、そうなると深霊禁山のラミア、アラクネか、あるいは腐沈森の半人型系の希少種を狙うしかない。

 そうなると始まるは地獄の周回。希少種は通常個体よりもフィジカルなどが強力なことを考えれば、より困難な道のりと予想される。

 

「────とまぁ、焦っても意味ねぇってことだな」 

 

「やはりメギドはまだ決戦兵器としてしか運用できない。しかも、戦いやすいフィールドに誘い込みをしないといけない。色々と問題点は多い」


 “デカい”ことはシンプルな強さだが、樹木の入り組んだ場所に誘い込まれて提灯鮟鱇は機動力を削ぎ落とされた。これはメギドにも当然言える。大きくて大振りな攻撃をするメギドには、一定以上の大きさのフィールドが必要だ。十分なスペースが無ければポテンシャルを十分に発揮できない。小回りが利いて場所を選ばないユリンとヌコォからすると、考えることが一つ増えてしまう。

 

「でもよ、メギドのお陰で腐沈森もある程度は攻略できんじゃないか?バルちゃんは腐沈森のことあまり好きじゃなそうだけど、腐沈森の探索は進めたいんだよな。単なる勘だが、なーんかきな臭ぇ」

 

「菌に呑まれてたけど集落もあったよね。アテナの召喚に使った絡繰時計とかもそこで拾ったけど、まだ集落全部を調べられてないからね」


「口触手ゾンビの強化系みたいなの出てきたからな、まだ集落入口付近での撤退は痛かった」


 当時の探索の様子を共有すべく、ヌコォにプレイログを見せるユリン。

 ヌコォは映像を見てしばらく考え込んだが、バルちゃんの助力があれば安定して探索は可能だと思う、と呟いた。

 そこで急に運営から通知が来て、ちょうど皆でメニュー画面をいじっていたこともあってか3人とも通知内容を確認する。


「『PL(プレイヤー)【スピリタス】がユニーククエスト『修羅道悪鬼喧嘩祭り』を受理しました』…………か。ユニーククエストをもう発生させたのか。スピリタスとはまた面白いプレイヤーネームだな」


「スピリタスって何だっけ?」


「22世紀現在までずっと世界で一番アルコール度数の高いお酒。これのすごいところは────」


 製品としては原型が誕生したのは20世紀初頭、場所はポーランド。正式名称はもっと長いが、日本ではスピリタスと言えば通じる。

 種類としては穀物から作るウォッカなのだが、70回以上の蒸留を繰り返してアルコール度数約96%をマークする。

 世界で一番アルコール度数が高いお酒なのも当然だ。

 水とエタノールの混合液は、蒸留を重ねてエタノール濃度が約95.6%に達すると共沸(きょうふつ)と呼ばれる状態になる。この共沸状態に到達すると、水とアルコールが同じ割合で蒸発するようになる為、通常の蒸留技術ではこれ以上濃度を高めることができない。

 よって、96度が物理的な限界値となるのだ。


 当然、そのまま飲むことは非推奨。通常はフルーツを漬け込んで果実酒の元にしたり(アルコール濃度が高いほど果実の味がよく溶けだす)、カクテルに用いたりする。もし飲めば、喉から胃まで粘膜が炎症を起こすほどに刺激が強い。一気飲みなどしようものなら即座に急性アルコール中毒で意識を失い、目を覚ましたら呆れた目をした閻魔大王様と対面することになる。

 また、言うまでもなく火気厳禁。静電気ですら発火するほどの引火性を持つ。 この酒瓶にハンカチを差し込んで、火をつけて投げれば簡単に火炎瓶を作れてしまうくらいには危険なお酒である。

 

「────まぁ、著作権関係でプレイヤーネームをブロックすることがあるALLFOで問題なく使えてるってことは、ポーランド語の読みってことでOKが出たんだろうな」 


「どういうこと?」


「『精製アルコール』って言葉自体が、ポーランド語では『スピリタス』って訳されるからな」 


 ある意味、精製アルコール中の精製アルコール。

 なんでそんなお酒を、とか、なんで兄(にぃ)はこんなこと知ってるんだろう、という疑問がユリンの脳裏に過るが、ふと何かが引っ掛かる。 

 

「そんな危険なお酒の名前で『修羅道悪鬼喧嘩祭り』って…………プレイヤーの感じがもうどことなく…………(ん? 待って、お酒? 喧嘩?……いや、でも……まさか…………まさかねぇ…………)」


 そこでユリンの脳裏に1人の人物の姿が浮かび上がるが、すぐに「ないない」と首を横に振る。

 ノートとユリンが初めてVRMMO系ゲームを始めて一番最初に深く交流を持った、一度会えばそうそう忘れない、強烈なインパクトのある人物を、ユリンは思い出していた。


「ユニーククエスト…………確か発生条件不明のクエストで、難易度はかなり高いと運営は発表していた。その代わり、クリアすると特殊な職業が選べるようになったりとリターンも大きいクエスト、とも発表していた」


「『修羅道悪鬼喧嘩祭り』って何すれば出てくるクエストなんだよ。強烈なクエスト名だよな」


「報酬が気になる。知りたい」


「俺たちもユニーククエストを発生させられる時が来るのかな?」


「ユニーククエストは大概NPCから与えられる。私達では難しいと思う」


 ノート達はほとんど世捨て人状態だ。まともな人型NPCと接触する機会自体が存在しない。 

 気長にやるしかない、とヌコォは冷静な意見。

 それもそうだな、とノートは答え、3人は改めて提灯鮟鱇戦の見直しを始めるのだった。


お詫びにNo.30も今日中に投稿します(血涙)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「菌に呑まれてたけど集落もあったよね。アテナの召喚に使った絡繰時計もそこで拾ったけど、まだ集落全部調べられてないからね」 アテナの技能に最上級が多いのってこいつのせいですかね? それと…
[気になる点] ブラッディメアリーも桜吹雪も酒じゃ…
[良い点] 設定多すぎ。しゅき。設定廚にはご褒美。 [気になる点] メギド?1話飛ばしてね?ホラ早く28話も投稿するんだよ
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