No.18 野盗殲滅作戦終結
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「うわぁ〜…………エグいね、やっぱり」
「アテナ様様だな。ユニーク個体だからこそ生み出せる“斬幽微糸”。ピアノ線以上の斬れ味なのにゴースト系の名残で物理では容易に破壊できない上に半透明で見辛いときてる」
「でも聖属性の魔法で壊れちゃうからそこが難点だけど、悪側の野盗に聖属性持ちなんている訳ないもんね」
ユリンが侵入前にせっせと仕掛けていたのは、件の斬幽微糸を使った柵型トラップである。感知能力などが高い動物系敵性MOBでさえ、一気に追い込めば引っかかってしまう凶悪な罠だ。それをただの野盗程度が気付ける訳もない。
“丘の上”からその一部始終を見ていたユリンとノートは、トラップに対し冷静に評価を下す。
種明かしをするとなんということもない。
ノートは手始めに北側に移動しておき、バーサークファングスケルトンを4体召喚。森の中で伏せて待機させておく。
一方ユリン。
兇手故に対感知系スキルを自前で使用できるユリンが、さらにノートの魔法で隠蔽性能を強化し、ノートのいる場所とは真反対の南側で小規模な騒ぎを起こす。
使うのは糸玉トラップ。これにより一つの出入り口を封じる。
これが第一段階。
そしてその騒動を合図に、可能な限り丘の近くまで接近し、隠蔽状態で待機していたノートがスケルトンを召喚。
ノートは職業上、魔法による後付けはともかく、ユリンの様な潜伏能力を獲得できない。が、ノートにはバルバリッチャメイドのチート装備がある。バルバリッチャのコートは、動きがない限り装備した者を隠蔽状態にする。無論、ダメ押しで自分自身で呪魔法を使い対感知性能を底上げ。
これにより物理、スキル、魔法、どの経路からもノートを知覚する事が不可能になる。
ここまで来たら第一関門は突破したに等しい。
ユリンの襲撃とスケルトンの大量召喚で注意が大きく削がれた瞬間を見計らい、慎重に丘を登る。
人間の心理として、外から敵が攻め込んできた場合、その指揮官も襲撃部隊の後方にいると思い込みやすい。まさか既に丘の近くで待機しているとは考えない。故にこそ、スケルトンを倒して前進。振り返る事なく基地の外へ外へ向かっていく。
NPCが人間の様に頭を使って動くからこそ、逆にノートの作戦は刺さる。
適当なナイフを斜面に突き立て、それを支えにしながらノートは丘をよじ登っていく。ここまできたら第二関門は突破。すぐに胡座をかいて大きく身動きしなければ、バルバリッチャのチート装備の効果が発動して再びノートは発見不可能状態になる。
あとは丘とその周囲を一望できる特等席から、適当に死霊を召喚するだけでいい。
犬ゾンビの動きを正確に把握できていたのも、丘の上にいたお陰である。
野盗NPCはとても人間らしい思考ルーチンを持つが故に、ノートが木の影にいると思い込み、いもしない術師を必死になって探す羽目になっていた。
なお、ユリンは南側に糸のトラップを仕掛けていたが、基地内部に侵入した後は中で伝令役を暗殺して回り、犬ゾンビとラミアの侵入を確認した後に東と西にも同様の糸壁と斬糸の二重トラップを仕掛け、タナトス謹製の毒ガスもばら撒いて出入り口に近づけなくしていた。
あとは概ねご存じの通り。
ノートの指示で動くアンデッド達に追い立てられた盗賊達は、南口を強引に突破して脱出を試みる。
が、ここでも人間の心理を悪用する。
人は何か一つハードルを乗り越えると、次のハードルへの注意が疎かになる。火などで粘着糸壁を突破したら、もう何も障害物はないと思い込む。
脱出経路が開けたら、当然ラミアに襲われて後がない後続は前を押し、先頭はロクに確認もせず死の罠に突撃して御陀仏という訳である。
さてここから残りをどう調理するか。
ラミアが予想以上に奮戦し、野盗達を凄まじい勢いで殲滅している。進めば見えない糸による切断、下がればラミア。ラミアに押し込まれ、ところてんの様に分割されて野盗が次々と死んでいく。
だが、こんな簡単に終わるわけがないとノート達は確信していた。でなければバルバリッチャはあの様な態度にならない。
ノートとユリンが次に備えて素早く情報共有していると、南口に向かわせたラミアが、最終的に残った野盗全てを自分諸共糸へ押し込み、相打ちという形で消滅したことにノートは気付く。
おそらくボスがいるだろう中央部まで侵入したもう一体のラミアは、少し止まった後、なにかを追いかけるように北側へ向かうが──────こちらも途中で反応が消失した。
ノートがその事実を伝えるとユリンは素早く立ち上がり即座に臨戦体制に。
暫くすると、北口の窪みから数人の野盗が現れる。
他の野盗とデザインが明らかに違い、見るからに重要人物達。
丘から滑空したユリンは逃走しようとする彼等の背後に一直線に突っ込んでいき───────
「〔フリューゲルマーダー〕!」
完璧に決まったユニークスキルは一度に6人を凶刃の餌食とし、ポリゴン片へと変換した。勢い余って地面に墜落しそうなところを飛行状態継続のまま腕のバネで地面を押し返し、変則ロンダート(体をひねりながらヘッドスプリング)。
スキル範囲からギリギリ逃れた2人の野盗の前に華麗に着地する。
「みーっけ!」
ニコッと笑うユリンは、信仰篤い坊さんですらクラッときそうなほど可愛らしい笑みを浮かべている。が、直前の行動と持っている武器が大変可愛らしくない。
「くそっ、てめえが襲撃者か!ただのガキじゃねえか!」
逃れたうちの1人は、大まかな姿形はゴリゴリマッチョな通常の野盗と変わりない。だが体格が一回り大きい上に、ほぼ半裸やボロ服を纏う程度の他の野盗とは違い、立派な鎖帷子を着込み指輪やネックレスなどをつけている。どれも髑髏型で気味が悪いが、ノートが遠くから鑑定してみると呪系のアイテムだった。
その中でも目立つのは頭部。他の野盗が顔に被っていたのが穴をあけた無地の覆面マスクのようなボロ布だったのに比べて、その野盗は黒光りするホッケーマスクをつけていた。
武器も見るからにレベルが違う。一般野盗達が錆びついた武器を装備していたのに対し、黒紫色のエフェクトを帯びた大曲刀。毒と呪いを感じさせるオーラだ。
一目見て只者ではないとわかる風貌である。
だが、その野盗よりもさらに強そうな者がユリンの前に歩み出る。
世紀末にいそうな、棘だらけの極厚革ジャンというパンクパンクした服装。頭は黒いヘルメットのようなものでガードされており、血色の悪そうな目元しか見えない。
手に持つ両刃斧は、刃の部分が異様に大きく、暫く放置された静脈血の如く赤黒い。その刀身を包むは、見るからにやばそうな紫色のオーラ。オーラが炎の様に揺らめき、男の腕にまで巻き付いている。
鑑定の結果、詳しい性能は不明だがこちらも呪系の武具と判明した。
「ユリン、斧持ちは野盗じゃなく傭兵だ!『犯罪傭兵ギージャ』だ!んで、ホッケーマスクは『盗賊団【黒土竜】の長』だ!どっちも殺してもいいが、弱くはないぞ!」
「なっ!?なんだテメェ!?」
いきなり聞こえた声にギョッとして後ろを見上げる団長。その視線の先には丘の上に佇む死人の様な男。
だが、団長の声もノートも届かないほど、ギージャはユリンだけを見つめていた。フー、フーと荒い息を吐き出し、目は真っ赤に見えるほど血走っていた。
ここは一つ連携を組まなければと、団長が咄嗟にギージャに声をかけるが既に時遅し。
「うぉおらぁぁあ!!」
ギージャは御馳走にむしゃぶりつくように、咆哮しながらユリンに飛びかかる。
まるでプラスチックの軽いバットでも振り回すように軽々しく振られる大斧。迎え撃つは漆黒の双剣。激しい斬り合いの火蓋が切られた。
お互い一歩も引かない斬り合い。
団長はギージャに加勢すべきか、それとも弱そうなキモい見た目の推定死霊術師を叩くべきか、チラチラとギージャとノートの間に視線を彷徨わせる。
それを見てニヤリと嗤うノート。お尻をぺんぺんと叩き、あっかんべー、とクソガキのように挑発する。途端、瞬間湯沸かし器の如く団長の顔が真っ赤になる。
火事場の馬鹿力か。ブチ切れて言葉にならない怒声をあげながら、団長は丘を飛ぶ様な勢いで駆け上がってきた。
「このクソ野郎が!!!俺の装備は魔法が効かねえ特別製!その格好からしててめえがネクロマンサー!召喚もこれだけやればすぐには発動しねえはずだ!ギージャなんか必要ねぇ!誰がテメェなんか!メイジタイプのテメェなんざ怖かねえ!野ァ郎、ぶっ殺してやるぁ!!!!」
団長はハイテンションで突っ込んでくるが、ノートは動揺することなくただただ微笑むのみ。そこには下品な挑発をした気配など欠片もない。
そこにあるのは、勝利する為には容易にプライドを捨てる策略家の目。物を物と思わぬ冷徹な視線のまま、スッと手を前に出す。
「残念、俺はただの死霊術師じゃなくて、“特”付きの死霊術師なんだよ」
MPを過剰消費することにより詠唱破棄。クールタイムという概念のないノートは即座にスケルトンチャリオットを5体召喚。
スケルトンチャリオットは障害物が一切ない、緩やかな傾斜のある丘では勢いがつく。つまり絶好のコンディション。ドドドドドドドと一気に加速し、ノーブレーキで団長に突っ込んでいく。
「なっ!?ひぃぃぃぃ!やめてくれ!俺が悪かった!俺は懸賞金かかってるから街まで連れてけば賞金が──────」
盗賊の親玉というだけあってか、彼は実力差を即座に悟る程度には賢かった。嘘と真実を織り交ぜ、プレイヤーを罠に嵌めるだけの知性があった。そのあまりにもシームレスな命乞いは、野盗としてのお手本の様なプライドの無さだった。
しかし、アンデッドにとって謝罪など塵程も価値も無い。
「ぐぎゃ!?や、やめ────!!」
スケルトンチャリオットは躊躇いなく団長を轢いた。骨馬が蹴り、砕き、踏み躙る。最後に車輪が丁寧に轢き潰す。
「まっ、死にたく─────!!」
追い討ちをかけるように、吹っ飛ばされた団長の上を他4機がわざわざ通過していき、団長は無残にも一瞬でポリゴン片になった。
「俺、街に入れないからその提案は意味ないんだよね」
ノートは最後にそう呟くと、無駄なMP消費をなくすためにスケルトンチャリオットを消した。
◆
ハイテンションに雄叫びを上げながら、遮二無二斧を振り回し続けるギージャ。
対するユリンは至って冷静。50回以上に及ぶ大斧の暴風雨を、剣すら使う事なく潜り抜ける。最初は少し大きめに余裕をとって行われた回避が洗練されていき、やがて足の位置すら変えず、最小限の動きだけで回避する。
「へひゃっ、フャハハハ!羽虫みたいにヒラヒラしやがって!風が吹けば飛びそうだなぁオイッ!グァハハハ!」
そんなユリンを挑発し嘲笑するギージャ。
ユリンが「おっけー、もう“見えた”」と小さく呟いたのは、まさにそのタイミングだった。
あまりに静かな呟きに虚を突かれたのか、ギージャの動きがほんの僅かに鈍る。
僅かな晴れ間。俄かに和らぐ雨。
その一瞬が、致命的な隙となった。
「〔斬要───」
ユリンの姿が掻き消えたと思った刹那、疾風と共にスパンッと何かを切断する音がする。
次の瞬間にギージャが目にしたのは、斧を持つ左腕が肘から切断され、地面に転がり落ちる光景。
部位切断。
Criticalは当然として、これ以上になく完璧に刃筋を立て、武器による最終計算攻撃値が対象部位の耐久値を大きく上回らないとこの判定は発生しない。動きが鈍り、腕が伸び切った状態でほんの一瞬静止した絶妙なタイミング。強力なスキルを乗せた刃は関節に深々と食い込み一太刀で丸太のように太い腕を断ち切る。
両刃斧が強制的に装備解除扱いになった刹那、呪いの斧のバフが解除される。
理性を蒸発させる事で得ていた剛力も、常人離れした頑強な肉体も、瞬く間に消え失せる。呪いとは、自らに縛りを課す事で力を得る技術でもある。裏を返せば、縛りを保てなくなれば、『必ず両手で装備する』という制約を破れば、呪いから与えられた力が問答無用で剥奪される。
ギージャは肉体の強化と引き換えに、失っていた理性を急速に取り戻していく。
ここで攻撃を止めれば、慈悲深いヒーローで終われたのかもしれない。が、ユリンはそんな甘くない。双剣には、一度の攻勢で2回斬りつける機会がある。
腕を落とした一撃は、単なる準備。
「─────疾双〕!」
振るわれたもう一本の剣は、呆然と立ち尽くしたギージャの首を情け容赦なく的確に切り飛ばし、ギージャはその体をポリゴン片へと変えて爆散した。
威力とスタミナは申し分なかった。掠っただけでも紙装甲のユリンには致命的だった。その攻撃を間断なく続けられる点は、厄介だった。
だが、それだけだった。
一見滅茶苦茶に見えるが、連続して斧を振るには技術が必要だ。そして技術がある以上、そこには必ず理がある。理があるなら、先が読める。
大斧しか使わないなら、ユリンにとって何も怖く無い。
ど素人の滅茶苦茶な振り回しより、半端に技術のある奴の方が捌き易い。
「割と楽しかったけど、まだまだだね」
そう呟くと、ユリンは双剣を腰に納刀した。
◆
「いやぁー、うまうまだね、今回は」
「野盗って殺しても結構な懸賞金が貰えるんだな。街に生きたまんま連れてくと2倍の額が出るらしいが、十分うまうまな金額だ」
「本拠地の中のアイテムも全部ゲットだもんね。元が盗品だから街に届けると性質アップしたり追加報酬あるみたいだけど、金で買えない物が多いボク達には現物の方がありがたいよねぇ」
団長とギージャを討伐後、なんとかノート達から逃げようとしていた野盗全てを無事殲滅したユリンとノート。
丘の内部は蟻の巣を横にしたような構造で、ところどころ入り組んでおり、トラップも設置されていた。インスタントのアンデッドを突っ込ませて全部漢解除。中の物資も根こそぎゲットした。
因みに、漢解除とは専門の技能などを使わず、フィジカルなどに任せて罠などを突破してしまう古から脈々と受け継がれし技術である。
どんな命乞いにも一切耳を貸さず、悉く血祭りに挙げたノートとユリン。そんな彼等の今回の戦果がこちら。
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ボロの服×183
錆びた剣×32
錆びた槍×9
鉄の剣×12
鎖帷子×7
鉄の槍×6
被りのホロ×10
魔法使いの杖×5
魔法使いのローブ×7
閃光弾×3
盗狐の尾帯×1
潜黒のブーメラン×1
静兎のブーツ×1
黄毒の投げナイフ(1ダース)×1
牙返しの盾×1
ダークゴールドサーティーンマスク×1
初級ライフポーション×32
初級マナポーション×16
干し肉(1グレートグロス)×1
硬いパン(1グレートグロス)×1
※1グレートグロス=12^3=1728
腐った固いパン×47
宝石細工(I級)×42
宝石細工(H級)×37
宝石細工(G級)×21
宝石細工(F級)×6
宝石細工(E級)×2
宝石細工(D級)×1
10,000MON入った袋×20
討伐賞金計715,000MON
殲滅特別報酬1,000,000MON
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「大儲けだよねぇ。だけどもらいすぎな気もしない?」
かなりの大金をゲットしたことに喜ぶ反面、その報酬の多さに思わず首を傾げるユリン。
ノートは、いちいち仕草が可愛いユリンの頭をぐしゃぐしゃと撫で、それから解説する。
「いや、俺たちを基準に考えるなよ。一番雑魚でもランク3くらいはあったはずだ。もし適正ランク帯でこの規模の敵を全員相手にしようとすると、当然レイド戦になる」
レベル&ターン制RPGであれば、Lv20くらい開いていればイージーモード。1ターン目で先制を取って範囲攻撃、完勝!で終わる。
しかしVRの場合はそんな簡単な話ではない。例えばLv1を『果物ナイフを装備した小学校1年生』、Lv20を『真剣を装備し、剣道の防具をつけた軍人』としよう。
1対1なら、余程の事がない限り軍人が勝つのは誰でもわかる。
が、小学生が10人いたら?
果たして軍人は無傷で勝ち切れるか。
よしんば勝ったとしても、ダメージは蓄積される。その状態で次の10人と戦ったら?
たかが小学生、されど小学生である。1人が脚に抱きついただけで、20kgオーバーの重りを装着されるに等しい。その1人を引き離している間に、一斉にナイフを突き立てられたら?
あるいはナイフを一斉に投げつけられたら?
ALLFOには急所の概念がある。たとえ待ち針でも、目玉や首に刺されれば危険だ。ランク差があっても急所を叩けば勝利可能なロマンがあるが、それは敵からしても同じなのだ。
更に懸念となるのがスタミナ。
RPGの中のキャラはどんなに戦闘をしても息一つ切らさないが、VRの場合は体力が減っていく。身体が徐々に重くなっていく。
例え10人を無傷で撃退しても、体力リソースは確実に削られる。
1対多では、1の側が即座に広範囲を薙ぎ払えるコスパの良い攻撃札を持っていない限り、あっという間に劣勢へ追い込まれる。
故に、ランク差があるとしても100以上の集団を相手するなら、攻め込む側も同じ頭数が欲しい。
「中に立てこもられたらFFが怖くて魔法使いは使い物にならない。そんでもって丘の中に残っていた50そこらの野盗程度でも、フィールド相性を加味してランク換算したら、野盗1人でもランク5前後はあっただろうな」
加えて、今回の場合は攻城戦擬きになる可能性もあった。そうなると広範囲に攻撃が撃てる魔法使いの需要が高まるが、丘の秘密基地は入り組んでいて狭く、広範囲を薙ぎ払えない。
攻城戦は、守る側に対して攻める側は3倍の数が必要と言われる。
ALLFOはランクの概念により個々人の強さの振れ幅が大きい。だとしても、もし真正面から攻めるなら防衛側の1.5倍の頭数は最低でも欲しいところだ。
「幹部級っぽい奴らはユリンが一撃で葬り去ったからわからないが、団長はかなりHP多かったし、ギージャに至ってはランク8か9くらいあっただろうな。まあ、団長は少し肩透かしだったが…………………」
ノートは軽く片付けたが、本来は団長も強敵だった。
第一関門となるのがプレッシャー。
敵対者にプレッシャーをかけるパッシブを持っており、精神力対抗で敗北すれば身体が思う様に動かなくなる。
第二関門。対人戦の場合、パラメータが大きく向上する。敵に接近すればするほど、それが人であるほど、殺せば殺すほどパラメータが指数関数的に上昇する。
第三関門。強力な魔法耐久力。同ランク帯の魔法使いの放った魔法なら、威力を半分程度まで減衰してしまう。
第四関門。時間経過するごとに強化されていく回復力。手こずるほど目に見えてHPが回復されていき、幾らダメージを与えても一向に倒れてくれない。どころか1人でも味方を殺されてしまえばパラメータが強化されて余計に手がつけられなくなる。
間違いなく、親玉に相応しい能力だった。
が、色々と噛み合わなさ過ぎた。
まず襲撃開始時点での団長の位置。彼は基地のど真ん中の専用の部屋にいた。
続けて南口から襲撃が始まり、彼は迎撃の指揮を執ろうとする。だが今度は真逆の方向からスケルトン軍団が襲来する。彼は基地の中を無駄にウロウロしてしまう。
これにより戦闘開始判定が起きず、仮面による強化が起きないまま。ようやく襲いかかってきたと思いきや、来たのは犬ゾンビとラミアスケルトン。どちらも人ではない。
ユリンも一応内部には侵入していたが、挟み撃ちを経過して中央には近寄らない形で移動をしたので不幸にも遭遇せず。ノートは丘の上にいたが、こちらも絶妙に距離があって仮面の効果が発揮されない。
そのまま不幸にもユリンの奇襲まで一度もまともに人間の敵とバッティングできず、時間経過で強くなっていくコンセプトのボスにも関わらず殆ど強化されないまま戦闘に突入してしまった。
その後の流れも最悪だった。
挑発で乗せておきながら、団長が食いつくや否や冷静にスケルトンチャリオットを横一列に展開して一気に突撃させるノートの大人気ない迎撃。
深霊禁山のラミアはチャリオットをどついて倒していたが、あれは側面から不意打ちで思い切りタックルしたが故だ。
こと正面からの突撃にかけては、チャリオットの強さは群を抜く。そのチャリオットを並べて一気に突撃させる事で、側面に回り込もうとしても無理な状態にしてしまう。
正面から衝突を選んだとて、自分を蹴り飛ばし踏み躙らんとしてくる骨馬を仮に倒しても、速度の乗った車体はそのまま突っ込んでくるのだ。詰みである。
車に置き換えればわかりやすい。時速60km以上出ている車がぶつかる瞬間、運転手を殺してもエンジンを破壊しても、車体はそのまま突っ込んでくるのだ。
つまり、一撃で馬を車ごと吹っ飛ばしでもしない限り死神と熱い抱擁する事になる。
もし団長がリーチの長い広範囲高火力攻撃を持っていたら?
確かにチャリオットは倒されていたかもしれない。だがノートはその可能性は低いと見ていた。
ユリンが襲撃を行い、ギージャがユリンに襲いかかったあの瞬間。団長はどちらから倒すべきかユリンとノートを見比べていた。
もし自分が加勢すれば確実にユリンを倒せるなら、団長は迷いなくユリンを倒しに行ったはずだ。だが、あの時はギージャが大斧を振り回していて連携が困難だった。
だから手を出しにくかった、と判断できる。
そしてNPCが人間らしいからこそ、細部の反応にも意味がある。
団長がどちらから倒すか迷っていた時、体の向きはユリンに向いていなかった。武器も碌に構えていなかった。
もしギージャを巻き込む可能性があるために迷ったのなら、タイミングを見計らうために臨戦態勢を取るのが自然だ。
また、近づけなくても飛び道具があればユリンに攻撃することもできたはずだ。しかしそれもしなかった。
つまり、団長はリーチの長い攻撃や、広範囲を叩く攻撃が苦手と推理できる。
それは挑発に乗って愚直に走って接近を仕掛けてきた時点でノートの中で確信に近いものになる。
普通はノートの様な見るからに後衛職と1on1をするなら、何かしら投げつけて牽制するのが自然だ。それもしなければ、ご丁寧に「俺には魔法が効かない!」と自己紹介までしてくれる。
これだけの材料が揃えば、団長が近距離では滅法強い純物理型と推測できる。
なら自ずと使うカードは限られる。ノートからすればむしろアレだけでさっくり殺せてしまったのは、予想の範疇でも1番ドベなレベルだった。
やたらと素早く命乞いに切り替えてきたが、団長は一体何を考えていたのか。ついぞそこまではノートも予想できなかった。
「特にギージャは厄介だ。動物系敵性MOBばかりだったところにフェイントかけてくるから、普通のプレイヤーなら大苦戦必至だ。呪いの斧のお陰で同ランク帯の魔法も効かないしな。舐めてかかって皆殺しなんて事になっても驚かないね」
一方ギージャ。
こちらは団長の様な相性ゲーで踏み躙られたりしない、技術に基づいた戦闘巧者だ。
なんと言ってもまずハードルとなるのが、視覚的威圧感。目元しか見えず、荒い息。2mを超える筋骨隆々の肉体。ファンタジーに振り切れていないからこそ、リアルな恐怖がプレイヤーに沸き起こる。
続いて大斧。一目で危険とわかる見た目の両刃の大斧などどうしても意識を引きつけられる。こんな武器を積極的に使ってくる存在も少なく、プレイヤーの脳内に具体的な対処方法が浮かばない。
この斧が、普通の剣の様な速度で軽々と振るわれるのだ。余計にプレイヤーは焦る。
その上で、ギージャは普通にフェイントも使う。スキルを使った攻撃も得意だ。野盗如きで「対人慣れした」なんて寝言を言っているプレイヤーを容赦なく叩き起こす。
ランク差はあくまで基礎的なパラメータの話。そこに技量は計上されていない。プレイヤーが技量で格上を倒し得るなら、敵も技量を用いてより圧倒的な力を振るい、プレイヤーに絶望を味合わせる事だって可能なのだ。
もしユリンでもなければ、最初の接敵で半端に斧をガードして見事に吹っ飛ばされて体勢を崩され、二撃でバッサリと装備ごと身体を断たれてジ・エンドだ。
耐えたところで、次に始まるのはスキルを駆使した悪辣なフェイント。筋肉ダルマのビジュアルからは想像できない様な細やかな技量でプレイヤーを翻弄し、隙をこじ開けてくる。
敏捷特化故に、速度だけはギリギリギージャともユリンは渡り合っていた。だが、ランク的にユリンは全てに於いて不利だった。パラメータだけ比較して賭けでもしたら1対30くらいの差がつく不利だった。
されど積み上げた技量が違う。潜り抜けた修羅場の数が違う。自分より速い攻撃でも、先読みで回避する。
フェイントはギージャだけの専売特許ではない。回避にもコツがある。次の攻撃を予測しやすく避け方をして、敵の取る手を自然と絞らせる。誘導する。
スキルは確かにリアルの挙動では考えられない様な動きも可能とするが、いきなりワープしたりするわけでもないのだ。フェイントとて、読み切れるならむしろ相手はフェイントの分だけ無駄な動作をした事になる。
そうして少しずつギージャの底力を丸裸にして、回避だけしているにも関わらずギージャをジワジワと追い詰める。
追い詰めて追い詰めて、底が見えたらあとは一撃で。
強敵を倒すのに毎度毎度ドラマチックな鍔迫り合いはいらない。人は刺せば死ぬのだから。碌に狙いも付けず、引き絞りもせず、弓矢でまぐれ当たりを狙うのは素人のする事。
数を撃たずとも、狙いを定め、よく引き絞れば放った矢は一発で的を射抜くのだ。
団長と比べ、ギージャは広範囲殲滅技も持っていた。
まさに人型レイドボスのお手本。たった1人で容易く倒せる敵ではない。
ギージャは決して弱くなかった。
ユリンが強過ぎたのだ。
「懸賞金の内訳も、ギージャ単体で30万だ。普通のレイド戦でやってクリアしても、装備をぶっ壊されたりしてたら下手すれば大赤字だ。なんせ雑魚野盗は懸賞金もドロップもショボいからな。完全攻略しなきゃ報酬も分配で、全員仲良く赤字だ。本来美味しくない類のやつだと思うぞ、この討伐戦。1人でも取り逃せば殲滅特別報酬もないし」
ALLFOでは常に武具の損耗やアイテムの消費にも気を配る必要がある。投資に見合った成果が得られるか考えて動かなければすぐにジリ貧だ。
また、ノート達が手早く出入り口を塞ぎつつ電撃作戦で殲滅した為に目撃できなかったが、野盗達は本来形勢不利と判断すると金目の物を勝手に基地から持ち出して遁走する。
そこに一切のプライドはない。まさに命あっての物種と言わんばかりに見事な逃走をする。
その為、利益確保をする為に野盗を追いかける必要があり、ここで下手に欲に駆られたやつが陣形を崩したりすると連携が破綻して、勝てる戦にも勝てなくなったりする。
故に、このクエストは金稼ぎが本題なのではなく、悪性のNPCを倒す事による性質アップなどが本来の目的なのではないか、とノートは締めくくった。
「なるほどね〜。今回ボク達ってなんか消費したっけ?」
「大きい消費でいえばラミアスケルトン召喚の時の生贄の消費だが、それは置いておくなら、俺はマナポを5本飲んだな。あとはNPCの寄贈だし、ダメージもないから、消費らしい消費がない。ユリンだと双剣の消耗を除けば、投げナイフを消耗した程度。アテナ様様だよ、マジで」
「うん、この2つのトラップアイテムかなり強力だよね。タナトスの毒瓶も、毒自体は強くないけど煙が広がるから効果範囲が広いし、相手の動揺を大きく誘えたね。東と西の封鎖にはかなり役立ったよ」
「ユリンの剣もタナトスに整備してもらえば修復できる程度だし、本当にほぼ丸儲けだな」
「そうだねぇ。ほんとにアテナ様様だねぇ」
「んで、話をアイテムに戻すが、気になるのがこれ」
ノートはそう言うとドロップアイテム一覧から二つの武器を取り出した。
一つは盗賊団長が持っていた毒を帯びた曲刀。
そしてもう一つはギージャの持っていた狂武乱双斧。
どちらも禍々しい呪いのオーラを纏っている。
その二つを地面に置き、ノートは手をかざす。
「──────〔鑑定〕」
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【黄怨毒の大曲刀】
マスタードカラーの濁った黄色の光を反射する鈍い黄色の刀身を持つ曲刀。
【分類】
>大曲刀
【効果】
>常時毒攻撃
>累積腐蝕攻撃
>衝撃緩和【微】
>パリィ成功率上昇【微】
>毒耐性向上【微】
>斬味持続率上昇【小】
【呪縛】
>装備時、HPが常時1%ずつ減少
>耐性対抗に勝利できない場合、自身も当武装の毒を受ける
>精神汚染
>肉体腐蝕
【製作者】
>不明
【解説】
盗賊団【黒土竜】の団長が装備していた呪いの武具。
毒と腐蝕の力を持ち、常人なら死んでしまうような呪縛がかけられている。団長はこの呪縛をマスクの力で相殺していた。
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【狂武乱双斧】
赤黒いオーラを纏う、巨大な両刃斧。柄頭に円を重ねたような不思議な模様、柄には銘のようなものが刻まれているが、既に判別できない。
【分類】
>両手両刃大斧
【効果】
>筋力強化【大】
>物耐強化【大】
>魔耐強化【大】
>恐慌耐性上昇率【大】
>痛覚軽減
>技量補整率【超特大】
>自動修復
>▇▇▇▇▇▇▇▇
【呪縛】
>狂化
>両手装備時のみ肉体強化
>理性低下率【大】
>敵視認時、強制戦闘
>戦闘終了まで装備解除不可
>▇▇▇▇▇▇▇▇
【製作者】
>不明
【補足】
『犯罪傭兵ギージャ』の装備していた呪われた武器。非常に強力な効果を持つが、装備者の心が強くなければ心を喰われ、人格を破壊され、斧の操り人形とされてしまう。
修復が付いている為に詳しい製作時期も不明だが、少なくとも数百年以上前の代物である。
適性の有る者しか装備を許さず、もし強引に装備を試みれば強力な呪縛が装備者を襲うだろう。
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「うわぁ……」
「強いには強い。だが呪いが重すぎる。特にこっちの斧はプレイヤー向けじゃないな」
「NPC専用装備って感じだね。精神を壊すとか、使わせる気があまり感じられないよ」
大曲刀も癖者だが、斧に至っては黒塗りの部分があったりと不穏な要素満載だ。ユリンは心無しか武器から距離を取った。
「だろうな。だが……裏を返せば、アンデッドならこの手の呪いはほぼ踏み倒せる」
「あっ」
ノートの指摘で、ユリンもすぐに気付いた。
死霊は理性を失っても問題ない。と言うより元々若干頭がおかしい。
毒も効きづらい。
HP自動減少も、召喚して戦わせるだけなら大した問題にはならない。
「つまり……」
「悪用し放題ってわけだな。そのまま使ってみてよし。あるいは────ああ、アレもいいな」
ノートはニヤリと笑った。
「呪い装備って普通はハズレ扱いだけど、俺達にはむしろ大当たりなんだよ。馬鹿もハサミも使いよう、だ」
「また変なビルド思いついてる……」
「否定はしない」
今回の攻略で予想以上に大量の報酬を獲得したノート達。
しかし、本当に価値があったのは金ではない。
普通のプレイヤーなら扱えない呪われた装備。
それこそが死霊術師という職業にとって、最高の財産だったのである。




