表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エーテルコード:サイドストーリー  作者: エトコッコ
メルの日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/38

「メルのココア」


とある日の夜。


静かな心理ケア室には、メルの姿があった。


メルはイスに座ったまま、くるくると回転している。


すると扉が開き、アルが入ってきた。


その手には、湯気の立つピンク色のマグカップがあった。


甘いココアの香りが、ふわりと室内に広がる。


「お待たせしました。どうぞ」


アルはメルの前まで来ると、そっとマグカップを差し出した。


「お、サンキュー♪」


メルは嬉しそうに受け取り、そのままグイッと飲む。


「うまぁ!」


ぷはぁと満足そうに息を吐く。


「フフ、よかったです」


その様子を見て、アルは柔らかく微笑んだ。



「オルフェはどうですか?」


アルは柔らかな口調で問いかけた。


「ん〜?めっちゃ住みやすいよ〜」


メルはココアを飲みながら、気楽な調子で答える。


「それは何よりです」


アルは安心したように微笑んだ。


今、アルはメルのカウンセリングを行っている。


メルにとっては人生で初めて受けるものだった。


天華にいた頃は、身体検査や適性検査の類はいくらでも受けてきた。


だが、こうして誰かと向き合い、心について話をする時間など、一度もなかった。


もちろん、天華にも大規模な医療室は存在していたが、そこは常に張り詰めた空気が漂っており、こことはまるで雰囲気が違う。


——居心地がいい。


メルは、ぼんやりとそう思った。


それはこの部屋だけではなく、施設全体に対しても、同じことを感じていた。



「メルさんは、ここに来てから、ご自身の中で何か変化はありましたか?どんな些細なことでも構いません」


アルはメルの方へ身体を向け、穏やかな声で問いかけた。


「変化か……うーん」


メルはマグカップを両手で持ちながら、少し考え込む。


「——天華にいた頃はさ、任務以外の時間、ずっと部屋にこもってネトゲやってたんだよね」


「ここ来てからも、ネットでPC買ってさ、ネトゲやってたんだけど……なんか、前ほど楽しくなくなった」


「ちなみに、どんなゲームですか?」


アルが優しく尋ねる。


「KILL BREAKっていうFPSゲーム。知ってる?」


「そのゲーム自体はわかりませんが、FPSというジャンルは知っていますよ」


アルはにこりと微笑みながら返した。


「あとさ、メルって、なんかめちゃくちゃキュートアグレッション?ってやつで——」


「可愛いもの見ると、壊したくなるんだよね」


アルは特に驚いた様子も見せず、静かに耳を傾けている。


「だから、可愛いぬいぐるみとか買って、よくズタズタにしてたの」


メルは淡々と話す。


「で、ここ来てから、またぬいぐるみいっぱい買って部屋に置いてるんだけどさ」


「ひとつも、ズタズタにしてない」


「なるほど。ありがとうございます」


アルは静かに頷いた。


評価するでも、否定するでもなく——ただ、メルの変化を大切に受け止めるような、柔らかな声だった。



「今、メルさんは何をしている時が楽しいですか?」


アルは穏やかに問いかける。


メルは、マグカップを両手で包み込みながら、小さく唸っていた。


少し考えたあと、ぽつりと口を開く。


「……みのりとか、アンジュとか、せっちゃんたちと一緒にいると、楽しいなって思う」


昔の彼女なら、きっとこんな言葉は口にしなかっただろう。


「とても、いいことですね」


優しく返されたその言葉に、メルはなんとなく気恥ずかしくなり、誤魔化すようにマグカップを掲げた。


「ねぇ、おかわり!」


すっかり空になったマグカップを、アルへ差し出す。


「えぇ、もちろん」


アルはくすりと笑い、マグカップを受け取った。



その後も、2人はのんびりとした調子で会話を続けた。


好きな食べ物の話から、最近オルフェ内で流行っているもの、みのりたちの話——気づけば、あっという間に30分ほどが過ぎていた。


そして、メルのカウンセリングは終了する。


「メルさん、ご協力ありがとうございました」


アルは丁寧に頭を下げた。


「全然いいよー。ヒマだし」


メルは気楽な調子で答えた。


そして、ふと思い出したように目を輝かせた。


「あとさ!ココアめちゃくちゃ美味しかった!」


そう言って、メルはアルへ軽くウインクを飛ばす。


「また、いつでも飲みに来てください」


アルはふわりと微笑んだ。


「それって、建前ってやつ?」


メルはイタズラっぽく目を細めながら聞く。


するとアルは、笑顔で迷いなく答えた。


「いいえ、本音です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ