第4話:防犯カメラ
「佐藤くん、最近顔色が悪いね。……それに、大河原社長の件だけど、警察がまた君のこと聞いてたよ」
主任の木村が、ニヤニヤと嫌嫌な笑みを浮かべながら影一の肩を強く叩く。
「まさか君がやったわけじゃないよな? 鬼塚課長に続いて大河原社長まで……君に関わった奴が次々に死んでいくよ」
影一は何も言い返せなかった。
木村の声が遠く聞こえる。
(俺だ。やっぱり俺が殺している……)
夜、眠っている間に体が勝手に動き出し、憎い相手の元へ向かっている。
極限状態の脳が自分の意識を置き去りにして、殺人衝動を現実の行動に移しているのだ。
だが、信じたくない。
どこかで「自分ではない誰かの仕業であってほしい」という惨めな希望を捨てきれずにいた。
自分の部屋に戻った影一は、ガタガタと震える手でスマートフォンを準備した。
小型の三脚にスマホを固定し、ベッドと部屋の出入口(玄関へ続くドア)がしっかりと映る位置に設置する。
動画の撮影ボタンを押し、画角を確認した。
(俺が夜中に部屋を出ていかなければ……俺の犯行じゃないことが証明できる。もし、出ていこうとしたら……)
影一は念のため、玄関の鍵を厳重にかけ、チェーンロックまでしっかりと締めた。
すでに3日以上の不眠。精神も肉体も限界を迎えていた影一は、ベッドに横たわると数秒で深い闇へと引きずり込まれた。
――夢の中。
影一は、またしても会社の中にいた。
目の前に立っているのは、嘲笑を浮かべた木村主任だ。
「おい佐藤、お前みたいな能無しはさっさと死ねよ」
影一の胸の奥から、ド黒い殺意が渦を巻いて噴出する。影一は近くにあった裁断機から巨大な押し切り刃を取り外し、木村の首筋めがけて思い切り振り下ろした。
肉を断ち切り、骨を砕く重い手応え。噴出する鮮血が影一の顔を赤く染める。木村の生首が床を転がり、絶命した。
「はっ……!!」
激しい汗とともに影一は目を覚ました。
時計を見ると、午前5時半。外はうっすらと白み始めている。
影一は弾かれたようにベッドから飛び起き、設置しておいたスマホへ駆け寄った。録画を止め、動画を再生する。
画面の中で、自分がベッドに入り、しばらく静かに眠っている姿が映し出されている。
(頼む……動かないでくれ……!)
願いも虚しく、深夜2時を過ぎた頃、画面の中の影一がゆっくりと体を起こした。
カメラのレンズを、焦点の定まらない虚ろな目で見つめる。その表情には何の感情もなく、まるで精巧な人形のようだった。
画面の中の影一は無言でベッドを抜け出すと、キッチンへ向かい、包丁を手に取った。
そして、迷いのない手つきで玄関の鍵とチェーンを解除し、夜の静けさの中へ消えていった。
そして午前4時過ぎ、服に黒ずんだ染みをつけた影一が部屋に戻り、包丁を綺麗に洗ってから再びベッドに入る姿がバッチリと記録されていた。
「あ……あああ……っ!」
影一はスマホを床に落とした。
絶望が全身を叩き潰す。
夢じゃない。
自分は、自分の手で人を殺していた。
その時、テレビのニュースからアナウンサーの引きつった声が流れてきた。
『本日午前3時頃、市内の住宅街にて、会社員の木村氏が首を鋭利な刃物で切断され、死亡しているのが発見されました――』
画面には、顔を歪めて倒れる木村主任の現場が映し出されていた。
影一は喉をかきむしりながら、床に崩れ落ちた。
次はいよいよ、このブラック企業の元凶である「社長」だ。夢の中で、すでに社長を殺すイメージが爆発しそうになっていた。
「止めなきゃ……俺を、止めなきゃ……!」
恐怖に狂いそうになりながら、影一は最後の手を打つ決意をした。




