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時効  作者: Patriot


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15/16

長期休暇

オフィス。


パソコンのキーボードを叩く音だけが、静かにフロアへ響いていた。


窓の外を、路面電車がゆっくりと通り過ぎる。


カン、カン、カン――。


踏切の警報音。


ひろは、ふと手を止めた。


この音が嫌いだった。


なぜか耳に残る。


本当に鳴っているのか。


それとも、自分にしか聞こえない幻聴なのか。


その境界が、少しずつ曖昧になっていく。


それが怖かった。


ひろは立ち上がり、給湯室へ向かう。


紙コップにコーヒーを注ぎながら、小さく息を吐く。


「何してんだろ。」


苦笑が漏れた。


早く事件を解決したい自分がいる。


その一方で。


事件を解決したところで、何になる。


ケースケは、もう帰ってこない。


そんな自分もいた。


ふっと笑う。


それでも。


頭に浮かぶのは、一つだけだった。


ケースケのクラスの扉を蹴り飛ばした、あの日。


夢の中で。


ただ静かに。


微笑んでくれた。


――その笑顔だけが、どうしても忘れられなかった。



羽田空港第一ターミナル。


スマホでオンラインチェックインを済ませ、保安検査場を抜ける。


首から下げたスマホのストラップにも、すっかり慣れてしまった。


最初は邪魔だと思っていた。


今では、むしろ使いやすいとさえ感じている。


あれから何度も夢を見た。


しかし、夢は一日ずつ進むだけ。


ダイちゃんとケースケ。


中央公園で遊び。


日が暮れ、それぞれ家へ帰る。


そんな穏やかな夢が、何日も続いていた。


大きな手掛かりは何もない。


だからこそ、ひろは決断した。


有給を取り、実家へ帰る。


そんな理由で会社を休めるはずがない。


そう思っていた。


だが、申請は驚くほどあっさり通った。


上司は書類に目を通すと、一言だけ告げた。


「ゆっくり休め。」


それだけだった。


その言葉を聞いた瞬間、鈴木さんに言われた一言が頭をよぎる。


『顔、怖いよ。』


あの時は笑ってごまかした。


でも、今なら分かる。


自分は思っていた以上に、追い詰められていた。


搭乗案内が流れる。


ひろは機内へ乗り込み、自分の座席へ腰を下ろした。


窓の外では、整備車両が忙しなく行き交っている。


シートベルトを締め、深く息を吐く。


長いフライトになる。


少しでも眠って、時間を潰そう。


ひろはゆっくりと目を閉じた。

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