No.19 バルちゃん公認
ゲリラ投稿は何度でも
「ふぅ…………漸くここまできたね」
「長かったなぁ、まったく」
「それは主人らが途中途中でレアモンスターだレア素材だなんだと突発的に馬車から降りて歩みを止めたからであろう?」
「「ぐうの音もでない」」
野盗を全滅させた後、満足げな表情でミニホームに帰還した2人。
タナトスに手厚くもてなされ少々休憩したのちにヌコォを迎えに行くために再出発。長い長い森を馬車で通過していくのだが、バルバリッチャの指摘通りレアMOBやレア採取ポイントを見つけようものなら迷いなく突撃するノートとユリンのせいでペースは遅れに遅れ、森を抜けて、次のエリアの林のエリアを抜けて、漸くサードシティがメニューの簡易マップに表示される草原まで来るのにゲーム内時間で延べ6時間もかかっていた。
実際の移動だけでも楽しくガンガン時間を消費するのはVR故の罠だろう。バルバリッチャは心底呆れた表情で戦利品を確認し喜んでいるノートとユリンを見ていた。
「おっ、2つ通知が来てるな。1つはアイテム自販機にサードシティの商品も追加されたこと、もう一個は、こごみからだな。ゲーム内じゃなくて普通のメッセージだ。『ログインしますた』だってさ。メッセージ受信は現実時間では20分前だな。だからどっかに…………」
「あれではないのか?」
御者台から立ち上がりキョロキョロとあたりを見渡すノート。そのノートの肩に手を乗せて身を乗り出すと、バルバリッチャがある方向を指差す。
「あそこよりただならぬ悪しき気配を感じる。主の言葉が真実であれば間違いないだろう」
そこにいたのは6人のプレイヤー。前日からログインしてるのか装備もだいぶ整っており動きも良い。だがそのプレイヤーはたった1匹の敵……ではなく、中学生くらいの背丈の1人のプレイヤーにいいようにされていた。
「クソォ!さっきからちょこまかと!」
「その変なスキルをヤメロォ!」
「ただのガキンチョが調子乗ってんなよぉ!」
「そのガキンチョに一方的にやられているおっさん達はダサい」
「んだとぉ!?」
平坦な声の煽りは、特段大きな声ではなかった。だがそれはやけにハッキリとノート達に聞こえ、ノートは嬉しそうに笑い、ユリンは盛大に舌打ちした。
その後もおっさん達を翻弄していたプレイヤー側の有利は揺らがず、危なげなく6人全員をポリゴン片に変えた。そしてノートの魔法で隠蔽状態で見えないはずの幽霊馬車にそのプレイヤーは慎重に近づいてきた。
「んじゃ、俺迎えに行ってくる」
幽霊馬車は乗車している間は馬車だけでなく乗車している者達も見えない。無論、敵性MOBは匂いなどで看破してきたりするが、人相手だと相当接近しない限り気づけない。
だが馬車から降りれば効果範囲からズレるわけで、馬車から急に降りるといきなり人が現れたように見えるのだ。それはそのプレイヤーも例外ではなく、突如として現れたノートに即座にビクッと震えて身構えるが、「俺だよ、俺」とノートが言うと「大昔の詐欺?」と返しながらも構えを解いた。
「よっす、こご……じゃない、『ヌコォ』。相変わらずのPK技術だな」
「おっすー、ノート兄さん。さっきはビックリした」
「でも表情が一切変わらないあたりやっぱりヌコォだよな」
「私の表情筋は強化生体用シリコン製。歪まないのに自然という素晴らしい素材でできている」
「うん、それ昔の豊胸用の奴だよな。ま、らしいと言えばらしい挨拶だ。ようこそ、ALLFOへ、とでも言おうか?」
「うん、とってもエンジョイしている。暇だったから手始めにさっきの含めて22人PK済み」
そういう彼女は極めて無表情だが、長い付き合いのノートはこれでもこごみ、もといヌコォのテンションがとても高いことがわかる。
「あいかわらず極端だなぁ、オイ。ALLFOは楽しいか?」
「うん、第四世代よりも反応速度が現実と変わりないから凄いストレスフリー。予定通りの動きができる」
「さよか、とりま俺のパーティーに入ってちょうだいな。本格的な話はそっからで」
隠蔽系の魔法などはパーティーメンバーには影響がない仕様なのがALLFO。だがFFはあるという謎仕様である。
ヌコォはパーティー登録した瞬間にノートの横に忽然と現れた馬車に驚き、きゅうりを後ろに置かれた猫のように反射的に飛び退く。
「あははは、敵じゃないよ。俺の召喚死霊、幽霊馬車だよ。ほら、乗って乗って」
先に荷台に足をかけたノートの手をとり、ヌコォが荷台に乗り込むと二対の視線からジッと見つめられる。
「ユリンはいいとして、バルちゃんは初だよな。バルちゃん、こっちは俺の親族のヌコォだ」
「よろしく、バルちゃん。あとユリン、久しぶり」
挨拶されたもののユリンはプイっと顔を背け、バルバリッチャは新顔に近づくとジーっと見つめる。そしてヌコォも一切動揺せずジーっと見つめ返す。どちらもノートから既にお互いの特徴などを聞いているため双方色々紹介したりとかはないし、ノートがちょっとストレートな物言いが多いが大めに見てくれ、と何度も頭を下げたので初対面からバルちゃん呼びもスルーした。だがそれでも気になるところがバルバリッチャにはあったらしい。
「…………ホムンクルスではないのだな?」
全く表情の変化しないヌコォの頬をプニプニ突っつくバルバリッチャ。
ヌコォはそれに動じず、お返しと言わんばかりに逆にバルバリッチャの頬を突っつく。
「スベスベツヤツヤ、綺麗」
バルバリッチャはそこでノートに目を向けると…………
「この娘、主人の話よりももっと変ではないか?」
「いや、うん、バルちゃんには悪いけど、慣れてくれ」
NPCにすら初対面で変人認定される可愛い妹分である従妹に、ノートは思わず溜息をついてしまうのだった。
◆
「改めてよろしく、私はヌコォ。猫の里の生まれ」
「猫の里……?」
「バルちゃん、わかりにくいけどヌコォは流れるようにジョークを言うからいちいち真に受けないでくれ」
荷台の中の座席ではなく、そこに座るノートの脚の間の床に座るヌコォは、ノートの脚に挟まれ頬をグニグニと圧迫されるがまったく退こうとしない。
「説明面倒だからステータスと装備を見せる。質問は受け付ける」
ポカンとするバルバリッチャをよそに、メニューをいじりヌコォはステータスと装備のスクショをノートとユリンに送る。
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名前:ヌコォ(ΦωΦ)
種族:マーキュリーペラスゴイ(固定)
ランク:1
性質:極悪(固定)
正職業
❶超盗略奪者(固定):H
❷冒涜者:Ⅰ
❸
副職業
❶曲芸師:H
HP:16/17
MP:12/27
筋力:Ⅰ
体力:H
敏捷:G
器用:F
物耐:Ⅰ
魔耐:Ⅰ
精神:Ⅰ
称号:
忌むべき者
盗みの悪子
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装備
・反屈の湾刀
・大盗賊の装束
・ピックポケットグローブ(籠手)
・冥迷の方位磁針(ネックレス)
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「装備は上限額ぶっこんでマーキュリーペラスゴイ限定で購入できる奴全部買った。反屈の湾刀は通常攻撃力は0、一方で物理攻撃も魔法攻撃も超シビアだけどタイミングさえ合わせれば一定量反射できる。大盗賊の装束は感知系無効化・足音無しなど盗みの為の技能が上昇する効果がついてる。
ピックポケットグローブは、触った相手の持ち物を一定確率で奪える籠手。防御力はないけどかなり便利。冥迷の方位磁針は、欲しいアイテムの位置を大まかに教えてくれる方位磁針。だけど使用時にHPとMPを消費する。探知範囲を広げるほどHPとMPは消費する」
「ガチガチの盗賊系か、職業はどんなだ?」
「超盗略奪者は盗賊系の極み。盗めないものはほぼない。相手のHPやMPでさえ略奪できる。装備しているアイテムでさえ運が良ければ強引に盗める。盗まれた側は激おこだけど。ステータスも一定時間盗めるから面白いよ」
「チートかよ。冒涜者は?」
「犯罪行為時のステータスが上がりやすくなる常時発動型スキルを始めとして、犯罪者系統のスキルを習得できる。超盗略奪者との相性は抜群。曲芸師はアクロバットな行動ができるようになる。非戦闘系の副職業の中でも戦闘を有利にする職業。結構面白い」
「順番が逆になったけど、私の特典は種族の『マーキュリーペラスゴイ』。天性の盗みの才能と他分野における高い才能がある種族。あと基礎能力値が高い。実は見た目もちょっと違う。腕には薄っすら蛇の鱗、足の踝近くに羽がある」
「何だそりゃ、よくわからないな」
ノートはそれがなんなのかわからず首を傾げるが、ヌコォはスラスラと答える。
「多分、この種族はモデルがいる。マーキュリーはギリシア神話の盗神ヘルメスを表す。ヘルメスはケリュケイオンという蛇の杖と翼の生えたサンダルを履いている。それと最初から課金して買うことのできるアイテムの増加、職業超盗略奪者も初期特典。恐らくノート兄さんやユリンと違って私の初期特典はリソースが多分野に割かれている」
「ああ、成る程ね。でも実際どう戦闘するのかはもっと見ておきたいな。ユリン、俺はヌコォに付き添ってちょっと戦闘を見させてもらうから、その間にバルちゃんとプレイヤー狩りしてPLの魂を集めてもらえないか?」
「…………行ってくる。バルちゃん援護お願い」
むくれたユリンは飛び出すように馬車から出て行く。バルバリッチャは「そういうことならば」と楽しそうにユリンの後を追って馬車から降りた。
「これで息抜きしてくれればいいけど」
「ユリンは拗ねても長引かない。他のPLは尊い犠牲となったのだ」
その後、まったりとヌコォの戦闘を見てノートがその戦闘スタイルを確認している間、盗賊団の団長のつけていた仮面を装備したユリンとバルバリッチャは憂さ晴らしを決行し、多くのPLに恐怖を植え付け、運営側に悲鳴をあげさせ、某主任が直接通信を行い控えてもらう事態になるのだったが、そんな事態になってることはノートは全く知らずにいるのだった。