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エーテルコード:サイドストーリー  作者: エトコッコ
メルの日常

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「メルのラーメン」


とある日の昼。


午前中のパトロールを終えた光井は、オルフェへ帰還していた。


現在、ファクターズはトレーニングに集中するため、通常の巡回や警戒任務は訓練生が担当している。


だが——ここ最近は、驚くほど平穏な日々が続いていた。


(……平和すぎるのも、それはそれで怖いんだよな)


光井も、他の訓練生も、どこか同じ不安を抱きつつ日々を過ごしていた。



(午後からは特に予定ないし……久々に外でメシでも食うかな)


光井がそんなことを考えながら歩いていると、後ろからひょいっと声が飛んできた。


「光井じゃん。なにしてんのー?」


振り向くと、そこにはメルがいた。


「あー、外にメシ食い行こうかなーって考えてて……」


すると、メルの目がぱぁっと輝く。


「えっ!!どこ行くの!?」


「いや、まだ決めてないけど……」


そう言った瞬間、メルはずいっと距離を詰めてきた。


「メルも連れてってよー!」


期待に満ちた目で見上げてくる。


メルは現在、保護観察中の立場ではあるものの、職員や関係者が同行する形であれば外出自体は許可されていた。


「まぁ、いいけど……」


そう答えた瞬間——


「やったぁ♡」


メルはぴょんぴょん飛び跳ねながら喜び始めた。



「ちなみに、メルは何が食べたい?」


歩きながら、光井は何気なく聞いた。


「えっとねー、ラーメン!」


満面の笑みで答えるメル。


「ラーメンか……」


その瞬間、光井の目がキラリと光った。


「——ズバリ、たくさん食べたいかい?」


「うん!」


メルは元気よく頷いた。


すると光井は、ふっと不敵な笑みを浮かべる。


「よぉし……では、このグルメマスターが、とっておきの場所に連れて行ってやろう」


「おぉ〜!」


メルは素直に目を輝かせた。


こうして、(自称)グルメマスターとメルは、とあるラーメン屋へ向かうことになった。



光井の運転するエレカに乗り、目的地へ向かっていた。


昼下がりの街並みを抜け、オルフェからおよそ15分ほど走る。


やがて少し離れた場所にある駐車場へエレカを停め、そこから徒歩で5分。


目的の店は、細い路地の先にあった。


“ラーメン五九ごっぐ”。


年季の入ったのれんに、そう書かれていた。


すでに昼のピークは過ぎている時間帯だったが、それでも店の前には5人ほどの列ができている。


それを見た光井は、どこか嬉しそうに口を開いた。


「お、今日は空いてるなー」


その言葉から、普段はさらに長蛇の列ができていることが容易に想像できる。


「えぇ〜、並ぶの〜?」


メルは露骨に不満そうな声を漏らす。


「まぁまぁ。これでも今日はかなり少ない方だし、すぐ回ってくるって」


「むぅ」


メルは頬を膨らませつつも、結局は大人しく光井の隣へ並んだ。



そして、待つこと10分。


ようやくメルと光井の順番が回ってきた。


年季の入ったカウンター席に座る2人。


すると、店主が光井の顔を見るなり声をかけた。


「いつもの?」


「はい!」


光井は迷いなく答える。


その返事に、店主は慣れた様子で頷いたあと、ちらりとメルへ視線を向けた。


「……となりの嬢ちゃんは?」


「俺と同じで」


光井は真顔で言った。


その瞬間、店主の動きがぴたりと止まる。


「……そりゃ、いくらなんでも——」


店主はさすがに少し困ったような顔をした。


だが光井は、冗談を言っている様子もなく、真剣な表情のまま頷く。


「大丈夫です」


その妙な自信に、店主は少し黙り込む。


「……ま、兄ちゃんがそう言うなら」


そう呟くと、鍋の前へ戻り、ラーメンを作り始めた。



「おまち!五九ごっぐ盛り2丁!!」


店主が勢いよくカウンターへ置いた瞬間、器がわずかに揺れた。


目の前に現れたのは、まるで小さな山だった。


巨大な丼の中に極太麺が沈み、その上には山のように盛られた野菜。


さらに、分厚く切られたチャーシューが何枚も重なり、半熟卵が10個近く並んでいる。


その量は、軽く5人前を超えており、圧倒的な暴力感すら感じられた。


この店の名物——五九盛りラーメン。


普通サイズですら十分多いこの店において、五九盛りは完全に別格。


そもそも注文する客自体が少ない。


だが光井は、ここへ来るたび毎回これを注文していた。


しかも、10分前後で食べ切る。


その食べっぷりから、店主や常連客たちの間では、ちょっとした有名人になっていた。


初めて見る五九盛りに、さすがのメルも圧倒されているだろう——光井はそう思っていた。


だが——


「わぁ〜♡」


メルは、目をキラキラに輝かせていた。


そして次の瞬間——


「いただきまーす!!」


メルは凄まじい勢いで食べ始めた。



5分後。


光井がようやく半分ほどを食べ終えた頃。


「おかわり〜」


その一言に、光井は勢いよく隣を振り向いた。


メルの丼は、すでに空だった。


その光景に、光井の動きが完全に止まる。


そして、それは光井だけではない。


店主も、厨房スタッフも、周囲の客たちも——店内全体が、静まり返っていた。


それも無理はない。


五九盛りを5分で完食。


それだけでも前代未聞なのに、おかわり。


そんな客は、この店始まって以来1人もいなかった。


「お、おかわり……?」

「嘘だよな、嘘だよな?」

「あの身体のどこに入ってんだ……?」

「あの子、もしかして有名な人だったりする?」


店内がザワザワと騒ぎ始める。


一方、メル本人はまるで気にした様子もなく、空になった丼を店主へ差し出していた。


「い、いやメル……?おかわりって言ったって、俺、今日そんな金持ってきてないし——」


光井は焦りながら小声で言う。


するとメルは、きょとんとした顔で首を傾げた。


「アンタの分も出したげるから、いーでしょ?」


あまりにも軽い口調。


光井はしばらく固まり、それから恐る恐る店主の方を見る。


店主は無言のまま、静かにメルを見つめていた。


やがて——


ふっ、と口元を歪める。


「……五九盛り、もう1丁」



10分後。


ようやく光井が食べ終え、ふぅ……と息を吐く。


そして恐る恐る、隣へ視線を向ける。


メルは、丼を両手で持ち上げ、最後のスープを飲み干していた。


「ぷはぁ」


満足そうに息を吐き、カウンターへ器を置く。


当然のように、完食である。


どよめく店内。


気づけば、店の外にまで人だかりができている。


「メ、メル……?さすがにもう、いいよな?」


光井は若干引きつった顔で聞いた。


するとメルは、少し考えるように首を傾げる。


「ま、今日はここまででいいよ」


そんな中、店主がおそるおそるカウンター越しに近づいてくる。


「あ、あの……お嬢さん。お名前は?」


「メル!」


メルはいつもの調子で答えた。


「メルさん……サインとか、いただけますか?」


店主は神妙な顔で何度か頷く。


「サインなんて書いたことないよぉ」


「な、なら!写真撮ってもいいですか!?」


「いいよー」


あまりにも軽い返事だった。


店主は慌ててスマカを取り出し、メルと記念写真を撮る。


その顔は完全に少年のように輝いていた。


「あ、あのっ!この写真、お店に飾ってもいいですか!?」


「いいよー」


またしても軽くOKを出すメル。


店主は深々と頭を下げた。


もはや、完全にメルのファンになっていた。

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